巨人の研究 -4-

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師匠シリーズ
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問題文

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(そんなむだにたかいれべるをもとめるのであれば、)

そんな無駄に高いレベルを求めるのであれば、

(こーちとしてちーむのていさいをととのえ、ほごしゃからおかねをあつめて、)

コーチとしてチームの体裁を整え、保護者からお金を集めて、

(ゆにふぉーむをつくり、きんりんのしょうねんやきゅうちーむにはなしをつけて)

ユニフォームを作り、近隣の少年野球チームに話をつけて

(れんしゅうじあいのひとつやふたつだんどってあげるのがすじだとおもうのだが。)

練習試合の一つや二つ段取ってあげるのが筋だと思うのだが。

(かのじょはそうしたことにはむとんちゃくで、ひとしきりしんたいをうごかすとそれにまんぞくして)

彼女はそうしたことには無頓着で、ひとしきり身体を動かすとそれに満足して

(「すこしきゅうけい」ではなく「あとはやっとけ」とかえってしまうのだ。)

「少し休憩」ではなく「あとはやっとけ」と帰ってしまうのだ。

(かんぜんにじこまんぞくである。)

完全に自己満足である。

(こどもたちはあるていどのじかんがまんしていれば、このへんなおねえさんはかえると)

子どもたちはある程度の時間我慢していれば、この変なお姉さんは帰ると

(わかっているので、くちごたえもせずにいやいやながらもしたがっているようだった。)

分かっているので、口答えもせずに嫌々ながらも従っているようだった。

(ぼくはなぜかもうしわけないきもちでぐらんどのほうへちかづいていった。)

僕はなぜか申し訳ない気持ちでグランドの方へ近づいていった。

(そのとき、ししょうのじてんしゃのかごにいっさつののーとがはいっているのにきがついて)

その時、師匠の自転車のカゴに一冊のノートが入っているのに気がついて

(あしをとめる。)

足を止める。

(のーと?)

ノート?

(ちかづいててにとると、それはどこにでもあるきゃんぱすのーとで、)

近づいて手に取ると、それはどこにでもあるキャンパスノートで、

(ひょうしには「きょじんのけんきゅう」とくろのまじっくでかいてある。)

表紙には「巨人の研究」と黒のマジックで書いてある。

(そんなにほんきかよ。)

そんなに本気かよ。

(ぷろやきゅうちーむのせんじゅつだかぎじゅつをしょうがくせいにたたきこむきか、とあきれてしまった。)

プロ野球チームの戦術だか技術を小学生に叩き込む気か、と呆れてしまった。

(「よおし、かなりうごきがよくなったぞ。もうかえるから、あとはやっとけよ」)

「よおし、かなり動きが良くなったぞ。もう帰るから、あとはやっとけよ」

(よくとおるこえでさわやかにそうつげると、ししょうはたおるであせをふいながら)

良く通る声で爽やかにそう告げると、師匠はタオルで汗を拭いながら

(こちらにひきあげてきた。「ぁしたー」という、)

こちらに引き上げてきた。「ぁしたー」という、

など

(いやにくうきょながっしょうがそのせなかをおいかける。)

嫌に空虚な合唱がその背中を追いかける。

(ふりかえりもせずにみぎてをひらひらとふってこたえるししょうは、)

振り返りもせずに右手をひらひらと振って応える師匠は、

(まえにぼくがたっているのにようやくきづいたようだ。)

前に僕が立っているのにようやく気付いたようだ。

(「どうした。おまえもやりたいのか」)

「どうした。お前もやりたいのか」

(「えんりょしておきます」)

「遠慮しておきます」

(ししょうはぼくのそばまでやってくると、じゃーじのつちぼこりをはらいながら、)

師匠は僕のそばまでやってくると、ジャージの土ぼこりを払いながら、

(はらへったとつぶやく。)

腹減ったとつぶやく。

(「ひる、まだですか」)

「昼、まだですか」

(「ああ。いっしょにくうか。いえにもらいもののそうめんがあるぞ」)

「ああ。一緒に食うか。家にもらいものの素麺があるぞ」

(かるくたべてきてはいたが、)

軽く食べてきてはいたが、

(せっかくのおさそいなのでおしょうばんにあずかることにする。)

せっかくのお誘いなので御相伴にあずかることにする。

(「それにしても、じゃいあんつのけんきゅうをするのはかってですけど、)

「それにしても、ジャイアンツの研究をするのは勝手ですけど、

(こどもでためすのはやめてくださいよ。そもそもきょじんふぁんでしたっけ?」)

子どもで試すのはやめてくださいよ。そもそも巨人ファンでしたっけ?」

(「なにいってんだ。こちとらこどものころからはんしんふぁんだけど・・・・・)

「なに言ってんだ。こちとら子どものころから阪神ファンだけど・・・・・

(って、ああ、これのことか」)

って、ああ、これのことか」

(ししょうはふきだしそうになりながらじてんしゃのかごからのーとをとりだした。)

師匠は吹き出しそうになりながら自転車のカゴからノートを取り出した。

(「きょじんって、じゃいあんつのことじゃないよ」)

「巨人って、ジャイアンツのことじゃないよ」

(わらいながらいう。)

笑いながら言う。

(「じゃあなんですか」)

「じゃあなんですか」

(「おまえ、そのことできたんじゃないのか」)

「お前、そのことで来たんじゃないのか」

(「は?」)

「は?」

(「ちいさいひとをみたってはなしだろ」)

「小さい人を見たって話だろ」

(ぞくりとした。)

ゾクリとした。

(さっきまでわらっていたししょうのめが、いっしゅんでこちらのめのおくを)

さっきまで笑っていた師匠の目が、一瞬でこちらの目の奥を

(とうしするようなするどさをおびた。)

透視するような鋭さを帯びた。

(「どうしてわかるんです」)

「どうして分かるんです」

(「そこまでのどんかんやろうじゃないと、きたいしていたから」)

「そこまでの鈍感野郎じゃないと、期待していたから」

(ししょうはじてんしゃにまたがった。)

師匠は自転車に跨った。

(「いつくるか、いつくるかとまってたんだけどな。じゃいあんにあきちへ)

「いつくるか、いつくるかと待ってたんだけどな。ジャイアンに空き地へ

(つれだされたのびたを、いえでまっているどらえもんみたいなしんきょうで」)

連れ出されたのび太を、家で待っているドラえもんみたいな心境で」

(まあ、いえではなそう。はらへった。)

まあ、家で話そう。腹減った。

(そういってししょうはじてんしゃをこぎはじめた。ぼくはしょっくをうけたまま、)

そう言って師匠は自転車をこぎはじめた。僕はショックを受けたまま、

(それでもついていこうとあとをおいかける。)

それでもついて行こうと後を追いかける。

(なんだ、このひとは。)

なんだ、この人は。

(であっていらい、なんじゅっかい、なんびゃっかいめかもわからないことばをつぶやきながら。)

出会って以来、何十回、何百回目かも分からない言葉を呟きながら。

(ふたりしておおざらにさかられたそうめんをたべつくし、ようやくひとごこちがついたといって)

二人して大皿に盛られた素麺を食べつくし、ようやく人心地がついたと言って

(あぐらをかくししょうに「こんなにたくさんどうしたんです」と、)

あぐらをかく師匠に「こんなに沢山どうしたんです」と、

(まだのこっているそうめんのたばのことをとうと、「しょうぼうだんのさしいれがあってな」)

まだ残っている素麺の束のことを問うと、「消防団の差し入れがあってな」

(というこたえがかえってきた。)

という答えが返ってきた。

(このひとはがくせいだというのに、じもとのしょうぼうだんにしょぞくしているのだった。)

この人は学生だというのに、地元の消防団に所属しているのだった。

(それもふくはんちょうだというのだから、あらためてそのばいたりてぃにはおどろかされる。)

それも副班長だというのだから、あらためてそのバイタリティには驚かされる。

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