誰のせいでもない雨が/中島みゆき

(だれのせいでもないあめがふっているしかたのないあめがふっている)

誰のせいでもない雨が降っている　しかたのない雨が降っている

(くろいえだのさきぽつりぽつりちのようにりんごがじぶんのおもさでおちてゆく)

黒い枝の先ぽつりぽつり　血のように　りんごが自分の重さで落ちてゆく

(だれのせいでもないよるがぬれているねむらぬあかごがせめられる)

誰のせいでもない夜が濡れている　眠らぬ赤子が責められる

(そっととおるくろいひこうきがあることもすでにあかごがなれている)

そっと通る黒い飛行機があることも　すでに赤子が慣れている

(もうだれひとりきにしてないよね)

もう誰一人　気にしてないよね

(はやくつきひすべてのかなしみをいやせつきひすべてのかなしみをいやせ)

早く　月日すべての悲しみを癒せ　月日すべての悲しみを癒せ

(いかりもていしをにぎったゆびさきはねむれるあかごをあやしだき)

怒りもて　石を握った指先は　眠れる赤子をあやし抱き

(いかりもてつみをうがったくちびるはときのしとねにあいをよぶ)

怒りもて罪を穿った唇は　時の褥に愛を呼ぶ

(されどさむさにいたみよぶかたみみはされどわたしのうらぎりは)

されど　寒さに痛み呼ぶ片耳は　されど　私の裏切りは

(だれのせいでもないあめがふっているひびのくらしがふっている)

誰のせいでもない雨が降っている　日々の暮らしが降っている

(もうだれひとりきにしてないよね)

もう誰一人気にしてないよね

(はやくつきひすべてのかなしみをいやせつきひすべてのかなしみをいやせ)

早く　月日すべての悲しみを癒せ　月日すべての悲しみを癒せ

(ふねはみなとをでるまえにしずんだとはやすぎるでんれいがひをとめにくる)

船は港を出る前に沈んだと　早すぎる伝令が火を止めに来る

(わたしたちのふねはながくひのうみをしずみきれずにもえている)

私たちの船は　永く火の海を　沈み切れずに燃えている

(きのうたきがわとごとうがかえらなかったってね)

昨日滝川と後藤が帰らなかったってね

(いまごろとおかろうねさむかろうね)

今ごろ遠かろうね寒かろうね

(だれかあたしのあのひとをたすけてよとはだしのおんながあめになく)

誰かあたしのあの人を助けてよと　跣の女が雨に泣く

(もうだれひとりきにしてないよね)

もう誰一人気にしてないよね

(はやくつきひすべてのかなしみをいやせつきひすべてのかなしみをいやせ)

早く　月日すべての悲しみを癒せ　月日すべての悲しみを癒せ

(はやくつきひすべてのかなしみをいやせつきひすべてのかなしみをいやせ)

早く　月日すべての悲しみを癒せ　月日すべての悲しみを癒せ