どんぐりと山猫 2
宮沢賢治が作ったお話です
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問題文
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(こんなのです。)
こんなのです。
(じはまるでへたで、すみもがさがさしてゆびにつくくらいでした。)
字はまるでへたで、墨もがさがさして指につくくらいでした。
(けれどもいちろうはうれしくてうれしくてたまりませんでした。)
けれども一郎はうれしくてうれしくてたまりませんでした。
(はがきをそっとがっこうのかばんにしまって、)
はがきをそっと学校のかばんにしまって、
(うちじゅうとんだりはねたりしました。)
うちじゅうとんだりはねたりしました。
(ねゆかにもぐってからも、やまねこのにゃあとしたかおや、)
ね床にもぐってからも、山猫のにゃあとした顔や、
(そのめんどうだというさいばんのけしきなどをかんがえて、)
そのめんどうだという裁判のけしきなどを考えて、
(おそくまでねむりませんでした。)
おそくまでねむりませんでした。
(けれども、いちろうがめをさましたときは、)
けれども、一郎が眼をさましたときは、
(もうすっかりあかるくなっていました。)
もうすっかり明るくなっていました。
(おおもてにでてみると、まわりのやまは、)
おおもてにでてみると、まわりの山は、
(みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって、)
みんなたったいまできたばかりのようにうるうるもりあがって、
(まっさおなそらのしたにならんでいました。)
まっ青なそらのしたにならんでいました。
(いちろうはいそいでごはんをたべて、)
一郎はいそいでごはんをたべて、
(ひとりたにかわにそったこみちを、かみのほうへのぼっていきました。)
ひとり谷川に沿ったこみちを、かみの方へのぼって行きました。
(すきとおったかぜがざあっとふくと、)
すきとおった風がざあっと吹くと、
(くりのきはばらばらとみをおとしました。)
栗の木はばらばらと実をおとしました。
(いちろうはくりのきをみあげて、)
一郎は栗の木をみあげて、
(「くりのき、くりのき、やまねこがここをとおらなかったかい。」)
「栗の木、栗の木、やまねこがここを通らなかったかい。」
(とききました。くりのきはちょっとしずかになって、)
とききました。栗の木はちょっとしずかになって、
など
(「やまねこなら、けさはやく、ばしゃでひがしのほうへ)
「やまねこなら、けさはやく、馬車でひがしの方へ
(とんでいきましたよ。」とこたえました。)
飛んで行きましたよ。」と答えました。
(「ひがしならぼくのいくほうだねえ、おかしいな、)
「東ならぼくのいく方だねえ、おかしいな、
(とにかくもっといってみよう。くりのきありがとう。」)
とにかくもっといってみよう。栗の木ありがとう。」
(くりのきはだまってまたみをばらばらとおとしました。)
栗の木はだまってまた実をばらばらとおとしました。
(いちろうがすこしいきますと、そこはもうふえふきのたきでした。)
一郎がすこし行きますと、そこはもう笛ふきの滝でした。
(ふえふきのたきというのは、まっしろないわのがけのなかほどに、)
笛ふきの滝というのは、まっ白な岩の崖のなかほどに、
(ちいさなあながあいていて、そこからみずがふえのようになってとびだし、)
小さな穴があいていて、そこから水が笛のように鳴って飛び出し、
(すぐたきになって、ごうごうたににおちているのをいうのでした。)
すぐ滝になって、ごうごう谷におちているのをいうのでした。
(いちろうはたきにむいてさけびました。)
一郎は滝に向いて叫びました。
(「おいおい、ふえふき、やまねこがここをとおらなかったかい。」)
「おいおい、笛ふき、やまねこがここを通らなかったかい。」
(たきがぴーぴーこたえました。)
滝がぴーぴー答えました。
(「やまねこは、さっき、ばしゃでにしのほうへとんでいきましたよ。」)
「やまねこは、さっき、馬車で西の方へ飛んで行きましたよ。」
(「おかしいな、にしならぼくのうちのほうだ。)
「おかしいな、西ならぼくのうちの方だ。
(けれども、まあもすこしいってみよう。ふえふき、ありがとう。」)
けれども、まあも少し行ってみよう。ふえふき、ありがとう。」
(たきはまたももとのようにおふえをふきつづけました。)
滝はまたも元のようにお笛を吹きつづけました。
(いちろうがまたすこしいきますと、いっぽんのぶなのきのしたに、)
一郎がまたすこし行きますと、一本のぶなの木のしたに、
(たくさんのしろいきのこが、どってこどってこどってこと、)
たくさんの白いきのこが、どってこどってこどってこと、
(へんながくたいをやっていました。)
変な楽隊をやっていました。
(いちろうはからだをかがめて、)
一郎はからだをかがめて、
(「おい、きのこ、やまねこが、ここをとおらなかったかい。」)
「おい、きのこ、やまねこが、ここを通らなかったかい。」
(とききました。するときのこは)
とききました。するときのこは
(「やまねこなら、けさはやく、ばしゃでみなみのほうへ)
「やまねこなら、けさはやく、馬車で南の方へ
(とんでいきましたよ。」とこたえました。)
飛んで行きましたよ。」とこたえました。
(いちろうはくびをひねりました。)
一郎は首をひねりました。
(「みなみならあっちのやまのなかだ。おかしいな。)
「みなみならあっちの山のなかだ。おかしいな。
(まあもすこしいってみよう。きのこ、ありがとう。」)
まあもすこし行ってみよう。きのこ、ありがとう。」
(きのこはみんないそがしそうに、どってこどってこと、)
きのこはみんないそがしそうに、どってこどってこと、
(あのへんながくたいをつづけました。)
あのへんな楽隊をつづけました。
(いちろうはまたすこしいきました。)
一郎はまたすこし行きました。
(するといっぽんのくるみのきのこずえを、りすがぴょんととんでいました。)
すると一本のくるみの木の梢を、栗鼠がぴょんととんでいました。
(いちろうはすぐてまねぎしてそれをとめて、)
一郎はすぐ手まねぎしてそれをとめて、
(「おい、りす、やまねこがここをとおらなかったかい。」)
「おい、りす、やまねこがここを通らなかったかい。」
(とたずねました。するとりすは、きのうえから、)
とたずねました。するとりすは、木の上から、
(がくにてをかざして、いちろうをみながらこたえました。)
額に手をかざして、一郎を見ながらこたえました。
(「やまねこなら、けさまだくらいうちにばしゃで)
「やまねこなら、けさまだくらいうちに馬車で
(みなみのほうへとんでいきましたよ。」)
みなみの方へ飛んで行きましたよ。」
(「みなみへいったなんて、にふたとこでそんなことを)
「みなみへ行ったなんて、二ふたとこでそんなことを
(いうのはおかしいなあ。けれどもまあもすこしいってみよう。)
言うのはおかしいなあ。けれどもまあもすこし行ってみよう。
(りす、ありがとう。」りすはもういませんでした。)
りす、ありがとう。」りすはもう居ませんでした。
(ただくるみのいちばんうえのえだがゆれ、)
ただくるみのいちばん上の枝がゆれ、
(となりのぶなのはがちらっとひかっただけでした。)
となりのぶなの葉がちらっとひかっただけでした。
(いちろうがすこしいきましたら、たにがわにそったみちは、)
一郎がすこし行きましたら、谷川にそったみちは、
(もうほそくなってきえてしまいました。)
もう細くなって消えてしまいました。
(そしてたにがわのみなみの、まっくろなかやのきのもりのほうへ、)
そして谷川の南の、まっ黒な榧の木の森の方へ、
(あたらしいちいさなみちがついていました。)
あたらしいちいさなみちがついていました。
(いちろうはそのみちをのぼっていきました。)
一郎はそのみちをのぼって行きました。
(かやのえだはまっくろにかさなりあって、あおぞらはひときれもみえず、)
榧の枝はまっくろに重なりあって、青ぞらは一きれも見えず、
(みちはだいへんきゅうなさかになりました。)
みちは大へん急な坂になりました。
(いちろうがかおをまっかにして、あせをぽとぽとおとしながら、)
一郎が顔をまっかにして、汗をぽとぽとおとしながら、
(そのさかをのぼりますと、にわかにぱっとあかるくなって、)
その坂をのぼりますと、にわかにぱっと明るくなって、
(めがちくっとしました。)
眼がちくっとしました。
(そこはうつくしいおうごんいろのくさちで、くさはかぜにざわざわなり、)
そこはうつくしい黄金いろの草地で、草は風にざわざわ鳴り、
(まわりはりっぱなおりーぶいろのかやのきのもりで)
まわりは立派なオリーブいろのかやの木のもりで
(かこまれてありました。そのくさちのまんなかに、)
かこまれてありました。その草地のまん中に、
(せいのひくいおかしなかたちのおとこが、ひざをまげててにかわむちをもって、)
せいの低いおかしな形の男が、膝を曲げて手に革鞭をもって、
(だまってこっちをみていたのです。)
だまってこっちをみていたのです。
(いちろうはだんだんそばへいって、)
一郎はだんだんそばへ行って、
(びっくりしてたちどまってしまいました。)
びっくりして立ちどまってしまいました。
(そのおとこは、かたがんで、みえないほうのめは、しろくびくびくうごき、)
その男は、片眼で、見えない方の眼は、白くびくびくうごき、
(うわぎのようなはんまといのようなへんなものをきて、)
上着のような半纒のようなへんなものを着て、
(だいいちあしが、ひどくまがってやぎのよう、)
だいいち足が、ひどくまがって山羊のよう、
(ことにそのあしさきときたら、)
ことにそのあしさきときたら、
(ごはんをもるへらのかたちだったのです。)
ごはんをもるへらのかたちだったのです。
(いちろうはきみがわるかったのですが、なるべくおちついてたずねました。)
一郎は気味が悪かったのですが、なるべく落ちついてたずねました。
(「あなたはやまねこをしりませんか。」)
「あなたは山猫をしりませんか。」
(するとそのおとこは、よこめでいちろうのかおをみて、)
するとその男は、横眼で一郎の顔を見て、
(くちをまげてにやっとわらっていいました。)
口をまげてにやっとわらって言いました。
(「やまねこさまはいますぐに、ここにもどっておいでやるよ。)
「山ねこさまはいますぐに、ここに戻ってお出でやるよ。
(おまえはいちろうさんだな。」)
おまえは一郎さんだな。」
(いちろうはぎょっとして、いちあしうしろにさがって、)
一郎はぎょっとして、一あしうしろにさがって、
(「え、ぼくいちろうです。けれども、どうしてそれをしってますか。」)
「え、ぼく一郎です。けれども、どうしてそれを知ってますか。」
(といいました。)
と言いました。
(するとそのきたいなおとこいよいよにやにやしてしまいました。)
するとその奇体な男いよいよにやにやしてしまいました。
(「そんだら、はがきみだべ。」)
「そんだら、はがき見だべ。」
(「みました。それできたんです。」)
「見ました。それで来たんです。」
(「あのぶんしょうは、ずいぶんへただべ。」)
「あのぶんしょうは、ずいぶん下手だべ。」
(とおとこはしたをむいてかなしそうにいいました。)
と男は下をむいてかなしそうに言いました。
(いちろうはきのどくになって、)
一郎はきのどくになって、
(「さあ、なかなか、ぶんしょうがうまいようでしたよ。」)
「さあ、なかなか、ぶんしょうがうまいようでしたよ。」