よだかの星(3/4)宮沢賢治
・設問の文字数制限によりキリが悪くなる箇所、平仮名続きで読みづらい箇所は、平仮名を漢字に直しました
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問題文
(よだかはまっすぐに、おとうとのかわせみのところへとんでいきました。)
よだかはまっすぐに、弟の川せみの所へ飛んで行きました。
(きれいなかわせみも、ちょうどおきてとおくのやまかじをみていたところでした。)
きれいな川せみも、丁度起きて遠くの山火事を見ていた所でした。
(そしてよだかのおりてきたのをみていいました。)
そしてよだかの降りて来たのを見て云いました。
(「にいさん。こんばんは。なにかきゅうのごようですか。」)
「兄さん。今晩は。何か急のご用ですか。」
(「いいや、ぼくはこんどとおいところへいくからね、そのまえちょっとおまえにあいにきたよ。」)
「いいや、僕は今度遠い所へ行くからね、その前一寸お前に遭いに来たよ。」
(「にいさん。いっちゃいけませんよ。はちすずめもあんなとおくにいるんですし、)
「兄さん。行っちゃいけませんよ。蜂雀もあんな遠くにいるんですし、
(ぼくひとりぼっちになってしまうじゃありませんか。」)
僕ひとりぼっちになってしまうじゃありませんか。」
(「それはね。どうもしかたないのだ。もうきょうはなにもいわないでくれ。)
「それはね。どうも仕方ないのだ。もう今日は何も云わないで呉れ。
(そしておまえもね、どうしてもとらなければならないときのほかは)
そしてお前もね、どうしても取らなければならない時のほかは
(いたずらにおさかなをとったりしないようにしてくれ。ね、さよなら。」)
いたずらにお魚を取ったりしないようにして呉れ。ね、さよなら。」
(「にいさん。どうしたんです。まあちょっとおまちなさい。」)
「兄さん。どうしたんです。まあ一寸お待ちなさい。」
(「いや、いつまでいてもおんなじだ。はちすずめへ、)
「いや、いつまで居てもおんなじだ。はちすずめへ、
(あとでよろしくいってやってくれ。さよなら。もうあわないよ。さよなら。」)
あとでよろしく云ってやって呉れ。さよなら。もうあわないよ。さよなら。」
(よだかはなきながらじぶんのおうちへかえってまいりました。)
よだかは泣きながら自分のお家へ帰って参りました。
(みじかいなつのよるはもうあけかかっていました。)
みじかい夏の夜はもうあけかかっていました。
(しだのはは、よあけのきりをすって、あおくつめたくゆれました。)
羊歯(しだ)の葉は、よあけの霧を吸って、青くつめたくゆれました。
(よだかはたかくきしきしきしとなきました。そしてすのなかをきちんとかたづけ、)
よだかは高くきしきしきしと鳴きました。そして巣の中をきちんとかたづけ、
(きれいにからだじゅうのはねやけをそろえて、またすからとびだしました。)
きれいにからだ中のはねや毛をそろえて、また巣から飛び出しました。
(きりがはれて、おひさまがちょうどひがしからのぼりました。)
霧がはれて、お日さまが丁度東からのぼりました。
(よだかはぐらぐらするほどまぶしいのをこらえて、)
夜だかはぐらぐらするほどまぶしいのをこらえて、
(やのように、そっちへとんでいきました。)
矢のように、そっちへ飛んで行きました。
(「おひさん、おひさん、どうぞわたしをあなたのところへつれてってください。)
「お日さん、お日さん、どうぞ私をあなたの所へ連れてって下さい。
(やけてしんでもかまいません。わたしのようなみにくいからだでもやけるときには)
灼けて死んでもかまいません。私のような醜い体でも灼けるときには
(ちいさなひかりをだすでしょう。どうかわたしをつれてってください。」)
小さなひかりを出すでしょう。どうか私を連れてって下さい。」
(いってもいっても、おひさまはちかくなりませんでした。)
行っても行っても、お日さまは近くなりませんでした。
(かえってだんだんちいさくとおくなりながらおひさまがいいました。)
かえってだんだん小さく遠くなりながらお日さまが云いました。
(「おまえはよだかだな。なるほど、ずいぶんつらかろう。こんどそらをとんで、)
「お前はよだかだな。なるほど、ずいぶんつらかろう。今度そらを飛んで、
(ほしにそうたのんでごらん。おまえはひるのとりではないのだからな。」)
星にそうたのんでごらん。お前はひるの鳥ではないのだからな。」
(よだかはおじぎをひとつしたとおもいましたが、きゅうにぐらぐらして)
夜だかはおじぎを一つしたと思いましたが、急にぐらぐらして
(とうとうのはらのくさのうえにおちてしまいました。)
とうとう野原の草の上に落ちてしまいました。
(そしてまるでゆめをみているようでした。からだがずうっとあかやきのほしのあいだを)
そしてまるで夢を見ているようでした。からだがずうっと赤や黄の星のあいだを
(のぼっていったり、どこまでもかぜにとばされたり、)
のぼって行ったり、どこまでも風に飛ばされたり、
(またたかがきてからだをつかんだりしたようでした。)
又鷹が来て体をつかんだりしたようでした。
(つめたいものがにわかにかおにおちました。よだかはめをひらきました。)
つめたいものがにわかに顔に落ちました。よだかは眼をひらきました。
(いっぽんのわかいすすきのはからつゆがしたたったのでした。)
一本の若いすすきの葉から露がしたたったのでした。
(もうすっかりよるになって、そらはあおぐろく、いちめんのほしがまたたいていました。)
もうすっかり夜になって、空は青ぐろく、一面の星がまたたいていました。
(よだかはそらへとびあがりました。こんやもやまやけのひはまっかです。)
よだかはそらへ飛びあがりました。今夜も山やけの火はまっかです。
(よだかはそのひのかすかなてりと、つめたいほしあかりのなかをとびめぐりました。)
よだかはその火のかすかな照りと、つめたいほしあかりの中を飛び巡りました。
(それからもういっぺんとびめぐりました。そしておもいきってにしのそらの)
それからもう一ぺん飛びめぐりました。そして思い切って西のそらの
(あのうつくしいおりおんのほしのほうに、まっすぐにとびながらさけびました。)
あの美しいオリオンの星の方に、まっすぐに飛びながら叫びました。
(「おほしさん、にしのあおじろいおほしさん。どうかわたしを)
「お星さん、西の青じろいお星さん。どうか私を
(あなたのところへつれてってください。やけてしんでもかまいません。」)
あなたのところへ連れてって下さい。灼けて死んでもかまいません。」
(おりおんはいさましいうたをつづけながらよだかなどはてんであいてにしませんでした。)
オリオンは勇ましい歌を続けながら夜だかなどはてんで相手にしませんでした。
(よだかはなきそうになって、よろよろとおちて、それからやっとふみとまって、)
よだかは泣きそうになって、よろよろと落ちて、それからやっとふみとまって、
(もういっぺんとびめぐりました。)
もう一ぺんとびめぐりました。
(それから、みなみのおおいぬざのほうへまっすぐにとびながらさけびました。)
それから、南の大犬座の方へまっすぐに飛びながら叫びました。
(「おほしさん。みなみのあおいおほしさん。どうかわたしをあなたのところへつれてってください。)
「お星さん。南の青いお星さん。どうか私をあなたの所へつれてって下さい。
(やけてしんでもかまいません。」)
灼けて死んでもかまいません。」
(おおいぬはあおやむらさきやうつくしくせわしくまたたきながらいいました。)
大犬は青や紫やうつくしくせわしくまたたきながら云いました。
(「ばかをいうな。おまえなんかいったいどんなものだい。たかがとりじゃないか。)
「馬鹿を云うな。おまえなんか一体どんなものだい。たかが鳥じゃないか。
(おまえのはねでここまでくるには、おくねんちょうねんおくちょうねんだ。」)
お前の羽でここまで来るには、億年兆年億兆年だ。」
(そしてまたべつのほうをむきました。)
そしてまた別の方を向きました。
(よだかはがっかりして、よろよろおちて、それからまたにへんとびめぐりました。)
よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又二へん飛びめぐりました。
(それからまたおもいきってきたのおおぐまぼしのほうへ)
それから又思い切って北の大熊星(おおぐまぼし)の方へ
(まっすぐにとびながらさけびました。)
まっすぐに飛びながら叫びました。
(「きたのあおいおほしさま、あなたのところへどうかわたしをつれてってください。」)
「北の青いお星さま、あなたの所へどうか私を連れてって下さい。」
(おおぐまぼしはしずかにいいました。)
大熊星はしずかに云いました。
(「よけいなことをかんがえるものではない。すこしあたまをひやしてきなさい。)
「余計なことを考えるものではない。少し頭をひやして来なさい。
(そういうときは、ひょうざんのういているうみのなかへとびこむか、ちかくにうみがなかったら)
そう云うときは、氷山の浮いている海の中へ飛び込むか、近くに海がなかったら
(こおりをうかべたこっぷのみずのなかへとびこむのがいっとうだ。」)
氷をうかべたコップの水の中へ飛び込むのが一等だ。」
(よだかはがっかりして、よろよろおちて、それからまた、)
よだかはがっかりして、よろよろ落ちて、それから又、
(よんへんそらをめぐりました。)
四へんそらをめぐりました。