土の下 -5-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(「べつに「にんげんのしごはこうなる」ってはなしをしたいんじゃないんだ。)

「別に「人間の死後はこうなる」ってハナシをしたいんじゃないんだ。

(ただ、けいけんでな。なんどかこういうくびつりしたいにでくわしたことがあるんだ。)

ただ、経験でな。何度かこういう首吊り死体に出くわしたことがあるんだ。

(そんなとき、いつもあるげんしょうがおこるんだよ。)

そんなとき、いつもある現象が起こるんだよ。

(それがなんなんだろうとおもってな」)

それがなんなんだろうと思ってな」

(すこっぷをふるうでがちからづよくなってきた。)

スコップを振る腕が力強くなってきた。

(「おなじくびつりでもしつないとか、あすふぁるとやらこんくりのうえだと)

「同じ首吊りでも室内とか、アスファルトやらコンクリの上だと

(だめなんだよな。だけどこういう・・・・・つちのうえだと、)

駄目なんだよな。だけどこういう・・・・・土の上だと、

(たいていでてくるんだ。したいのましたから」)

たいてい出てくるんだ。死体の真下から」

(ひゅっ、といきがもれる。)

ひゅっ、と息が漏れる。

(じぶんのくちからでたのだとしばらくしてからきづく。)

自分の口から出たのだとしばらくしてから気づく。

(さっきまであせにまみれていたのがうそのように、いまはえたいのしれないさむけがする。)

さっきまで汗にまみれていたのが嘘のように、今は得体の知れない寒気がする。

(「お。でたぞ。きてみろ」)

「お。出たぞ。来てみろ」

(ししょうがすこっぷをほうりなげ、じめんにかおをちかづける。)

師匠がスコップを放り投げ、地面に顔を近づける。

(なんだ。なにがつちのしたにあるというのだ。)

なんだ。なにが土の下にあるというのだ。

(うごけないでいるぼくに、ししょうはつちのしたからすくいあげたなにかを)

動けないでいる僕に、師匠は土の下から掬い上げたなにかを

(みぎのてのひらにのせ、こちらにふりむくや、まっすぐにはなさきへつきつけてきた。)

右の手のひらに乗せ、こちらに振り向くや、真っ直ぐに鼻先へつきつけてきた。

(ちゃいろっぽい。なにかとろとろとしたもの。)

茶色っぽい。なにかとろとろとしたもの。

(ゆびのすきまからそれがいとをひくようにこぼれおちていく。)

指の隙間からそれが糸を引くようにこぼれ落ちていく。

(「なんだかわかるか」)

「なんだか分かるか」

(くちもきけず、こきざみにくびをさゆうにふることしかできない。)

口も利けず、小刻みに首を左右に振ることしかできない。

など

(「わたしにもわからない。でも、くびつりしたいのしたのじめんにはたいていこれがある。)

「私にもわからない。でも、首吊り死体の下の地面にはたいていこれがある。

(これがばしょやみんぞく、じんしゅをこえてふへんてきにおこるげんしょうならば、)

これが場所や民族、人種を超えて普遍的に起こる現象ならば、

(かんさつされたこれにはなにかいみがあるものとしてりゆうづけがされただろうな。)

観察されたこれにはなにか意味があるものとして理由づけがされただろうな。

(・・・・・たとえば、「ぱく」はちにかえる、とでも」)

・・・・・例えば、「魄」は地に帰る、とでも」

(とろとろとそれがゆびのあいだからしたたりおちていく。)

とろとろとそれが指の間からしたたり落ちていく。

(まるでいしをもっててのひらからにげるように。)

まるで意思を持って手のひらから逃げるように。

(「にほんでもこいつのはなしはあるよ。「あんざいずいひつ」だったか、)

「日本でもこいつの話はあるよ。「安斎隋筆」だったか、

(「かっしやわ」だったか・・・・・くびつりしたいのしたをほったら)

「甲子夜話」だったか・・・・・首吊り死体の下を掘ったら

(こういうなんだかよくわからないものがでてくるんだ」)

こういうなんだかよくわからないものが出てくるんだ」

(ししょうはひだりめのしたをもうかたほうのてのゆびでかく。)

師匠は左目の下をもう片方の手の指で掻く。

(うれしそうだ。じんじょうなめつきではない。)

嬉しそうだ。尋常な目つきではない。

(ぼくはじぶんでもきみょうなたいけんはなんどもしたし、かいだんばなしのたぐいはこれでも)

僕は自分でも奇妙な体験は何度もしたし、怪談話の類はこれでも

(けっこうしゅうしゅうしたつもりだった。なのにまったくきいたこともない。)

結構収集したつもりだった。なのにまったく聞いたこともない。

(そうぞうだにしたことがなかった。くびつりしたいのしたのじめんをほるなんて。)

想像だにしたことがなかった。首吊り死体の下の地面を掘るなんて。

(なぜこのひとは、こんなことをしっているんだ。)

なぜこの人は、こんなことを知っているんだ。

(そこしれないおもいがして、おそれといけいがいりまじったようなかんじょうがうずまく。)

底知れない思いがして、恐れと畏敬が入り混じったような感情が渦巻く。

(「ああ、もうきえる」)

「ああ、もう消える」

(てのひらにのこっていたちゃいろいものは、すべてにげるようにながれおちてしまった。)

手のひらに残っていた茶色いものは、すべて逃げるように流れ落ちてしまった。

(てのしたのじめんをみても、おちたはずのそのこんせきはのこっていない。)

手の下の地面を見ても、落ちたはずのその痕跡は残っていない。

(どこにきえてしまったのか。)

どこに消えてしまったのか。

(「じめんからほりだすと、あっというまにきえるんだ。)

「地面から掘り出すと、あっという間に消えるんだ。

(もうつちのしたのもぜんぶきえたみたいだ」)

もう土の下のも全部消えたみたいだ」

(ししょうはもういちどすこっぷをてにしてつちにできたあなのおなじばしょに)

師匠はもう一度スコップを手にして土にできた穴の同じ場所に

(に、さんどつきいれたが、やがてくびをふった。)

二、三度突き入れたが、やがて首を振った。

(「な、おもしろいだろ」)

「な、面白いだろ」

(そういってししょうがかおをあげたしゅんかんだ。)

そう言って師匠が顔を上げた瞬間だ。

(つよいかぜがふいてくぼちのしゅういのきぎをいっせいにざわざわとかきゆらした。)

強い風が吹いて窪地の周囲の木々を一斉にざわざわと掻き揺らした。

(おもわずくびをすくめててんをあおぐ。)

思わず首をすくめて天を仰ぐ。

(はっとした。)

ハッとした。

(しんぞうにくさびをうちこまれたみたいなかんかく。)

心臓に楔を打ち込まれたみたいな感覚。

(じめんにむけているかいちゅうでんとうのあかりにぼんやりとてらされて、)

地面に向けている懐中電灯の明かりにぼんやりと照らされて、

(ちゅうにうかぶくびつりしたいのあしさきがみえる。)

宙に浮かぶ首吊り死体の足先が見える。

(くちたようなじーんずと、そのしたのはきふるしたすにーかーが)

朽ちたようなジーンズと、その下の履き古したスニーカーが

(せんたんをこちらにむけている。)

先端をこちらに向けている。

(さっきまで、したいはせなかをむけていたはずなのに。)

さっきまで、死体は背中を向けていたはずなのに。

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