森鴎外 山椒大夫8

投稿者藤村 彩愛 プレイ回数350
難易度(4.5) 723打 長文 タグ長文 小説 文豪 森鴎外 山椒大夫
森鴎外の山椒大夫です。
とても長文です。

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問題文

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(あんじゅこいしや、ほうやれほ。ずしおうこいしや、ほうやれほ。)

安寿恋しや、ほうやれほ。厨子王恋しや、ほうやれほ。

(とりもしょうあるものなれば、とうとうにげよ、おわずとも。)

鳥も生《しょう》あるものなれば、疾《と》う疾う逃げよ、逐《お》わずとも。

(まさみちはうっとりとなって、このことばにききほれた。そのうちぞうふが)

正道はうっとりとなって、この詞に聞き惚れた。そのうち臓腑《ぞうふ》が

(にえかえるようになって、けものめいたさけびがくちからでようとするのを、はを)

煮え返るようになって、獣めいた叫びが口から出ようとするのを、歯を

(くいしばってこらえた。たちまちまさみちはしばられたなわがとけたようにかきのうちへ)

食いしばってこらえた。たちまち正道は縛られた縄が解けたように垣のうちへ

(かけこんだ。そしてあしにはあわのほをふみちらしつつ、おんなのまえに)

駆け込んだ。そして足には粟の穂を踏み散らしつつ、女の前に

(うつふした。みぎのてにはまもりほんぞんをささげもって、うつふしたときに、)

俯伏《うつふ》した。右の手には守本尊を捧げ持って、俯伏したときに、

(それをひたいにおしあてていた。おんなはすずめでない、おおきいものがあわをあらしにきたのを)

それを額に押し当てていた。女は雀でない、大きいものが粟をあらしに来たのを

(しった。そしていつものことばをとなえやめて、みえぬめでじっとまえをみた。)

知った。そしていつもの詞を唱えやめて、見えぬ目でじっと前を見た。

(そのときほしたかいがみずにほとびるように、りょうほうのめにうるおいがでた。)

そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。

(おんなはめがあいた。「ずしおう」というさけびがおんなのくちからでた。)

女は目があいた。「厨子王」という叫びが女の口から出た。

(ふたりはぴったりだきあった。)

二人はぴったり抱き合った。

(たいしょうよねんいちがつ)

大正四年一月

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