天才/奏音69

(ああ)

嗚呼！

(なにやってもうかんでこねぇ)

何やつても浮かんでこねぇ！

(しゃばりらかけないかけない)

娑婆、利楽、書けない、書けない。

(でだいひょうさくひとつありゃしない)

で、代表作ひとつありゃしない。

(だれもしらないだいさっか)

誰も知らない大作家。

(そんじゃいっさいがっさいかわにみをなげりゃあ)

そんぢや一切ガッサイ川に身を投げりゃあ、

(このなもしれるか)

此の名も知れルカ！？

(はぁ・・・・・・)

ハァ……。

(じゅうねんにいちどのてんさいとかいわれて)

十年に一度の天才とか言はれて、

(ちやほやされてみたいわ)

ちやほやされてみたいわ。

(だれかになりたかったのにだれにもなれずに)

誰かに成りたかつたのに、誰にも成れずに、

(いまじゃしがないごしっぷ)

今ぢやしがない娯誌筆、

(りょうさんりょうさんりょうさん)

量産、量産、量産。

(１２３・・・・・・じゃなくて)

１・２・３……ぢやなくて、

(しのごのｒｏｃｋ)

四の五のRock！

(おいてゆかないでくれよせかい)

置いて往かないでくれよ、世界。

(ほらかたちだけのさいのうまえならえのりゅうこう)

ほら、型ちだけの才能。前ならへの流行。

(すきなままありたいのにきらっちまいそうだ)

好きな儘在りたいのに、嫌つちまひさうだ。

(きょうもじだいおくれのぺんをはしらせて)

今日も時代遅れのペンを走らせて、

(おまえのふりをしたいだけ)

天才のフリをしたいだけ。

(わからないあざわらいなになに)

解らない（嘲笑）何々？

(きたいのしんせいはなんとまだみせいじん)

期待の新星は、何とまだ未成人！

(それにくらべこちられきはじゅうとごねん)

其れに比べ、コチラ歴は十と五年。

(わたくしいまだむめいなんてみっともねぇ)

ワタクシ、未だ無名なんて醜つともねぇ。

(とおでしんどうじゅうごでさいし)

十で神童、十五で才子、

(はたちすぎればただのいっぱんぴーぽー)

二十過ぎれば只の一般ピーポー。

(ひとはみんなおんなじってだれのざれごと)

「人は皆同じ」つて、誰の戯言？

(しかるによまいごとのられつ)

然るに、世迷ひ言の羅列。

(つとにゆめつきつゆときえゆく)

夙に夢尽き、露と消えゆく。

(きっとそれだけ)

きつと、其れだけ。

(１２３・・・・・・じゃなくて)

１・２・３……ぢやなくて、

(しのごのｒｏｃｋ)

四の五のRock！

(だがいまにみていろよせかい)

だが今に見てゐろよ、世界。

(ほらからだこころはいてなみだちもつきて)

ほら、体心吐いて。涙血も尽きて。

(からっからになるようなこんじょうのけっさくを)

空ツカラになるやうな、今生の傑作を。

(そんなじごくをかけたならもうさいごだっていい)

そんな字極を書けたなら、もう最期だつて善い。

(おまえになれるものならば)

天才に成れるものならば。

(よくぼうをかねでかおうが)

欲望をカネで買はうが、

(さけにおぼれようが)

酒に溺れようが、

(かく)

”書く”

(それでしかじぶんをもうみたせねぇんだよ)

其れでしか自分を、もう満足せねぇんだよ。

(またじだいおくれのぺんをはしらせて)

また時代遅れのペンを走らせて、

(きがつけばごぜん０じ)

気が付けば午前０時。

(こんやはひとつかけそうだ)

今夜は、弌つ書けさうだ。