空を歩く男 -5-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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(うすぐらいてんないにはふるくさいよこもじのぽすたーがそこかしこにはられていて、) 薄暗い店内には古臭い横文字のポスターがそこかしこに張られていて、 (きどったかんじもなくなかなかいごこちがよさそうだった。) 気取った感じもなくなかなか居心地が良さそうだった。 (ひかえめのおんりょうでおーるでぃーずとおぼしききょくがかかっている。) 控えめの音量でオールディーズと思しき曲がかかっている。 (おきにいりのころなびーるがあったのでそれをちゅうもんし、) お気に入りのコロナビールがあったのでそれを注文し、 (きさくそうなしょろうのますたーにこのあたりでおこるかいだんばなしについて) 気さくそうな初老のマスターにこのあたりで起こる怪談話について (みずをむけてみた。) 水をむけてみた。 (きいたことはあるというへんじだったが、じっさいにみたことはないという。) 聞いたことはあるという返事だったが、実際に見たことはないという。 (にゅうてんしたときにはいたもうひとりのきゃくもいつのまにかいなくなっていたので、) 入店したときにはいたもう一人の客もいつの間にかいなくなっていたので、 (しかたなくびーるいっぱいでそのみせをでる。) 仕方なくビール一杯でその店を出る。 (それからなんけんかのみせをはしごした。) それから何軒かの店をハシゴした。 (ますたーやままじしんがみたことがあるというみせはなかったが、) マスターやママ自身が見たことがあるという店はなかったが、 (じゅうぎょういんのなかにひとりだけもくげきしゃがいた。) 従業員の中に一人だけ目撃者がいた。 (そしてそれとなくてんないのじょうれんきゃくにはなしをふってくれて、) そしてそれとなく店内の常連客に話を振ってくれて、 (「そういえば、むかしみたことがあるなあ」というきゃくもひとりみつけることができた。) 「そういえば、昔見たことがあるなあ」という客も一人見つけることができた。 (しかしはなしをきいても、どれもにたりよったりのはなしで、) しかし話を聞いても、どれも似たり寄ったりの話で、 (けっきょくそのそらをあるくおとこのしょうたいもなにもわからないままだった。) 結局その空を歩く男の正体もなにも分からないままだった。 (せめて、どういうじょうけんかであらわれるのかすいそくするざいりょうになればよかったが、) せめて、どういう条件下で現れるのか推測する材料になれば良かったが、 (はなしをきいたふたりともひづけやてんきのじょうきょうなどのきおくがあいまいで、) 話を聞いた二人とも日付や天気の状況などの記憶が曖昧で、 (みたばしょもひとかげがすすんだほうがくもはっきりとしなかった。) 見た場所も人影が進んだ方角もはっきりとしなかった。 (ただ、よなかにあしばもなにもないひじょういたかいじょうくうをあるくひとかげをみた、) ただ、夜中に足場もなにもない非常い高い上空を歩く人影を見た、
など
(ということだけがいっちしていた。) ということだけが一致していた。 (そしてとくにそのご、じこなどにはあわなかったということも。) そして特にその後、事故などには遭わなかったということも。 (いっけんいっけんではそれほどりょうをのまずにはなしだけきいてたいさんしたのだが、) 一軒一軒ではそれほど量を飲まずに話だけ聞いて退散したのだが、 (ききこみのけっかがおもわしくなく、はしごをかさねるごとによいがまわりはじめた。) 聞き込みの結果が思わしくなく、ハシゴを重ねるごとに酔いが回り始めた。 (なんけんめのみせだったか、それもわからなくなり、かなりめいていしたぼくが) 何軒目の店だったか、それも分からなくなり、かなり酩酊した僕が (そのちかにあったろかびりーなみせをでたころにはもうひづけがかわっていた。) その地下にあったロカビリーな店を出た頃にはもう日付が変わっていた。 (「ちくしょう」という、よっぱらいがよくくちにすることばをだれにともなく) 「ちくしょう」という、酔っ払いが良く口にする言葉を誰にともなく (はきだしながら、ふらふらとせまいかいだんをのぼり、ちじょうにでる。) 吐き出しながら、ふらふらと狭い階段を上り、地上に出る。 (そらをみあげてもくらやみがどこまでひろがっているだけで、) 空を見上げても暗闇がどこまで広がっているだけで、 (なんのかげもみあたらなかった。そのときだった。) なんの影も見当たらなかった。そのときだった。 (「にいさん、にいさん」) 「にいさん、にいさん」 (そううしろからこえをかけられた。) そう後ろから声を掛けられた。 (ふりかえると、よれよれのじゃけっとをきたあからがおのおとこが) 振り返ると、よれよれのジャケットを着た赤ら顔の男が (てのひらでこちらをまねくしぐさをしている。) 手のひらでこちらを招く仕草をしている。 (「なんです」) 「なんです」 (このあたりではしゃくやという、みんかのいっしつをつかった) このあたりでは尺屋という、民家の一室を使った (ひごうほうのみずしょうばいがあるのだが、いっしゅん、そのきゃくひきではないかとおもったが、) 非合法の水商売があるのだが、一瞬、その客引きではないかと思ったが、 (しかしこうよっぱらっていてはしごとになるまい。) しかしこう酔っ払っていては仕事になるまい。 (「さっき、なかであのかいだんのはなしをしてたろう」) 「さっき、中であの怪談の話をしてたろう」 (ああ、なんださっきのみせにいたきゃくか。) ああ、なんださっきの店にいた客か。 (しかしどうしてわざわざてんをでてからこえをかけてくるんだ?) しかしどうしてわざわざ店を出てから声をかけてくるんだ? (そんなことをかんがえたが、それいじょうあたまがまわらなかった。) そんなことを考えたが、それ以上頭が回らなかった。 (「だったら、なんれす」) 「だったら、なんれす」 (ろれつもまわっていない。) ろれつも回っていない。 (「しりてえか」) 「知りてえか」 (「なにお」) 「なにお」 (「そらの、あるきかた」) 「空の、歩きかた」 (おとこはさかやけしたようなあかいかおをちかづけてきて、たしかにそういった。) 男は酒焼けしたような赤い顔を近づけてきて、確かにそう言った。 (「いいですねえ。あるきましょう!」) 「いいですねえ。歩きましょう!」 (「そうか。じゃあついてきな」) 「そうか。じゃあついてきな」 (ふらふらとしながらおとこは、まだすいかくのひかないとおりをせんどうしてあるきだした。) ふらふらとしながら男は、まだ酔客の引かない通りを先導して歩き出した。 (ごじゅっさいくらい、いやもうすこしうえだろうか。) 五十歳くらい、いやもう少し上だろうか。 (へんなおっさんだ。) 変なおっさんだ。 (さっきろかびりーなかみがたのますたーがほかのきゃくにこえをかけても、) さっきロカビリーな髪型のマスターが他の客に声をかけても、 (だれもそんなかいだんばなしをしらなかったのに。) 誰もそんな怪談話を知らなかったのに。 (なんであのときだまってたんだ。あれ?そもそもあんなおっさん、みせにいたかな。) なんであのとき黙ってたんだ。あれ?そもそもあんなオッサン、店にいたかな。 (そんなことをかんがえていると、おっさんがきゅうにたちどまり、) そんなことを考えていると、おっさんが急に立ち止まり、 (またかおをちかづけてきてこういった。) また顔を近づけてきてこう言った。
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