怖い話《大雨の日》

(「うおおおすげぇ！」などとこうふんしていしをなげいれてみると、)

「うおおおスゲェ！」などと興奮して意思を投げ入れてみると、

(あっというまにながされていくのがたのしく、しばらくそこであそんでいました、)

あっという間に流されていくのが楽しく、しばらくそこで遊んでいました、

(するとだれかが「かさいれてみようよ」といいました。)

すると誰かが「傘入れてみようよ」と言いました。

(いしやおちばをながすのにあきはじめていたわたしたちは、)

石や落ち葉を流すのに飽き始めていた私たちは、

(すぐにそのていあんにのっかりました。)

すぐにその提案に乗っかりました。

(ゆうじんのうち、おおきなあまがっぱをきていたともだちが)

友人のうち、大きな雨ガッパを着ていた友達が

(「おれやるー！」とかさをとじてみぞにかさをつっこみました。)

「おれやるー！」と傘を閉じて溝に傘を突っ込みました。

(すると、かなりのすいりゅうだったのもありかさがながれにもっていかれそうになり。)

すると、かなりの水流だったのもあり傘が流れにもっていかれそうになり。

(さらに、たたんだかさのうちがわにみずがはいり、それでもかさをはなせなかったともだちは、)

更に、畳んだ傘の内側に水が入り、それでも傘を離せなかった友達は、

(みぞのほうにむかってころびそうになりました。)

溝の方に向かって転びそうになりました。

(そのとき、うしろから)

その時、後ろから

(「おーい！ちょっときみたち！」)

「おーい！ちょっと君たち！」

(とおとなのどなりごえがきこえてふりかえると、)

と大人の怒鳴り声が聞こえて振り返ると、

(きょうとうせんせいがこちらにはしってきているのがみえました。)

教頭先生がこちらに走ってきているのが見えました。

(そのこえにおどろいたのかともだちがかさをはなすと、かさはいっしゅんでながされ、)

その声に驚いたのか友達が傘を離すと、傘は一瞬で流され、

(みぞのほうからかさのほねがおれるばきばきばきばきというおとがきこえてきました。)

溝の方から傘の骨が折れるバキバキバキバキという音が聞こえてきました。

(かけつけたきょうとうせんせいのひょうじょうはとてもこわくて、)

駆け付けた教頭先生の表情はとても怖くて、

(「あぶないからはやくかえりなさい！こんなところであそんじゃだめだあぶない！」)

「危ないから早く帰りなさい！こんなところで遊んじゃだめだ危ない！」

(といかられました。)

と怒られました。

(ふだんあまりせっすることのないきょうとうせんせいにしかられたことで、)

普段あまり接することのない教頭先生に叱られたことで、

(わたしたちはくものこをちらすようにして、すぐにかえりました。)

私たちはクモの子を散らすようにして、すぐに帰りました。

(いえにかえり、ははおやにこうふんぎみにあったことをはなしていると、)

家に帰り、母親に興奮気味にあったことを話していると、

(ははおやのひょうじょうがぐっとくもり、)

母親の表情がグッと曇り、

(「あんた、それどこあたりで？」ときかれました。)

「あんた、それどこあたりで？」と聞かれました。

(「さかのしたのとこ。みぞのふたがあいてて」)

「坂の下のとこ。溝のふたが開いてて」

(とこたえると、ははおやはとてもいやそうなかおつきになり、)

と答えると、母親はとてもいやそうな顔つきになり、

(「うわぁ、あんなとこで」)

「うわぁ、あんなとこで」

(といって、はなしはじめました。)

と言って、話し始めました。

(８ねんほどまえ、おなじようにどしゃぶりのおおあめのひ、ひとりでかえっていたしょうがくせいのおとこのこが)

8年程前、同じように土砂降りの大雨の日、一人で帰っていた小学生の男の子が

(みぞのかたわらにらんどせるだけのこしてゆくえふめいになりました。)

溝のかたわらにランドセルだけ残して行方不明になりました。

(がっこうにれんらくがいき、せんせいやほごしゃのほうたちでさがしていましたが、)

学校に連絡がいき、先生や保護者の方たちで探していましたが、

(なかなかみつかりませんでした。)

なかなか見つかりませんでした。

(それからすうじかんご、らんどせるだけがのこされていたおとこのこが)

それから数時間後、ランドセルだけが残されていた男の子が

(みぞにおちたとおもわれるばしょからすうひゃくめーとるはなれたみぞのなかではっけんされました。)

溝に落ちたと思われる場所から数百メートル離れた溝の中で発見されました。

(みぞのなかをすさまじいみずのいきおいでながされたおとこのこのからだはぼろぼろになり、)

溝の中を凄まじい水の勢いで流された男の子の体はボロボロになり、

(ぜんしんのほねがおれたむざんなじょうたいではっけんされたそうです。)

全身の骨が折れた無残な状態で発見されたそうです。

(ぜんしんのほねがおれていびつなかたちでこうちょくしていたいたいをみつけたのが、)

全身の骨が折れていびつな形で硬直していた遺体を見つけたのが、

(わたしたちをどなったきょうとうせんせいだったのです。)

私たちを怒鳴った教頭先生だったのです。

(とうじ、そのちいきにすんでいたひとのなかではゆうめいなじこで、)

当時、その地域に住んでいた人の中では有名な事故で、

(みんなよくおぼえているそうです。)

みんなよく覚えているそうです。

(そのあと、いえにきょうとうせんせいからでんわがかかってきて、)

その後、家に教頭先生から電話がかかってきて、

(だれもけがなとしていないかしんぱいしてくれていたそうです。)

誰も怪我なとしていないか心配してくれていたそうです。

(きょうとうせんせいがははおやにかたったのは、いつものようにみまわりにでていると、)

教頭先生が母親に語ったのは、いつものように見回りに出ていると、

(わたしたちがさかのしたのみぞのところにあつまっていたので、)

私たちが坂の下の溝のところに集まっていたので、

(ちのけがひいてかけつけたそうです。)

血の気がひいて駆け付けたそうです。

(そのばしょがまさにあのおとこのこがおちてしまったばしょだったからです。)

その場所がまさにあの男の子が落ちてしまった場所だったからです。

(じこいこう、つうがくろにあるそっこうにはふたがせっちされていたので、なんであのひ、)

事故以降、通学路にある側溝にはふたが設置されていたので、なんであの日、

(あのばしょだけふたがあいていたのかほんとうにふしぎだといっていました。)

あの場所だけふたが開いていたのか本当に不思議だと言っていました。

(もしきょうとうせんせいがそのばにきておおごえでちゅういしてくれなかったら、)

もし教頭先生がその場に来て大声で注意してくれなかったら、

(ともだちはあのおとこのこのようにみぞにひきずりこまれていたようなきがします。)

友達はあの男の子のように溝に引きずり込まれていたような気がします。

(ごじつ、いっしょにかえったともだちとはなして、)

後日、一緒に帰った友達と話して、

(わたしたちはきょうとうせんせいがきてくれてよかったよねとはなしてしましたが、)

私たちは教頭先生が来てくれてよかったよねと話していましたが、

(そういえばだれが「かさいれてみようよ」なんていだしたんだっけという)

そういえば誰が「傘入れてみようよ」なんて言い出したんだっけという

(はなしになり、わたしたちさんにんのだれもそんなていあんをしてはいませんでした。)

話になった時、私たち三人の誰もそんな提案をしてはいませんでした。

(だれがそんなていあんをしたのでしょうか。)

誰がそんな提案をしたのでしょうか。

(おおあめがふると、いまでもあのおおあめのひのこうけいと、きょうとうせんせいのおおきなこえやひょうじょう、)

大雨が降ると、今でもあの大雨の日の光景と、教頭先生の大きな声や表情、

(そして「かさいれてみようよ」というこえをおもいだします。)

そして「傘いれてみようよ」という声を思い出します。