夏目漱石「抗夫」2

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
プレイ回数7難易度(3.9) 1940打 長文 かな
夏目漱石「抗夫」
夏目漱石の「抗夫」です。

読み方にクセがありますが頑張ってください。

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問題文

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(こうかくと、なんだか、ながくひとつどころにたっていて、) こう書くと、何だか、長く一所に立っていて、 (さあごらんくださいといわないばかりにふるまったようにおもわれるがそうじゃない。) さあ御覧下さいと云わないばかりに振舞った様に思われるがそうじゃない。 (じつはしろいめのうんどうがはじまるやいなやきゅうにちゃみせへやすむのがいやになったから、) 実は白い眼の運動が始まるや否や急に茶店へ休むのが厭になったから、 (すたすたあるきだしたつもりである。) すたすた歩き出した積である。 (にもかかわらず、このつもりがしょうしょうおぼつかなかったとみえて、) にも拘らず、この積が少々覚束なかったと見えて、 (じぶんがおやゆびにまむしをこしらえて、まないたげたをねじるまぎわには、) 自分が親指にまむしを拵えて、俎下駄を捩る間際には、 (もうしろいめのうんどうはすんでいた。) もう白い眼の運動は済んでいた。 (ざんねんながらむこうははやいものである。) 残念ながら向うは早いものである。 (じりじりみるんだからさだめしてまがかかるだろうとおもったらおおまちがい。) じりじり見るんだから定めし手間が掛かるだろうと思ったら大間違い。 (じりじりにはそういない、どこまでもおちついている。) じりじりには相違ない、何処までも落附いている。
(がそれでめっぽうはやい。) がそれで滅法早い。 (ちゃやのまえをとおりこしながら、) 茶屋の前を通り越しながら、 (みょうなさようをもってるめがあるものだとおもったくらいである。) 妙な作用を持ってる眼があるものだと思った位である。 (それにしても、ああゆっくりみられないうちに、) それにしても、ああ緩くり見られないうちに、 (はやくむきなおるくふうはなかったもんだろうか。) 早く向き直る工夫はなかったもんだろうか。 (さんざっぱらびやかされて、さあおかえり、ようはないからというだんになって、) さんざっ腹冷かされて、さあ御帰り、用はないからと云う段になって、 (もうごめんこうぶりますとたちあがったようなものだ。) もう御免蒙りますと立ち上った様なものだ。 (こっちはばかげている。あっちはとくいである。) 此方は馬鹿気ている。彼方は得意である。 (あるきだしてからごろくけんはへんにはらがたった。) 歩き出してから五六間は変に腹が立った。 (しかしふゆかいはごろくけんですぐきえてしまった。) 然し不愉快は五六間ですぐ消えてしまった。
など
(とおもうとまたあしがおもくなった。ーーこのあしだもの。) と思うと又足が重くなった。ーーこの足だもの。 (なにしろてつのさいづちをそうほうのあしへしばりつけてあるいてるんだから、) 何しろ鉄の才槌を双方の足へ縛り附けて歩いてるんだから、 (びんかつのこうどうはできないはずだ。) 敏活の行動は出来ない筈だ。 (あのしろいめにじりじりやられたのも、) あの白い眼にじりじり遣られたのも、 (まんざらもちまえのはんまからばかりきたともいえまい。) 満更持前の半間からばかり来たとも云えまい。 (こうおもいなおしてみるとくだらない。) こう思い直してみると下らない。 (そのうえこんなことをきにしていられるみぶんじゃない。) その上こんな事を気にしていられる身分じゃない。 (いったんとびだしたからは、もうどうあってもうちへもどるりょうけんはない。) 一旦飛び出したからは、もうどうあっても家へ戻る了簡はない。 (とうきょうにさえおりきれないからだだ。) 東京にさえ居り切れない身体だ。 (たといいなかでもおちつくきはない。) たとい田舎でも落ち付く気はない。 (やすむとうしろからおっかけられる。) 休むと後から追っ掛けられる。 (きのうまでのいさくさがきってまわったひには) 昨日までのいさくさが切って廻った日には (どんないなかだってやりきれない。) どんな田舎だって遣り切れない。 (だからただあるくのである。) だから只歩くのである。 (けれどもべつだんにめあてもないあるきかただから、) けれども別段に目的もない歩き方だから、 (かおのさきいっけんしほうがぼうとしてなんだかやきそくなったしゃしんのようにくもっている。) 顔の先一間四方がぼうとして何だか焼き損なった写真の様に曇っている。 (しかもこのくもったものが、いつはれるというあてもなく、) しかもこの曇ったものが、いつ晴れると云う的もなく、 (ただばくぜんとさいげんもなくゆくてにひろがっている。) 只漠然と際限もなく行手に広がっている。 (いやしくもじぶんがいきているあいだはごじゅうねんでもろくじゅうねんでも、) 苟くも自分が生きている間は五十年でも六十年でも、 (いくらあるいてもかけてもいぜんとしてひろがっているにちがいない。) いくら歩いても走ても依然として広がっているに違いない。 (ああ、つまらない。) ああ、つまらない。 (あるくのはいたたまれないからあるくので、) 歩くのは居たたまれないから歩くので、 (このぼんやりしたぜんとをぬけだすためにあるくのではない。) このぼんやりした前途を抜出す為に歩くのではない。 (ぬけだそうとしたってぬけだせないのはしれきっている。) 抜け出そうとしたって抜け出せないのは知れ切っている。
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