ちくしょう谷 15

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プレイ回数1124難易度(4.5) 4410打 長文 長文モードのみ
隼人は罪人が暮らした流人村へ役で赴くことになる。
現在、流人村に罪人はおらず子孫だけが独特な風習で暮らす。
そこには兄の仇の西沢半四郎がいた。
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 pechi 6212 A++ 6.8 91.2% 658.8 4529 436 74 2024/04/23

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問題文

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(「わたしはじぶんにそのきもちがなかったとはもうしません、さくのそとまで)

「私は自分にその気持がなかったとは申しません、柵の外まで

(さそいだされたのですし、こばめばこばめたのですから」ろうじんはそっとくびをふった、)

さそいだされたのですし、拒めば拒めたのですから」老人はそっと首を振った、

(「わたしはこごさをおもいちがえていたのです、からだつきはもとより、)

「私はこごさを思い違えていたのです、躯つきはもとより、

(きもちもまだおさないとおもっていましたが、そのよるこごさがわたしをさそうたいどは、)

気持もまだ幼いと思っていましたが、その夜こごさが私をさそう態度は、

(としまおんなのようにたくみでありのうどうてきでした、まだおんなをしらなかったわたしは、)

年増女のように巧みであり能動的でした、まだ女を知らなかった私は、

(ほとんどむちゅうで、こごさのするままになっていたようなものでした」)

殆んど夢中で、こごさのするままになっていたようなものでした」

(とりかえしのつかないことをした。かいこんはにじゅうであった。こごさにもすまないし、)

取返しのつかないことをした。悔恨は二重であった。こごさにも済まないし、

(きどのどうりょうたちにもかおむけができない、ここはいさぎよくせきにんをとるべきだ。)

木戸の同僚たちにも顔向けができない、ここはいさぎよく責任をとるべきだ。

(そうけっしんをすると、ばんあけでじょうかへかえるなりちちにぎぜつしてもらった。)

そう決心をすると、番あけで城下へ帰るなり父に義絶してもらった。

(りゆうはいわず、ただ「かめいをけがすようなかしつをしたから」)

理由は云わず、ただ「家名を汚すような過失をしたから」

(じぶんはこのままたこくするつもりである。そうしゅちょうしておやこのえんをきってもらい、)

自分はこのまま他国するつもりである。そう主張して親子の縁を切ってもらい、

(すぐにむらへひきかえしてきた。そうして、なかばむりじいにまさうちをしょうちさせ、)

すぐに村へ引返して来た。そうして、半ば無理じいにまさうちを承知させ、

(あいていたげんざいのいえで、こごさとふたりのせいかつをはじめた。)

空いていた現在の家で、こごさと二人の生活を始めた。

(そのころはまだおくられてくるるにんがあり、しょくりょうのはいぶんにもゆとりがあったため、)

そのころはまだ送られて来る流人があり、食糧の配分にもゆとりがあったため、

(きどのかんしをのがれるほかには、さしてこんなんなこともなく、)

木戸の監視をのがれるほかには、さして困難なこともなく、

(ほかのじゅうみんたちともなじむようになった。)

他の住民たちとも馴染むようになった。

(「せいかくにいうと、それからよんじゅういちねんになります」)

「正確にいうと、それから四十一年になります」

(ろうじんはゆびをおってみて、うなずいた、「さよう、まるよんじゅういちねんです」)

老人は指を折ってみて、頷いた、「さよう、まる四十一年です」

(こごさにたいしてせきにんをとるというだけではなく、それをきかいに、)

こごさに対して責任をとるというだけではなく、それを機会に、

(むらのじゅうみんたちをたちなおらせよう、というけいかくをもっていた。)

村の住民たちを立ち直らせよう、という計画を持っていた。

など

(だいいちによみかき、ついでろんごのわかりやすいこうわ、またこうしせっぷのでんなど、)

第一に読み書き、ついで論語のわかりやすい講話、また孝子節婦の伝など、

(かれらのきょうをそそるようにつとめてはなした。だが、どんなにやってみても、)

かれらの興をそそるようにつとめて話した。だが、どんなにやってみても、

(ひとりとしてついてくるものがなかった。はんかんをもつとか、)

一人としてついてくる者がなかった。反感をもつとか、

(ひねくれているとかいうのならまだいい。それならまたしゅだんもあるが、)

ひねくれているとかいうのならまだいい。それならまた手段もあるが、

(かれらにはそれさえもなかった。いくせだいもおりのなかでいきてきたけもののように、)

かれらにはそれさえもなかった。幾世代も檻の中で生きて来たけもののように、

(しょくよくとせいのほかは、あらゆることにきょうみをうしなっていた。)

食欲と性のほかは、あらゆることに興味を失っていた。

(ごようりんのしごとでも、やまみちのせいびでも、かんしされさしずをされないかぎり、)

御用林の仕事でも、山道の整備でも、監視され指図をされない限り、

(なにひとつすすんでしようとはしないのである。)

なに一つすすんでしようとはしないのである。

(「わたしはそれをよんじゅうねんもみてまいりました、もちろん、そのあいだずっと、)

「私はそれを四十年も見てまいりました、もちろん、そのあいだずっと、

(かれらのためにちからをつくしたとはいいません」ろうじんはじぶんのみぎてをみつめた、)

かれらのために力を尽したとは云いません」老人は自分の右手をみつめた、

(「しょうじきにもうせば、しんけんに、うちこんでやったきかんは、)

「正直に申せば、しんけんに、うちこんでやった期間は、

(ぜんごじゅうねんくらいものだったでしょう、それも、まつのきにもものみを)

前後十年くらいのものだったでしょう、それも、松の木に桃の実を

(ならせようとするようなものだ、とおもってなげだしたり、)

ならせようとするようなものだ、と思って投げだしたり、

(いや、ばんりのちょうじょうもにんげんのきずいたものだ、とふるいたつ)

いや、万里の長城も人間の築いたものだ、とふるい立つ

(といったようなぐあいでした」)

といったようなぐあいでした」

(こごさがむすめをうみ、なをゆきとつけた。こごさのちちおやがしに、ははおやがしんだ。)

こごさが娘を産み、名をゆきとつけた。こごさの父親が死に、母親が死んだ。

(そのときからじぶんはしょうないとなのり、むすめのゆきのきょういくにせんねんした。)

そのときから自分は正内と名のり、娘のゆきの教育に専念した。

(またいっぽうではきどにはたらきかけ、ざいにんでないものをかいほうし、)

また一方では木戸にはたらきかけ、罪人でない者を解放し、

(りょうないであたらしいせいかつができるようにしてもらいたい、とくりかえしねがいでた。)

領内で新しい生活ができるようにしてもらいたい、と繰り返し願い出た。

(きどへくるばんがしらのなかに、いちにどういするものがあり、じょうかのやくどころとせっしょうのうえ)

木戸へ来る番頭の中に、一二同意する者があり、城下の役所と折衝のうえ、

(「きぼうするものがあったらもうしでるように」というところまで)

「希望する者があったら申出るように」というところまで

(こぎつけたこともあった。「これはまえにいちどもうしあげましたな」)

こぎつけたこともあった。「これはまえにいちど申上げましたな」

(ろうじんはろへたきぎをくべた、「むらのものがどうしたかはあのときもうしました、)

老人は炉へ焚木をくべた、「村の者がどうしたかはあのとき申しました、

(さとへおりようというものがひとりもありません、もっとも、)

里へおりようと云う者が一人もありません、もっとも、

(これももうしあげたとおもうのですが、おとこはじゅうしちはちになるとたいてい)

これも申上げたと思うのですが、男は十七八になるとたいてい

(やまぬけをしますから、むらにのこっているようなものがうごきたがらないのは、)

山ぬけをしますから、村に残っているような者が動きたがらないのは、

(とうぜんのことだったかもしれません」)

当然のことだったかもしれません」

(むすめのゆきはあたまもかなりよく、けんこうにそだっていった。どくしょよくもつよいし、)

娘のゆきは頭もかなりよく、健康に育っていった。読書欲もつよいし、

(しゅせきのすじもよかった。れいぎさほうもぶけなみにきびしくしつけたが、)

手跡の筋もよかった。礼儀作法も武家なみにきびしくしつけたが、

(よくのみこんでそれをまもった。これはものになるとおもい、)

よくのみこんでそれを守った。これはものになると思い、

(このむすめだけでもひとなみにそだてあげれば、そこからみちがひらける)

この娘だけでも人並に育てあげれば、そこから道がひらける

(かもしれないとおもった。じぶんのめにくるいはないとしんじていたが、)

かもしれないと思った。自分の眼に狂いはないと信じていたが、

(ゆきはじゅうろくさいのあき、だたいのしっぱいできゅうしした。)

ゆきは十六歳の秋、堕胎の失敗で急死した。

(むすめがいつそんなことをしたか、じぶんはまったくしらなかったし、)

娘がいつそんなことをしたか、自分はまったく知らなかったし、

(「わたしはつまをといつめました、つまはしっていたのです」)

「私は妻を問い詰めました、妻は知っていたのです」

(ろうじんはまたじぶんのてをみつめ、しばらくだまっていてから、しずかにつづけた、)

老人はまた自分の手をみつめ、暫く黙っていてから、静かに続けた、

(「わたしはつまをせっかんしました、ばかなことですが、ころしてしまおうかとさえ)

「私は妻を折檻しました、ばかなことですが、殺してしまおうかとさえ

(おもいました、こごさにはせっかんされるいみがわからないようすでしたが、)

思いました、こごさには折檻される意味がわからないようすでしたが、

(やがてわたしにいいかえしました、ここはちくしょうだにだ、)

やがて私に云い返しました、ここはちくしょう谷だ、

(じぶんにもおぼえがあるはずだ、と」しょうないろうじんはながいかなひばしでろのひをなおし、)

自分にも覚えがある筈だ、と」正内老人は長い金火箸で炉の火を直し、

(たちあがっていって、ゆのみのなかのひえたちゃをあけると、)

立ちあがっていって、湯呑の中の冷えた茶をあけると、

(そのしとみまどのところにたって、ながいことそとをみまもっていた。)

その蔀窓のところに立って、ながいこと外を見まもっていた。

(おそらくかんじょうをしずめるためだったのだろう、)

おそらく感情をしずめるためだったのだろう、

(やがてもどってきてすわり、ろにかかっているちゃがまから、)

やがて戻って来て坐り、炉に掛っている茶釜から、

(ゆのみにちゃをついだ。すると、ひなたくさいようなくこのかが)

湯呑に茶を注いだ。すると、ひなた臭いような枸杞の香が、

(はやとのところまでにおってきた。)

隼人のところまで匂って来た。

(「あなたのごしあんにみずをさすようなことをもうしあげたのは、)

「貴方の御思案に水をさすようなことを申上げたのは、

(こういうけいけんがあるからです」とろうじんはびしょうしながらいった、)

こういう経験があるからです」と老人は微笑しながら云った、

(「それだからおやめなさいなどとはもうしません、このむらを)

「それだからおやめなさいなどとは申しません、この村を

(こんなじょうたいのままにしておくことは、じゅうみんがあわれだというだけでなく、)

こんな状態のままにしておくことは、住民が哀れだというだけでなく、

(ごりょうしゅのめんもくにもかかわることです、いつか、だれかが、)

御領主の面目にもかかわることです、いつか、誰かが、

(しんじつだってこのしごとをやらなければならない、それにはじじつが)

しんじつ立ってこの仕事をやらなければならない、それには事実が

(どんなにこんなんであるか、ということにとうめんするゆうきと、)

どんなに困難であるか、ということに当面する勇気と、

(ちゅうとでくじけないにんたいりょくがひつようです」)

中途でくじけない忍耐力が必要です」

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