心霊写真 -16-
師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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(まつうらはそこでちょっとくちごもった。)
松浦はそこでちょっと口ごもった。
(かんたんにはせつめいできそうにないことがくやしそうだった。)
簡単には説明できそうにないことが悔しそうだった。
(ぼくはそのふたりのやりとりをぼうっとみていることしかできなかった。)
僕はその二人のやりとりをぼうっと見ていることしかできなかった。
(まるでししょうとまつうらのふたりしかいないくうかんのようだった。)
まるで師匠と松浦の二人しかいない空間のようだった。
(「ちょっとしらべさせましたよ。あなたのことを。)
「ちょっと調べさせましたよ。あなたのことを。
(こうしんじょのどうぎょうしゃたちはほぼいくどうおんに、いんちきのたぐいだといっているよう)
興信所の同業者たちはほぼ異口同音に、インチキの類だと言っているよう
(ですが、いらいをしたことがある、というひとはそろってほんものだといっています。)
ですが、依頼をしたことがある、という人は揃って本物だと言っています。
(ここからわかることは、すくなくともあなたには、しんれいげんしょうがらみのじけんを)
ここから分かることは、少なくともあなたには、心霊現象がらみの事件を
(かいけつするのうちからがある、ということです。)
解決する能力がある、ということです。
(たとえいんちきにせよ、ね」)
たとえインチキにせよ、ね」
(まつうらはまえおきからはじめることをえらんだ。)
松浦は前置きから始めることを選んだ。
(ながいはなしになりそうだった。)
長い話になりそうだった。
(しかしたばこをふところからとりだそうとはしなかった。)
しかし煙草を懐から取り出そうとはしなかった。
(もともとすわないのかもしれない。)
元々吸わないのかも知れない。
(ただだまってことばをえらびながらつづけた。)
ただ黙って言葉を選びながら続けた。
(「たむらはにげたまま、まだみつかりません。)
「田村は逃げたまま、まだ見つかりません。
(きん、さけ、おんな・・・・・めぼしいところはあたっていますが、)
金、酒、女・・・・・目ぼしいところはあたっていますが、
(げんざいのいばしょにまでたどれていない。)
現在の居場所にまで辿れていない。
(あるいはもうけんがいまでにげおおせているのかもしれない。)
あるいはもう県外まで逃げおおせているのかも知れない。
(さらにさいあくななのは、われわれと、そしてすなみいちぞくともてきたいするそしきのふところに)
さらに最悪ななのは、我々と、そして角南一族とも敵対する組織の懐に
など
(にげこんだかのうせい。)
逃げ込んだ可能性。
(そうなればわれわれはてをひかざるとえない。)
そうなれば我々は手を引かざると得ない。
(あとはすなみいちぞくがくわれるのを、ゆびをくわえてみていることしかできなくなる」)
あとは角南一族が食われるのを、指を咥えてみていることしかできなくなる」
(「ひがしの、しかくいやつらか」)
「東の、四角いやつらか」
(ししょうがきわどいじぇすちゃーをみせると、まつうらはひていしなかった。)
師匠が際どいジェスチャーを見せると、松浦は否定しなかった。
(「しかし、きのうすこしいいかけましたが、どうもたむらのもってきた)
「しかし、昨日少し言いかけましたが、どうも田村の持ってきた
(「どく」のほうにおかしなところがあるんですよ。)
「毒」の方におかしなところがあるんですよ。
(その「どく」がこうみょうにつくられたにせものだとすると、ろうじんにとって、)
その「毒」が巧妙に作られた偽物だとすると、老人にとって、
(そしてげんざいのすなみいちぞくにとって、ちめいてきなすきゃんだるにはなりえない。)
そして現在の角南一族にとって、致命的なスキャンダルにはなりえない。
(かれがいまもしょじしてとうぼうをつづけている「どく」にかちがないということになれば、)
彼が今も所持して逃亡を続けている「毒」に価値がないということになれば、
(われわれとしても、かれをさがすもちべーしょんをうしなうということです」)
我々としても、彼を探すモチベーションを失うということです」
(「どくのげんぶつもなしに、わたしにどくのかんていをしろと?」)
「毒の現物もなしに、わたしに毒の鑑定をしろと?」
(「いや、そのふくせいがあります。だが、そあくなものでほんものほどのかちはない。)
「いや、その複製があります。だが、粗悪なもので本物ほどの価値はない。
(が、ともあれ、それがほんものであればどういうちめいてきなもうどくをもつか、)
が、ともあれ、それが本物であればどういう致命的な猛毒を持つか、
(すいそくするにはじゅうぶんなものです。)
推測するには十分なものです。
(「どくだのふじゅんぶつだの、ちゅうしょうてきすぎてさっぱりわからない」)
「毒だの不純物だの、抽象的過ぎてさっぱり分からない」
(「それがぐたいてきになれば、あなたはもうにげられない」)
「それが具体的になれば、あなたはもう逃げられない」
(まつうらのしずかなことばのなかに、こおりのひとかけらがまぜられた。)
松浦の静かな言葉の中に、氷のひと欠片が混ぜられた。
(のどもとにいたればいのちにとどくえいりなひょうへんが。)
喉元に至れば命に届く鋭利な氷片が。
(ししょうはまつうらのめをみていった。)
師匠は松浦の目を見て行った。
(「どうせのがすきなんてないんだろう。いいよ。)
「どうせ逃す気なんてないんだろう。いいよ。
(そのぶっそうな「どく」とやらが、ふじゅんぶつしだいであっというまに)
その物騒な「毒」とやらが、不純物次第であっという間に
(ちきゅうにやさしいぶっしつになるってはなしだろ。)
地球にやさしい物質になるって話だろ。
(ただ、わたしなんかのかんていにそれがきたいできるのかな」)
ただ、わたしなんかの鑑定にそれが期待できるのかな」
(「それはわたしにもわからない。しかしすくなくとも、あなたのせんもんぶんやのはずだ」)
「それは私にも分からない。しかし少なくとも、あなたの専門分野のはずだ」
(まつうらはすーつのうちぽけっとにてをやる。しかしししょうがするどくことばをかぶせる。)
松浦はスーツの内ポケットに手をやる。しかし師匠が鋭く言葉を被せる。
(「ちょっとまて。これはおがわちょうさじむしょへのいらいか。)
「ちょっと待て。これは小川調査事務所への依頼か。
(それともおねがいか。おどしか」)
それともお願いか。脅しか」
(まつうらはくちのはをすこしあげる。)
松浦は口の端を少し上げる。
(「いらい、というこたえをきぼうされているようなので、そうこたえましょう。)
「依頼、という答えを希望されているようなので、そう答えましょう。
(ここのきていのりょうきんがいくらかしらないが、ほうしゅうはそのごばいだします。)
ここの規定の料金がいくらか知らないが、報酬はその五倍出します。
(それと、あなたこじんへさらにそのばいを」)
それと、あなた個人へさらにその倍を」
(ししょうはそのたいみんぐにふさわしいくちぶえをふいた。)
師匠はそのタイミングに相応しい口笛を吹いた。
(どれほどきんちょうしていても、ふくべきときにふかけるひとはほんとうにきようなのだろう。)
どれほど緊張していても、吹くべき時に吹ける人は本当に器用なのだろう。
(「でもそれ、わたしのかんていとやらのないようしだいじゃ、)
「でもそれ、わたしの鑑定とやらの内容次第じゃ、
(もらいないどころか・・・・・ってはなしだよね」)
もらいないどころか・・・・・って話だよね」
(まつうらはそれになにもこたえなかった。)
松浦はそれに何も答えなかった。