第四解剖室　スティーヴン・キング　11

(こいつらは、ほんきでやるつもりだ。ここでわたしがこえをだすとかからだを)

こいつらは、本気でやるつもりだ。ここで私が声を出すとか体を

(うごかすとかしないかぎり、こいつらはほんきでやるにちがいない。)

動かすとかしない限り、こいつらは本気でやるに違いない。

(はさみがさいしょにあけたあなからちがながれだしたり、せんけつのふんすいが)

はさみが最初に開けた穴から血が流れ出したり、鮮血の噴水が

(わきあがったりすれば、このいしゃたちもへんじにきづくはず。)

湧き上がったりすれば、この医者達も変事に気づくはず。

(しかし、そのときはおそらくておくれだ。わたしはじぶんのむねのあたりに)

しかし、そのときはおそらく手遅れだ。私は自分の胸のあたりに

(ぜんしんけいをしゅうちゅうさせ、ちからをこめる。というか、ちからをこめようとした。)

全神経を集中させ、力を込める。というか、力を込めようとした。

(すると、なにかがおこる。こえだ！こえがだせる！せいしんをしゅうちゅうさせ、)

すると、何かが起こる。声だ！声が出せる！精神を集中させ、

(いしのちからをさいごのいってきまでふりしぼり、もういっかいおなじことをする。)

意思の力を最後の一滴まで振り絞り、もう一回おなじことをする。

(こんどは、まえよりもすこしつよいこえがだせる。たばこのけむりのように)

今度は、前よりも少し強い声が出せる。たばこの煙のように

(はなのあなからでていくこえーー。そのこえで、むかしむかしのそのまたむかし)

鼻の穴から出て行く声ーー。その声で、昔々のそのまた昔

(てれびでみた＜ひっちこっくげきじょう＞のいちえぴそーどが)

テレビで見た＜ヒッチコック劇場＞の一エピソードが

(おもいだされてきた。じょぜふこっとんがくるまのしょうとつじこで)

思い出されてきた。ジョゼフ・コットンが車の衝突事故で

(ぜんしんまひにおちいり、さんざんなくろうのすえにようやくなみだをひとつぶながして、)

全身麻痺に陥り、散々な苦労の末にようやく涙を一粒流して、

(しゅういのにんげんにじぶんがいきていることをしらせる、というはなしだ。)

周囲の人間に自分が生きていることを知らせる、という話だ。

(なんのこうかもなかったかもしれないが、いまのみにちゅあばんの)

何の効果もなかったかもしれないが、いまのミニチュア版の

(かのはおとのようなちいさなこえは、じぶんがいきていることを)

蚊の羽音のような小さな声は、自分が生きていることを

(じぶんじしんにしょうめいすることはできた。そう、じぶんがじぶんのしんだにくたい)

自分自身に証明することはできた。そう、自分が自分の死んだ肉体

(というねんどにんぎょうのうちがわでぐずぐずしているかたまりではない、と)

という粘土人形の内側でぐずぐずしている塊ではない、と

(しょうめいできたのだ。いしをしゅうちゅうさせると、くうきがはなをけいゆしてのどを)

証明できたのだ。意思を集中させると、空気が鼻を経由して喉を

(ながれてくだっていき、さきほどはきだしたくうきのかわりをつとめて)

流れて下っていき、先ほど吐き出した空気の代わりをつとめて