桜雨 -13-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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(そしてにぎりしめたみぎてにきづき、ひらかせようとする。ひろさんはていこうする。) そして握り締めた右手に気づき、開かせようとする。ヒロさんは抵抗する。 (よけいにこうふんしたかれらは「かえせよ」とわめきながらぼうこうをつづけ、) 余計に興奮した彼らは「返せよ」とわめきながら暴行を続け、 (ついにはむりやりにこぶしをひらかせる。) ついには無理やりに拳を開かせる。 (すうじゅうねん、にぎりしめつづけたてのひら。) 数十年、握り締め続けた手のひら。 (しあわせのようせいをつかまえたてのひら。) 幸せの妖精をつかまえた手のひら。 (そのために、じんせいのすべてをなげうった、てのひらを。) そのために、人生のすべてを投げ打った、手のひらを。 (「くそ」) 「くそ」 (わたしはじめんをなぐりつけた。) 私は地面を殴りつけた。 (「ばかよ、ばか。でもろまんてぃっくね。) 「バカよ、バカ。でもロマンティックね。 (しあわせのようせいをつかまえたほーむれす!」) 幸せの妖精をつかまえたホームレス!」 (よーこのことばがあたまをよぎる。) ヨーコの言葉が頭をよぎる。 (これがそのけつまつか!?) これがその結末か!? (めのまえがちかちかとする。さんそがたりない。ちくしょう。なんなんだこれは。) 目の前がチカチカとする。酸素が足りない。ちくしょう。なんなんだこれは。 (ふいにうでのなかのひろさんがはねおきた。) ふいに腕の中のヒロさんが跳ね起きた。 (「ごめんなさい」) 「ごめんなさい」 (そういって、じめんのうえをはいずりはじめる。) そう言って、地面の上を這いずり始める。 (「ごめんなさい。ごめんなさい」) 「ごめんなさい。ごめんなさい」 (けがをしたことなどわすれたかのように、じめんのつちをはらいながら) 怪我をしたことなど忘れたかのように、地面の土を払いながら (まばらにはえたざっそうをかきわける。) まばらに生えた雑草を掻き分ける。 (「ごめんなさい。もうなくしません。ごめんなさい」) 「ごめんなさい。もうなくしません。ごめんなさい」
など
(そんなことばをくりかえしながら。) そんな言葉を繰り返しながら。 (わたしはぼうぜんとしてそれをみていたが、われにかえると、かたのあたりをだきしめた。) 私は呆然としてそれを見ていたが、我に返ると、肩のあたりを抱きしめた。 (「もういいよ。もういい。ひろさん。もういいんだ」) 「もういいよ。もういい。ヒロさん。もういいんだ」 (ひろさんのいきかたをじゅばくしつづけたものが、なんなのかわからない。) ヒロさんの生き方を呪縛しつづけたものが、なんなのか分からない。 (たにんがくちをだしていいことともおもえない。) 他人が口を出していいこととも思えない。 (しかし、そのときのわたしにはそうすることしかできなかった。) しかし、その時の私にはそうすることしかできなかった。 (それでもひろさんはだきしめるわたしにていこうして、じめんをさぐりつづけた。) それでもヒロさんは抱きしめる私に抵抗して、地面を探り続けた。 (なにもみえていない。そのめには、なにもみえていなかった。) なにも見えていない。その目には、なにも見えていなかった。 (なみだがでた。こんななみだ、わたしのなかにあったのか。それがふしぎだった。) 涙が出た。こんな涙、私の中にあったのか。それが不思議だった。 (でも、それでもなお、なにもみえていなかったのは、わたしのほうだったのだ。) でも、それでもなお、なにも見えていなかったのは、私の方だったのだ。 (やがておんなのこのひとりが、いえからもってきたらしいきゅうきゅうはこを) やがて女の子の一人が、家から持ってきたらしい救急箱を (わたしたちへさしだした。きんじょのこなのだろう。) 私たちへ差し出した。近所の子なのだろう。 (はっとして、わたしはちからずくでひろさんをとめると、そのきずぐちにおうきゅうしょちをはじめた。) ハッとして、私は力ずくでヒロさんを止めると、その傷口に応急処置を始めた。 (こどものころからずっとけんどうをやっていたので、このてのことにはなれている。) 子どものころからずっと剣道をやっていたので、この手のことには慣れている。 (それぞれのきずはおもったよりふかくなく、みためのむざんさもなかばは) それぞれの傷は思ったより深くなく、見た目の無残さも半ばは (もともとのほーむれすとしてのかっこうがしぜんにそうみえさせたものだった。) 元々のホームレスとしての格好が自然にそう見えさせたものだった。 (すこしおちついて、わたしはおんなのこたちにみずをくんでくるようにたのんだ。) 少し落ち着いて、私は女の子たちに水を汲んでくるように頼んだ。 (そうして、ひととおりきずぐちのしょうどくをおえたころ、こうえんのいりぐちのほうから) そうして、一通り傷口の消毒を終えたころ、公園の入り口の方から (「はなせ」というこえがきこえた。) 「放せ」という声が聞こえた。 (めをやると、ざびえるがあのよしながというじょしせいとのくびねっこをつかんで) 目をやると、ザビエルがあの吉永という女子生徒の首根っこを掴んで (こちらにひきずってくるところだった。) こちらに引き摺ってくるところだった。 (「はなせよ」) 「放せよ」 (そうわめくこえにはちからがなかった。ほおにはうたれたようなあかいあとがある。) そうわめく声には力がなかった。頬には打たれたような赤い跡がある。 (つかまえているざびえるのふくにもみだれがあった。) 捕まえているザビエルの服にも乱れがあった。 (ふたりともいきがあがっている。) 二人とも息が上がっている。 (「やまなか。かぎだ」) 「山中。鍵だ」 (ざびえるがそうさけんだ。) ザビエルがそう叫んだ。 (「ひろさんは、かぎをもっていたらしい」) 「ヒロさんは、鍵を持っていたらしい」 (え?) え? (わたしはじぶんのみみをうたがった。) 私は自分の耳を疑った。 (かぎ?どういうこと?) 鍵?どういうこと? (「そうだな」) 「そうだな」 (ざびえるにきつもんされ、ふてくされたようによしながはうなずく。) ザビエルに詰問され、不貞腐れたように吉永は頷く。 (「こいつらは、ひろさんがじぶんたちのものをひろったとかんちがいして、) 「こいつらは、ヒロさんが自分たちのものを拾ったと勘違いして、 (むりやりてをひらかせたら、かぎをにぎっていたっていうんだ」) 無理やり手を開かせたら、鍵を握っていたって言うんだ」 (どこへやった?) どこへやった? (つづけてそうきくざびえるに、) 続けてそう訊くザビエルに、 (よしながは「しらねえよ。どぶのほうになげたんだよ」とわめいた。) 吉永は「知らねえよ。ドブの方に投げたんだよ」とわめいた。 (かぎ?) 鍵? (ひろさん、そうなのか。) ヒロさん、そうなのか。
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