ある自殺者の手記 三

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(すなわち、このせいのしゅうちゃくにうちかってじさつするには)

即ち、この生の執着に打勝って自殺するには

(そこにすぷりんぐぼーるどとなるものがあればよい)

そこにスプリングボールドとなるものがあればよい

(ということにきがついたのだ。)

ということに気がついたのだ。

(きみはおそらく、せいのしゅうちゃくがあたまをもたげたら、それにしたがって、)

君は恐らく、生の執着が頭をもたげたら、 それに従って、

(じさつをおもいとどまったらよいではないかというであろうが、)

自殺を思いとどまったらよいではないかというであろうが、

(それははんせいとだきょうのよちのあるじさつにかぎるので、)

それは反省と妥協の余地のある自殺に限るので、

(ぼくのようなばあいにはただせいのしゅうちゃくにうちかつほうほうがもんだいとなるだけだ。)

僕のような場合にはただ生の執着に打勝つ  方法が問題となるだけだ。

(すぷりんぐぼーるどはいうまでもなくしのみちづれだ。)

スプリングボールドはいうまでもなく死の道づれだ。

(しのみちづれといえば、ふつうは、こちらのこころにどうじょうして)

死の道づれといえば、普通は、こちらの心に同情して

(しんでくれるものをいうのだ。)

死んでくれる者をいうのだ。

(けれども、ふこうにして、ぼくにはそのようなひとをみつけることができぬのだ。)

けれども、不幸にして、僕にはそのような人を見つけることが出来ぬのだ。

(といって、すぷりんぐぼーるどがなくては、とてもしねなくなってきたのだ。)

といって、スプリングボールドがなくては、とても死ねなくなって来たのだ。

(そこでぼくはおおいにかんがえたよ。)

そこで僕は大(おおい)に考えたよ。

(おおいにあせったよ。)

大(おおい)に焦燥った(あせった)よ。

(そのけっか、すぷりんぐぼーるどとするには、)

その結果、スプリングボールドとするには、

(あながちせんぽうのどういをえなくっても、)

あながち先方の同意を得なくっても、

(かんげんすれば、なしうるのだということがわかったのだ。)

換言すれば、なし得る(うる)のだということがわかったのだ。

(そうして、せんぽうのいしにさからってみちづれとするさいには、ひとりじさつするよりも)

そうして、先方の意志にさからって道づれとする際には、一人自殺するよりも

(ふたりじさつするほうが、ふたりじさつするよりも)

二人自殺する方が、二人自殺するよりも

(さんにんじさつするほうが、はるかによういであることをしったよ。)

三人自殺する方が、遙に容易であることを知ったよ。

など

(このばあい、「ようい」というのは、しゅだんのよういというよりも、)

この場合、「容易」というのは、手段の容易というよりも、

(こころの「ようい」をいみしているのだ。)

心の「容易」を意味して居るのだ。

(さてさらばいかなるひとを、せんぽうのいしにさからってみちづれとするか。)

さて 然(さ)らばいかなる人を、先方の意志にさからって道づれとするか。

(それについてぼくはいろいろかんがえたけっか、)

それについて僕は色々考えた結果、

(かとうくん、きみをみちづれにしようとおもったのだ。)

加藤君、君を道づれにしようと思ったのだ。

(かとうくん、)

加藤君、

(さぞきみはおどろくだろう。)

さぞ君は驚くだろう。

(しかし、こいのしょうりしゃを、こいのはいぼくしゃが)

然し、恋の勝利者を、恋の敗北者が

(しのみちづれにしようとするのだといえば、)

死の道づれにしようとするのだといえば、

(それは、べつにふしぎなげんしょうでないことをきみはよくしっているであろう。)

それは、別に不思議な現象でないことを君はよく知って居るであろう。

(きみがいま、かおいろをかえ、てをふるわせてよんでいることを、)

君が今、顔色をかえ、手を顫(ふる)わせて読んでいることを、

(ぼくはよくしっている。しかし、ときおりぼくが、このよのさいごにしたためるしゅきだ。)

僕はよく知って居る。然し、時折僕が、この世の最後にしたためる手記だ。

(どうか、おわりまでよんでくれ。)

どうか、終わりまで読んでくれ。

(ぼくはいまふたりじさつするよりもさんにんじさつするほうがよういだといった。)

僕は今二人自殺するよりも三人自殺する方が容易だといった。

(そうだ。ぼくはきみをみちづれとするとどうじに、)

そうだ。僕は君を道づれとすると同時に、

(つねこさんをもみちづれとすることにしたのだ。)

恒子(つねこ)さんをも道づれとすることにしたのだ。

(こういうと、さだめし、きみは、)

こういうと、定めし、君は、

(いかなるほうほうで、ぼくが、)

いかなる方法で、僕が、

(きみたちふたりをぼくのみちづれにするかをあやしむであろう。)

君たち二人を僕の道づれにするかを怪しむであろう。

(ところが、それはきわめて、わけのないことだ。)

ところが、それは極めて、わけのないことだ。

(きょうのしょうごに、ぼくたちさんにんは、いつものごとくへいわにしょくじをする。)

今日の正午に、僕たち三人は、いつもの如く平和に食事をする。

(きょうはいちにちできゅうぎょうびだからほかのしようにんはひとりもいない。)

今日は一日で休業日だからほかの使用人は一人も居ない。

(きみたちは、まさか、ぼくが、きみたちのほうようを)

君たちは、まさか、僕が、君たちの抱擁を

(ひそかにみたとはおもわないであろう。)

ひそかに見たとは思わないであろう。

(そこでぼくは、きみとつねこさんとのたべもののなかへ、)

そこで僕は、君と恒子さんとの食(たべ)もののなかへ、

(、、、のちしりょうをまぜようとおもう。)

、、、の致死量をまぜようと思う。

(、、、はまえにかいたごとく、じさつにつごうのよいとおなじく)

、、、は前に書いたごとく、自殺に都合のよいと同じく

(たさつにもつごうがよいのだ。)

他殺にも都合が良いのだ。

(もとより、きみたちがしょくじをおわったあとに、ぼくは、、、をのむ。)

もとより、君たちが食事を終わった後に、        僕は、、、をのむ。

(そうして、きみがしょくじをしてしまってからやくさんじゅっぷんほどすぎて、)

そうして、君が食事をしてしまってから        約三十分ほど過ぎて、

(このしゅきをわたすのだ。するときみとつねこさんは、)

この手記を渡すのだ。すると君と恒子さんは、

(、、、をのまされたことをしってさだめしろうばいするであろうが、)

、、、をのまされたことを知って定めし狼狽するであろうが、

(もはやどうすることもできないのだ。きみたちがこんすいにおちいると、)

も早どうすることも出来ないのだ。君たちが昏睡に落ると、

(ぼくはきみとつねこさんとをならばせ、それから、)

僕は君と恒子さんとをならばせ、それから、

(ぼくはつねこさんのわきによこになろうとおもう。)

僕は恒子さんのわきに横になろうと思う。

(そうすればぼくときみとはつねこさんをはさんでしぬことになるのだ。)

そうすれば僕と君とは恒子さんをはさんで死ぬことになるのだ。

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