貴女を幸せにするために

(みぎをむいて、ひだりむいて、)

右を向いて、左向いて、

(さあ、どちら)

さぁ、どちら？

(こんじょうの、まよいびとよ。)

今生の、迷い人よ。

(もどるべきか、すすむべきか、)

戻るべきか、進むべきか、

(さあ、どちら)

さぁ、どちら？

(こんじょうの、まよいびとよ。)

今生の、迷い人よ。

(そのめにうかぶいろが、)

その眼に浮かぶ色が、

(しあわせをしらぬようなら。)

「幸せ」を知らぬ様なら。

(わたしはただここに)

わたしはただここに

(おまえのしあわせをねがうのみ。)

お前の幸せを願うのみ。

(どうか、おききいただけましょうか、)

どうか、お聞きいただけましょうか、

(このあわれなみのうえを、)

この哀れな身の上を、

(おじひあらばどうか、どうか、)

御慈悲在らばどうか、どうか、

(おききとどけくださいまし。)

お聞き届け下さいまし。

(はははみっつにはなくなり、)

母は三つには亡くなり、

(ちちのかおもろくにしりませぬ。)

父の顔も碌に知りませぬ。

(かせぎにだされ、ただいきるために、)

稼ぎに出され、ただ生きる為に、

(くりかえすほうこうのひび。)

繰り返す奉公の日々。

(おきてははたらき、くるひもはたらき、)

起きては働き、来る日も働き、

(ただただ、あのかたのおいかりの)

ただただ、あの方のお怒りの

(あってはなるまいと、)

在ってはなるまいと、

(そのかげにおびえているのです。)

その影に怯えているのです。

(ああ、ああ、おうささま。)

ああ、ああ、お宇佐様。

(どうか、なさけのあるならば、)

どうか、情けのあるならば、

(ああ、ああ、おうささま。)

ああ、ああ、お宇佐様。

(どうか、みちをおしめしください。)

どうか、道をお示し下さい。

(わたしは、つらいのです。)

私は、辛いのです。

(くつうでならぬのです。)

苦痛でならぬのです。

(それでも、わたしはもどらなければ)

それでも、私は戻らなければ…

(ああ、ああ、おうささま。)

ああ、ああ、お宇佐様。

(どうか、これいじょうあのかたが)

どうか、これ以上あの方が

(おいかりになられるまえに。)

お怒りになられる前に。

(どうか、そのみちを、おおしえくださいまし。)

…どうか、その道を、お教え下さいまし。

(おまえはなぜそうまでして、いきるのか)

お前はなぜそうまでして、生きるのか？

(それいがいに、できることもありませぬゆえに)

―それ以外に、できることもありませぬ故に

(じゆうをそのてにしたくはないのか)

自由をその手にしたくはないのか？

(それがあって、なんのいみが、ございましょうか。)

―それがあって、何の意味が、ございましょうか。

(にげていきゆくことをしらないのか)

逃げて生きゆくことを知らないのか？

(わたしにはにげゆくばしょさえもないのですから。)

―私には逃げ行く場所さえもないのですから。

(では、しあわせをもとめてはいないのか)

では、幸せを求めては居ないのか？

(なにがしあわせかさえも、もはやわかりませぬ。)

―何が幸せかさえも、もはやわかりませぬ。

(ならば、わたしは、ここに、おまえがしあわせをねがう。)

…ならば、私は、ここに、お前が幸せを願う。

(さあ、みぎかひだりか。)

さぁ、右か左か。

(もはや、ふたつにひとつのみち。)

もはや、二つに一つの道。

(そのてでえらびとれ。)

その手で選び取れ。

(おのがいしのしんじるみちを。)

己が意思の信じる道を。

(もどるなら、みぎをみよ。)

戻るなら、右を見よ。

(あのくらしにあまんじて、もどりたいならばとめはしない。)

あの暮らしに甘んじて、戻りたいならば止めはしない。

(いままでのくらしがなにもかわらずおまえをまつだろう。)

今までの暮らしが何も変わらずお前を待つだろう。

(あるいは、)

或いは、

(すすむなら、ひだりをみよ。)

進むなら、左を見よ。

(つらくもくるしくも、るてんのさきにきぼうをみるならば。)

辛くも苦しくも、流転の先に希望を見るならば。

(またあたらしいせいのかたちをおまえはしるだろう。)

また新しい生のかたちをお前は知るだろう。

(さあ、どちら)

さぁ、どちら？

(わたしはただ、ここに、しあわせをねがうのみ。)

…私はただ、ここに、「幸せ」を願うのみ。