猫とネズミとお友達
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問題文
(あるねこがはつかねずみとしりあいになり、ねこがねずみに、あなたをとても)
ある猫がはつかねずみと知り合いになり、猫がねずみに、あなたをとても
(すきだしともだちになりたいんだ、としきりにいったので、とうとうねずみは)
好きだし友達になりたいんだ、としきりに言ったので、とうとうねずみは
(ねこといっしょにくらしかじをすることをしょうちしました。「だけど、ふゆにそなえなくては)
猫と一緒に暮らし家事をすることを承知しました。「だけど、冬に備えなくては
(いけないね。そうしないとひもじいおもいをするよ。」とねこはいいました。)
いけないね。そうしないとひもじい思いをするよ。」と猫は言いました。
(「それでねずみくん、きみはあちこちであるけないよ。そうしないといつか)
「それでネズミくん、君はあちこち出歩けないよ。そうしないといつか
(わなにかかるだろうからね。」しんせつなちゅうこくにしたがい、ひとつぼのしぼうをかいましたが、)
罠にかかるだろうからね。」親切な忠告に従い、一壺の脂肪を買いましたが、
(そのつぼをどこにおいたらいいかわかりませんでした。だいぶかんがえたあと、)
その壺をどこに置いたらいいかわかりませんでした。だいぶ考えた後、
(とうとうねこが、「それをしまっておくのにきょうかいよりもよいばしょはわからないね。)
とうとう猫が、「それをしまっておくのに教会よりもよい場所はわからないね。
(だってそこからはだれもものをとっていかないからな。さいだんのしたにつぼをおいて、)
だってそこからは誰もものをとっていかないからな。祭壇の下に壺を置いて、
(ほんとうにこまるまでそれにさわらないでおこうよ。」といいました。)
本当に困るまでそれに触らないでおこうよ。」と言いました。
(それでつぼはあんぜんなばしょにおかれましたが、まもなく、ねこはそれがとても)
それで壺は安全な場所に置かれましたが、まもなく、猫はそれがとても
(ほしくなり、ねずみにいいました。「ねずみくん、はなしたいことがあるんだ。)
欲しくなり、ねずみに言いました。「ネズミくん、話したいことがあるんだ。
(いとこがむすこをうんで、ぼくになづけおやになってもらいたいとたのんでるんだよ。)
いとこが息子を産んで、僕に名付け親になってもらいたいと頼んでるんだよ。
(そのこはしろにちゃいろのぶちで、せんれいのときせんれいばんのうえでだくことになっているんだ)
その子は白に茶色のぶちで、洗礼のとき洗礼盤の上で抱くことになっているんだ
(きょうはでかけさせてくれ。それできみだけでうちのことをやってくれ。」)
今日は出かけさせてくれ。それで君だけでうちのことをやってくれ。」
(「ええ、ええ。」とねずみはこたえました。「もちろんいってください。)
「ええ、ええ。」とねずみは答えました。「もちろん行ってください。
(それでなにかとてもおいしいものをもらったら、わたしのことをおもいだして)
それでなにかとてもおいしいものをもらったら、私のことを思い出して
(くださいね。あまいせんれいのあかわいんをいってきわたしものみたいわ。」)
くださいね。甘い洗礼の赤ワインを一滴私も飲みたいわ。」
(ところが、これはぜんぶうそでした。ねこにはいとこがいないし、なづけおやにも)
ところが、これは全部ウソでした。猫にはいとこがいないし、名付け親にも
(たのまれていませんでした。ねこはまっすぐきょうかいへいき、しぼうのつぼにしのびより、)
頼まれていませんでした。猫はまっすぐ教会へ行き、脂肪の壺に忍び寄り、
(なめはじめ、しぼうのじょうたんをなめつくしました。それからまちのやねのうえをさんぽし、)
舐め始め、脂肪の上端を舐め尽くしました。それから町の屋根の上を散歩し、
(めぼしいものはないかとながめまわし、ひなたでながながとねそべり、しぼうのつぼを)
めぼしいものはないかと眺めまわし、日なたで長々と寝そべり、脂肪の壺を
(おもいおこすたびにくちびるをなめ、ゆうがたになってやっといえにもどりました。)
思い起こす度に唇を舐め、夕方になってやっと家に戻りました。
(「あら、おかえりなさい。」とねずみはいいました。「きっとたのしいいちにちだった)
「あら、お帰りなさい。」とねずみは言いました。「きっと楽しい一日だった
(でしょうね。」「ばんじうまくいったよ。」とねこはこたえました。)
でしょうね。」「万事うまくいったよ。」と猫は答えました。
(「なまえはなんてつけたの?」「”うえなし”だよ。」とねこはまるっきりすずしいかおで)
「名前は何てつけたの?」「"上無し"だよ。」と猫はまるっきり涼しい顔で
(いいました。「”うえなし”ですって?」とねずみはさけびました。)
言いました。「"上無し"ですって?」とねずみは叫びました。
(「それはとてもへんなかわったなまえね。あなたのいえではふつうのなまえなの?」)
「それはとても変な変わった名前ね。あなたの家では普通の名前なの?」
(「それがどうしたんだい?きみんとこのなづけごたちがよばれるみたいな)
「それがどうしたんだい?君んとこの名付け子たちがよばれるみたいな
(”ぱんくずどろぼう”よりましだよ。」とねこはいいました。)
"パン屑泥棒"よりましだよ。」と猫は言いました。
(まもなく、ねこはまたなめたいほっさにおそわれました。ねこはねずみに)
まもなく、猫はまた舐めたい発作に襲われました。猫はねずみに
(「おねがいがあるんだが、もういちどひとりでいえをきりもりしてもらいたいんだ。)
「お願いがあるんだが、もう一度一人で家を切り盛りしてもらいたいんだ。
(またなづけおやにたのまれてね。くびのまわりにしろいわがあるこどもなのでね、)
また名付け親に頼まれてね。首のまわりに白い輪がある子供なのでね、
(ことわれないんだ。」といいました。おひとよしのねずみはりょうかいしました。)
断れないんだ。」と言いました。お人よしのねずみは了解しました。
(しかし、ねこはまちのへいのうしろをしのびあるいてきょうかいへいき、つぼのしぼうをはんぶんたべて)
しかし、猫は町の塀の後ろを忍び歩いて教会へ行き、壺の脂肪を半分食べて
(しまいました。「ひとりじめしてたべるものほどうまいものはないな。」)
しまいました。「独り占めして食べるものほどうまいものはないな。」
(といって、きょうのしごとにすっかりごまんえつでした。いえにかえると、ねずみは、)
と言って、今日の仕事にすっかりご満悦でした。家に帰ると、ねずみは、
(「きょうのこどもはなんてなづけられたの?」とたずねました。「”はんぶんおわり”さ。」)
「今日の子供は何て名付けられたの?」と尋ねました。「"半分終わり"さ。」
(とねこはこたえました。「なにをいってるの?うまれてこのかたそんななまえ)
と猫は答えました。「何を言ってるの?生まれてこのかたそんな名前
(きいたことがないわ。こよみにないってかけてもいいわよ。」)
聞いたことがないわ。暦にないって賭けてもいいわよ。」
(まもなくねこのくちはもっとなめたくてつばがではじめました。「よいことはさんどある」)
まもなく猫の口はもっと舐めたくて唾が出始めました。「良いことは三度ある」
(とねこはいいました。「またなづけおやにたのまれてね。こどもはまっくろで、)
と猫は言いました。「また名付け親に頼まれてね。子供は真っ黒で、
(あしだけしろいんだが、それをのぞけばぜんしんいっぽんもしろいけがなくて、こういうこは)
足だけ白いんだが、それを除けば全身一本も白い毛がなくて、こういう子は
(なんねんかに1かいしかうまれないんだよね。いかせてくれるよね?」)
何年かに1回しか産まれないんだよね。行かせてくれるよね?」
(「”うえなし”、”はんぶんおわり”」とねずみはこたえました。「とてもおかしななまえ)
「"上無し"、"半分終わり"」とねずみは答えました。「とてもおかしな名前
(ばっかり。どういうことかとかんがえさせられるわ。」「きみはこいねずみいろの)
ばっかり。どういうことかと考えさせられるわ。」「君は濃いねずみ色の
(けがわをきて、ながいしっぽでいえにいて、いろんなくうそうにふけっているんだろ。)
毛皮を着て、長いしっぽで家にいて、いろんな空想にふけっているんだろ。
(そんなのはきみがひるまがいしゅつしないからだよ。」とねこはいいました。)
そんなのは君が昼間外出しないからだよ。」と猫は言いました。
(ねこがるすのあいだねずみはいえをそうじし、かたづけましたが、がめついねこはつぼのしぼうを)
猫が留守の間ねずみは家を掃除し、片づけましたが、がめつい猫は壺の脂肪を
(すっからかんにしてしまいました。「すっかりたべてしまうとおちつくな。」と)
すっからかんにしてしまいました。「すっかり食べてしまうと落ち着くな。」と
(おなかをいっぱいにしてふくらましたねこはひとりごとをいいました。そしてよるになって)
お腹をいっぱいにしてふくらました猫は独り言を言いました。そして夜になって
(からいえにもどりました。ねずみはすぐに、3ばんめのこどもはなんというなまえになったか)
から家に戻りました。ねずみはすぐに、3番目の子供は何という名前になったか
(たずねました。「ほかのこたちよりもっときみのきにいらないだろうね。」と)
尋ねました。「他の子たちよりもっと君の気に入らないだろうね。」と
(ねこはいいました。「そのこは、ぜんぶなしだよ。」「ぜんぶなしですって?」)
猫は言いました。「その子は、全部無しだよ。」「全部無しですって?」
(とねずみはさけびました。「それはいちばんあやしいなまえね。いんさつしたものにも)
とねずみはさけびました。「それは一番怪しい名前ね。印刷したものにも
(みたことないわ。ぜんぶなし、いったいどういういみかしら?」そしてしきりに)
見たことないわ。全部無し、いったいどういう意味かしら?」そしてしきりに
(あたまをふっていましたが、そのうちまるまってよこになりねむってしまいました。)
頭を振っていましたが、そのうち丸まって横になり眠ってしまいました。
(このときからはだれもねこをなづけおやによばなくなりました。しかし、ふゆがきて、)
このときからは誰も猫を名付け親によばなくなりました。しかし、冬がきて、
(もうそとでなにもみつからなくなると、ねずみはたくわえておいたしょくりょうをおもいおこし、)
もう外で何も見つからなくなると、ねずみは蓄えておいた食料を思い起こし、
(「ねえ、ねこさん、じぶんたちのためにしまっておいたしぼうのつぼのところに)
「ねえ、猫さん、自分たちのためにしまっておいた脂肪の壺のところに
(いきましょう。おいしいでしょうね。」といいました。「そうとも。」と)
行きましょう。おいしいでしょうね。」と言いました。「そうとも。」と
(ねこはこたえました。「きみがそのぜいたくなしたをまどからつきだしてたのしいのと)
猫は答えました。「君がその贅沢な舌を窓から突き出してたのしいのと
(おなじくらいおいしいさ。」にひきはでかけましたが、ついてみると、しぼうのつぼは)
同じくらいおいしいさ。」二匹は出かけましたが、着いてみると、脂肪の壺は
(たしかにまだそのばしょにあったもののからっぽでした。「ああ、どういうことか)
確かにまだその場所にあったものの空っぽでした。「ああ、どういうことか
(いまわかったわ。いまはっきりした。あなたはほんとうのともだちね。なづけおやを)
今わかったわ。今はっきりした。あなたは本当の友達ね。名付け親を
(していたときぜんぶたべちゃったのね。さいしょはうえなし、それからはんぶんおわり、)
していたとき全部たべちゃったのね。最初は上無し、それから半分終わり、
(それから...」「だまれ!」とねこはさけびました。「あとひとことしゃべったらおまえも)
それから...」「黙れ!」と猫は叫びました。「あと一言喋ったらお前も
(くっちまうぞ。」”ぜんぶなし”はもうかわいそうなねずみのくちびるにきていて、)
食っちまうぞ。」"全部無し"はもう可哀そうなねずみの唇に来ていて、
(それをいったとたん、ねこはねずみにとびかかり、つかまえて、のみこみました。)
それを言った途端、猫はねずみに跳びかかり、つかまえて、飲みこみました。
(ほんとうに、それがせけんというものね。)
本当に、それが世間というものね。