空を歩く男 -8-(完)

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(「どうした」) 「どうした」 (こえがかわっていた。) 声が変わっていた。 (おっさんはひえきったようなこわいろで、「きなさい」とささやいた。) おっさんは冷え切ったような声色で、「きなさい」と囁いた。 (がたがたふるえながら、くびをさゆうにふる。) ガタガタ震えながら、首を左右に振る。 (つうろのくらやみのおくで、おっさんのかおだけがうかんでみえる。) 通路の暗闇の奥で、おっさんの顔だけが浮かんで見える。 (ちんもくがあった。) 沈黙があった。 (そうか。) そうか。 (ちいさなこえがすうっとくうきにとけていき、そのかおがこちらをむいたまま) 小さな声がすうっと空気に溶けていき、その顔がこちらを向いたまま (くらやみのおくへときえていった。) 暗闇の奥へと消えていった。 (それからどれくらいのじかんがたったのかわからない。) それからどれくらいの時間が経ったのか分からない。 (かなしばりにあったかのようにそのばでうごけなかったぼくも、) 金縛りにあったかのようにその場で動けなかった僕も、 (そとからわかもののさけびごえがきこえたしゅんかんに、はっとわれにかえった。) 外から若者の叫び声が聞こえた瞬間に、ハッと我に返った。 (よっぱらったなかまがげろをはいたといういみの、はやしたてるようなこえだった。) 酔っ払った仲間がゲロを吐いたという意味の、囃し立てるような声だった。 (ぼくはけはいのきえたつうろのおくにめをこらす。) 僕は気配の消えた通路の奥に目を凝らす。 (そのとき、ほおにふれるかすかなかぜにきがついた。) そのとき、頬に触れるかすかな風に気がついた。 (そのくうきのながれはぜんぽうからきていた。) その空気の流れは前方からきていた。 (さんめーとるほどすすむと、そのさきにはつうろのゆかがなかった。) 三メートルほど進むと、その先には通路の床がなかった。 (いちめーとるほどのだんぜつがあり、そのさきからまたつうろがのびていた。) 一メートルほどの断絶があり、その先からまた通路が伸びていた。 (びるとびるのすきまにせまいろじがあった。) ビルとビルの隙間に狭い路地があった。 (ながくかんじたつうろは、ひとつのびるではなくふたつのびるからできていた。) 長く感じた通路は、一つのビルではなく二つのビルから出来ていた。
など
(がけになっているつうろのせんたんには、てすりのようなもののあとがあったが、) 崖になっている通路の先端には、手すりのようなものの跡があったが、 (こわされてげんけいをとめていなかった。) 壊されて原型を留めていなかった。 (むこうがわのつうろのさきもおなじようなじょうたいだった。) 向こう側の通路の先も同じような状態だった。 (しらずにてさぐりのままあしをふみだしていれば、) 知らずに手探りのまま足を踏み出していれば、 (このしたのろじへらっかしていただろう。よんかいのたかさから。) この下の路地へ落下していただろう。四階の高さから。 (なまつばをのみこむ。) 生唾を飲み込む。 (さいごに「きなさい」といったおっさんのかおは、あのだんぜつのむこうがわにあった。) 最後に「きなさい」と言ったおっさんの顔は、あの断絶の向こう側にあった。 (そうか。ぼくはみちびかれていたのだ。おりかさなった、ことなるせかいへ。) そうか。僕は導かれていたのだ。折り重なった、異なる世界へ。 (びるとびるのはざまへてんらくするぼく。) ビルとビルの狭間へ転落する僕。 (そしてべつのぼくは、じぶんがしんだことにもきづかず、そのままつうろをとおりぬけ、) そして別の僕は、自分が死んだことにも気づかず、そのまま通路を通り抜け、 (みちびかれるままにひみつのみちをもぐり、あのそらへのみちへといたるのだ。) 導かれるままに秘密の道を潜り、あの空への道へと至るのだ。 (こうそうびるのおくじょうから、あしをふみだし・・・・・) 高層ビルの屋上から、足を踏み出し・・・・・ (そこはそうかんなせかいだろう。) そこは壮観な世界だろう。 (はるかあしもとにはねおんのむれ。だいしょうのざっきょびるのさらにうえをとおり、) 遥か足元にはネオンの群れ。大小の雑居ビルのさらに上を通り、 (すいきゃくたちのあるくずじょうをきぶんよくあるいてすすむ。) 酔客たちの歩く頭上を気分良く歩いて進む。 (よるのやみのなかに、めにみえないひとすじのみちがある。それはおりかさなった) 夜の闇の中に、目に見えない一筋の道がある。それは折り重なった (べつのせかいのじゅうみんだけにたどることのできるみちなのだ。) 別の世界の住民だけにたどることの出来る道なのだ。 (はあ。) はあ。 (やみのなかにつめたいいきをはいた。) 闇の中に冷たい息を吐いた。 (ぼくはびるのかいだんをおり、つうこうにんのへりはじめたとおりにたった。) 僕はビルの階段を降り、通行人の減り始めた通りに立った。 (もうよるのそこにわだかまったねっきがきえていくじかん。) もう夜の底にわだかまった熱気が消えていく時間。 (ひとびとがそれぞれのいえへあしをむけ、ねぐらへとかえるじかんだ。) 人々がそれぞれの家へ足を向け、ねぐらへと帰る時間だ。 (とおくでにどさんどといきおいをつけながらしゃったーをしめているおとがきこえる。) 遠くで二度三度と勢いをつけながらシャッターを閉めている音が聞こえる。 (「ころすきだったんですか」) 「殺す気だったんですか」 (ししょうにそうといかけた。) 師匠にそう問い掛けた。 (そうとしかおもえなかった。ししょうはすべてしっていたはずなのだ。) そうとしか思えなかった。師匠はすべて知っていたはずなのだ。 (かつてのししゃがあたらしいししゃをよぶ、そらへつづくみちのしんそうを。) かつての死者が新しい死者を呼ぶ、空へ続く道の真相を。 (いくらなんでもひどい。) いくらなんでも酷い。 (そういきどおってつめよったが、そしらぬかおで「まあそうおこるな」とかえされた。) そう憤って詰め寄ったが、そ知らぬ顔で「まあそう怒るな」と返された。 (「まあ、ちゃんとみたんだからごうかくだよ。ゆうりょうかでいうなら、りょうをあげよう」) 「まあ、ちゃんと見たんだから合格だよ。優良可で言うなら、良をあげよう」 (なんだえらそうにこのひとは。むかっとしておもわずにらむと、) なんだ偉そうにこの人は。ムカッとして思わず睨むと、 (ぎゃくにさむけのするようなめにいすくめられた。) 逆に寒気のするような目に射すくめられた。 (「じゃあ、ゆうはなんだっていうんですか」) 「じゃあ、優はなんだっていうんですか」 (ぼくがなんとかいいかえすと、ししょうはくらい、) 僕がなんとか言い返すと、師匠は暗い、 (ひかりをうしなったようなひとみをこちらにむけて、ぼそりとささやく。) 光を失ったような瞳をこちらに向けて、ぼそりと囁く。 (「わたしは、そらをあるいたよ」) 「わたしは、空を歩いたよ」 (そしてりょうてを、りょうてをはばたくようにひろげてみせた。) そして両手を、両手を羽ばたくように広げて見せた。 (うそでしょう。そんなことばをくちのなかでころがす。) うそでしょう。そんな言葉を口の中で転がす。 (「りんしたいけんでもしたっていうんですか」) 「臨死体験でもしたって言うんですか」 (ぼくがきくと、ししょうは「どうかな」といってわらった。) 僕が訊くと、師匠は「どうかな」と言って笑った。
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