蜘蛛の糸

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芥川龍之介
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1 novo 5020 B+ 5.1 97.0% 240.2 1244 38 24 2024/10/03

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問題文

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(あるひのことでございます。)

ある日の事でございます。

(おしゃかさまはごくらくのはすいけのふちを、)

御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、

(ひとりでぶらぶらおあるきになっていらっしゃいました。)

独りでぶらぶら御歩きになっていらっしゃいました。

(いけのなかにさいているはすのはなは、みんなたまのようにまっしろで、)

池の中に咲いている蓮の花は、みんな玉のようにまっ白で、

(そのまんなかにあるきんいろのずいからは、)

そのまん中にある金色の蕊からは、

(なんともいえないよいにおいが、たえまなくあたりへあふれております。)

何とも云えない好い匂が、絶間なくあたりへ溢れて居ります。

(ごくらくはちょうどあさなのでございましょう。)

極楽は丁度朝なのでございましょう。

(やがておしゃかさまはそのいけのふちにおたたずみになって、)

やがて御釈迦様はその池のふちに御佇みになって、

(みずのおもてをおおっているはすのはのあいだから、ふとしたのようすをごらんになりました。)

水の面を蔽っている蓮の葉の間から、ふと下の容子を御覧になりました。

(このごくらくのはすいけのしたは、ちょうどじごくのそこにあたっておりますから、)

この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当って居りますから、

(すいしょうのようなみずをすきとおして、さんずのかわやはりのやまのけしきが、)

水晶のような水を透き徹して、三途の河や針の山の景色が、

(ちょうどのぞきめがねをみるように、はっきりとみえるのでございます。)

丁度覗き眼鏡を見るように、はっきりと見えるのでございます。

(するとそのじごくのそこに、かんだたというおとこがひとり、)

するとその地獄の底に、カンダタと云う男が一人、

(ほかのざいにんといっしょにうごめいているすがたが、おめにとまりました。)

ほかの罪人と一しょに蠢めいている姿が、御眼に止まりました。

(このかんだたというおとこは、ひとをころしたりいえにひをつけたり、)

このカンダタと云う男は、人を殺したり家に火をつけたり、

(いろいろあくじをはたらいたおおどろぼうでございますが、)

いろいろ悪事を働いた大泥坊でございますが、

(それでもたったひとつ、よいことをいたしたおぼえがございます。)

それでもたった一つ、善い事を致した覚えがございます。

(ともうしますのは、あるときこのおとこがふかいはやしのなかをとおりますと、)

と申しますのは、ある時この男が深い林の中を通りますと、

(ちいさなくもがいっぴき、みちばたをはっていくのがみえました。)

小さな蜘蛛が一匹、路ばたを這って行くのが見えました。

(そこでかんだたはさっそくあしをあげて、ふみころそうといたしましたが、)

そこでカンダタは早速足を挙げて、踏み殺そうと致しましたが、

など

(「いや、いや、これもちいさいながら、いのちのあるものにちがいない。)

「いや、いや、これも小さいながら、命のあるものに違いない。

(そのいのちをむやみにとるということは、いくらなんでもかわいそうだ。」)

その命を無暗にとると云う事は、いくら何でも可哀そうだ。」

(と、こうきゅうにおもいかえして、)

と、こう急に思い返して、

(とうとうそのくもをころさずにたすけてやったからでございます。)

とうとうその蜘蛛を殺さずに助けてやったからでございます。

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