吾輩は猫である8
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問題文
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(どうもあまくかけないものだねひとのをみるとなんでもないようだが)
どうも甘くかけないものだね人のを見ると何でもないようだが
(みずからふでをとってみるといまさらのようにむずかしくかんずる)
自ら筆をとって見ると今更のようにむずかしく感ずる
(これはしゅじんのじゅっかいである)
これは主人の述懐である
(なるほどいつわりのないところだ)
なるほど詐りのない処だ
(かれのともはきんぶちのめがねごしにしゅじんのかおをみながら)
彼の友は金縁の眼鏡越に主人の顔を見ながら
(そうはじめからじょうずにはかけないさ)
そう初めから上手にはかけないさ
(だいいちしつないのそうぞうばかりでえがかけるわけのものではない)
第一室内の想像ばかりで画がかける訳のものではない
(むかしいたりーのおおやあんどれあでるさるとがいったことがある)
昔し以太利の大家アンドレア・デル・サルトが言った事がある
(えをかくならなんでもしぜんそのものをうつせ)
画をかくなら何でも自然その物を写せ
(てんにせいしんありちにろかありとぶにきんあり)
天に星辰あり地に露華あり飛ぶに禽あり
(はしるにけものありいけにきんぎょありかれきにかんからすあり)
走るに獣あり池に金魚あり枯木に寒鴉あり
(しぜんはこれいっぷくのだいかつえなりと)
自然はこれ一幅の大活画なりと
(どうだきみもえらしいえをかこうとおもうならちとしゃせいをしたら)
どうだ君も画らしい画をかこうと思うならちと写生をしたら
(へえあんどれあでるさるとがそんなことをいったことがあるかい)
へえアンドレア・デル・サルトがそんな事をいった事があるかい
(ちっともしらなかったなるほどこりゃもっともだじつにそのとおりだ)
ちっとも知らなかったなるほどこりゃもっともだ実にその通りだ
(としゅじんはむやみにかんしんしている)
と主人は無暗に感心している
(きんぶちのうらにはあざけけるようなわらいがみえた)
金縁の裏には嘲けるような笑が見えた
(そのよくじつわがはいはれいのごとくえんがわにでてこころもちよくひるねをしていたら)
その翌日吾輩は例のごとく椽側に出て心持善く昼寝をしていたら
(しゅじんがれいになくしょさいからでてきてわがはいのうしろでなにかしきりにやっている)
主人が例になく書斎から出て来て吾輩の後ろで何かしきりにやっている
(ふとめがさめてなにをしているかといちぶばかりにほそめにめをあけてみると)
ふと眼が覚めて何をしているかと一分ばかり細目に眼をあけて見ると
など
(かれはよねんもなくあんどれあでるさるとをきめこんでいる)
彼は余念もなくアンドレア・デル・サルトを極め込んでいる
(わがはいはこのありさまをみておぼえずしっしょうするのをきんじえなかった)
吾輩はこの有様を見て覚えず失笑するのを禁じ得なかった
(かれはかれのともにやゆせられたるけっかとして)
彼は彼の友に揶揄せられたる結果として
(まずてはじめにわがはいをしゃせいしつつあるのである)
まず手初めに吾輩を写生しつつあるのである
(わがはいはすでにじゅうぶんねた)
吾輩はすでに十分寝た
(あくびがしたくてたまらない)
欠伸がしたくてたまらない
(しかしせっかくしゅじんがねっしんにふでをとっているのをうごいてはきのどくだとおもって)
しかしせっかく主人が熱心に筆を執っているのを動いては気の毒だと思って
(じっとしんぼうしておった)
じっと辛棒しておった