古事記上巻・速須佐之男命3
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問題文
(ここにはやすさのをのみこと、あまてらすおほみかみにまをししく、あがこころきよくあかし。)
ここに速須佐之男命、天照大御神に白ししく、我が心清く明し。
(かれ、あがなせるこはたわやめをうつ。これによりてまをさば、)
故、我が生せる子は手弱女を得つ。これによりて言さば、
(おのづからわれかちぬとまをす。)
自ら我勝ちぬと云す。
(かちさびに、あまてらすおほみかみのつくだのあをはなち、そのみぞをうづめ、)
勝さびに、天照大御神の営田の畔を離ち、その溝を埋め、
(またそのおほにへをきこしめすとのにくそまりちらしき。)
またその大嘗を聞こしめす殿に屎まり散らしき。
(かれ、しかすれどもあまてらすおほみかみはとがめずてのりたまひしく、)
故、然為れども天照大御神は咎めずて告りたまひしく、
(くそなすは、えひてはきちらすとこそ、あがなせのみこと、かくしつらめ。)
屎如すは、酔ひて吐き散らすとこそ、我が汝弟の命、かく為つらめ。
(またたのあをはなち、みぞをうづむるは、ところをあたらしとこそ、)
また田の畔を離ち、溝を埋むるは、地を惜しとこそ、
(あがなせのみこと、かくしつらめ。とのりなほしたまへども、)
我が汝弟の命、かく為つらめ。と詔り直したまへども、
(なほそのあしきわざやまずてうたてありき。)
なほその悪しき態止まずて転ありき。
(あまてらすおほみかみ、いみはたやにまして、かむみそおらしめたまひしとき、)
天照大御神、忌服屋に座して、神御衣織らしめたまひしとき、
(そのはたのむねをうがち、あめのふちこまをさかはぎにはぎておとしいるるときに、)
その服屋の頂を穿ち、天の斑馬を逆剥ぎに剥ぎて堕しいるる時に、
(あめのはたおりめみおどろきて、ひにほとをつきてしにき。)
天の服織女見驚きて、梭に陰上を衝きて死にき。
(かれここにあまてらすおほみかみみかしこみて、あめのいはやとをひらきさしてこもりましき。)
故ここに天照大御神見畏みて、天の岩屋戸を開きさして篭りましき。
(ここにたかまがはらみなくらく、あしはらのなかつくにことごとにくらし。これによりてとこよゆきき。)
ここに高天原皆暗く、葦原中国悉に闇し。これによりて常夜往きき。
(ここによろずのかみのこえは、さばへなすみち、よろずのわざはひことごとにおこりき。)
ここに万の神の声は、さ蝿なす満ち、万の妖悉に発りき。
(ここをもちてやほよろづのかみ、あめのやすのかはらにかむつどひつどひて、)
ここをもちて八百万の神、天の安の河原に神集ひ集ひて、
(たかみむすひのかみのこ、おもひかねてのかみにおもはしめて、)
高御産巣日神の子、思金神に思はしめて、
(とこよのながなきどりをあつめてなかしめて、あめのやすのかはのかはかみのあめのかたしはをとり、)
常世の長鳴鳥を集めて鳴かしめて、天の安の河の河上の天の堅石を取り、
(あめのかなやまのまがねをとりて、かぬちあまつまらをまぎて、)
天の金山の鉄を取りて、鍛人天津麻羅を求ぎて、
(いしこりどめのみことにおほせてかがみをつからしめ、たまのおやのみことにおほせて、)
伊斯許理度売命に科せて鏡を作らしめ、玉祖命に科せて、
(やさかのまがたまのいつほのみすまるのたまをつくらしめて、)
八尺の勾瓊の五百箇の御統の珠を作らしめて、
(あめのこやねのみこと、ふとだまのみことをめして、あめのかぐやまのまをしかのかたをうちぬきにぬきて、)
天児屋命、布刀玉命を召して、天の香山の真男鹿の肩を内抜きに抜きて、
(あめのかぐやまのあめのははかをとりて、うらなひまかなはしめて、)
天の香山の天の朱桜を取りて、占合ひまかなはしめて、
(あめのかぐやまのいつほまさかきをねこじにこじて、)
天の香山の五百箇真賢木を根こじにこじて、
(ほつえにやさかのまがたまのいつほのみすまるのたまをとりつけ、)
上枝に八尺の勾瓊の五百箇の御統の玉を取り著け、
(なかつえにやたかがみをとりかけ、しづえにしらにきて、あをにきてをとりしでて、)
中枝に八尺鏡を取り繋け、下枝に白和幣、青和幣を取り垂でて、
(このくさぐさのものは、ふとだまのみこと、ふとみてぐらととりもちて、あめのこやねのみこと、)
この種種の物は、布刀玉命、太御幣と取り持ちて、天児屋命、
(ふとのりとことほきまをして、あめのたぢからをのかみ、とのわきにかくりたちて、)
太詔戸言祷き白して、天手力男神、戸の掖に隠り立ちて、
(あめのうずめのみこと、あめのかぐやまのあめのひかげをたすきにかけて、)
天宇受売命、天の香山の天の日影を手次に繋けて、
(あめのまさきをかづらとして、あめのかぐやまのささばをたぐさにゆひて、)
天の真拆を鬘として、天の香山の小竹葉を手草に結ひて、
(あめのいはやとにうけふせてふみとどろこし、かむがかりして、)
天の石屋戸に槽伏せて踏み轟こし、神懸りして、
(むなちをかきいでもひもをほとにおしたれき。)
胸乳をかき出で裳緒を陰に忍し垂れき。
(ここにたかまがはらとよみて、やほよろずのかみともにわらひき。)
ここに高天原動みて、八百万の神共に咲ひき。