白痴 1

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白痴。坂口安吾の小説。
戦時の話。全34回。

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問題文

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(そのいえにはにんげんとぶたと)

その家には人間と豚と

(いぬとにわとりとあひるがすんでいたが、まったく、)

犬と鶏と家鴨が住んでいたが、まったく、

(すむたてものもおのおののしょくもつも)

住む建物も各々の食物も

(ほとんどかわっていやしない。)

殆んど変っていやしない。

(ものおきのようなひんまがったたてものがあって、)

物置のようなひん曲った建物があって、

(かいかにはしゅじんふうふ、)

階下には主人夫婦、

(てんじょううらにはははとむすめがまがりしていて、)

天井裏には母と娘が間借りしていて、

(このむすめはあいてのわからぬこどもをはらんでいる。)

この娘は相手の分らぬ子供を孕んでいる。

(いざわのかりているいっしつはおもやからぶんりしたこやで、)

伊沢の借りている一室は母屋から分離した小屋で、

(ここはむかしこのいえのはいびょうのむすこがねていたそうだが、)

ここは昔この家の肺病の息子がねていたそうだが、

(はいびょうのぶたにもぜいたくすぎるこやではない。)

肺病の豚にも贅沢すぎる小屋ではない。

(それでもおしいれとべんじょととだながついていた。)

それでも押入と便所と戸棚がついていた。

(しゅじんふうふはしたてやでちょうないのおはりのせんせいなどもやり)

主人夫婦は仕立屋で町内のお針の先生などもやり

((それゆえはいびょうのむすこをべつのこやへいれたのだ))

(それ故肺病の息子を別の小屋へ入れたのだ)

(ちょうかいのやくいんなどもやっている。)

町会の役員などもやっている。

(まがりのむすめはがんらいちょうかいのじむいんだったが、)

間借りの娘は元来町会の事務員だったが、

(ちょうかいじむしょにねとまりしていてまちかいちょうとしたてやをのぞいた)

町会事務所に寝泊りしていて町会長と仕立屋を除いた

(ほかのやくいんのぜんぶのもの(じゅうすうにん)とこうへいにかんけいをむすんだそうで、)

他の役員の全部の者(十数人)と公平に関係を結んだそうで、

(そのうちのだれかのたねをやどしたわけだ。)

そのうちの誰かの種を宿したわけだ。

(そこでちょうかいのやくいんどもがきょきんして)

そこで町会の役員共が醵金して

醵金:何か事をするために金を出しあうこと。その金。

など

(このやねうらでこどものしまつをつけさせようというのだが、)

この屋根裏で子供の始末をつけさせようというのだが、

(せけんはむだがないもので、やくいんのひとりにとうふやがいて、)

世間は無駄がないもので、役員の一人に豆腐屋がいて、

(このおとこだけむすめがにんしんしてこのやねうらにひそんだあともかよってきて、)

この男だけ娘が姙娠してこの屋根裏にひそんだ後も通ってきて、

(けっきょくむすめはこのおとこのめかけのようにきまってしまった。)

結局娘はこの男の妾のようにきまってしまった。

(ほかのやくいんどもはこれがわかるとさっそくきょきんをやめてしまい、)

他の役員共はこれが分るとさっそく醵金をやめてしまい、

(このわかれめのいっかげつぶんのせいかつひは)

この分れ目の一ヶ月分の生活費は

(とうふやがふたんすべきだとしゅちょうして、)

豆腐屋が負担すべきだと主張して、

(しはらいにおうじないやおやととけいやとじぬしと)

支払いに応じない八百屋と時計屋と地主と

(なにやだかしちはちにんあり(ひとりあたりきんごえん))

何屋だか七八人あり(一人当り金五円)

(むすめはいまにいたるまでじだんだふんでいる。)

娘は今に至るまで地団駄でいる。

(このむすめはおおきなくちとおおきなふたつのめのたまをつけていて、)

この娘は大きな口と大きな二つの眼の玉をつけていて、

(そのくせひどくやせこけていた。)

そのくせひどく痩せこけていた。

(あひるをきらって、にわとりにだけしょくもつののこりをやろうとするのだが、)

家鴨を嫌って、鶏にだけ食物の残りをやろうとするのだが、

(あひるがよこからまきあげるので、まいにちはらをたててあひるをおっかけている。)

家鴨が横からまきあげるので、毎日腹を立てて家鴨を追っかけている。

(おおきなはらとしりをぜんごにつきだして)

大きな腹と尻を前後に突きだして

(きみょうなちょくりつのしせいではしるかっこうがあひるににている。)

奇妙な直立の姿勢で走る恰好が家鴨に似ている。

(このろじのでぐちにたばこやがあって、)

この路地の出口に煙草屋があって、

(いすずというばあさんがおしろいつけてすんでおり、)

五十五という婆さんが白粉つけて住んでおり、

(しちにんめとかはちにんめとかのじょうふをおいだして、)

七人目とか八人目とかの情夫を追いだして、

(そのかわりをちゅうねんのぼうずにしようかやはりちゅうねんのなにやだかにしようかと)

その代りを中年の坊主にしようか矢張り中年の何屋だかにしようかと

(はんもんちゅうのよしであり、わかいおとこがうらぐちからたばこをかいにいくと)

煩悶中の由であり、若い男が裏口から煙草を買いに行くと

(いくつかうってくれるよしで(ただしやみね))

幾つか売ってくれる由で(但し闇値)

(せんせい(いざわのこと)もうらぐちからいってごらんなさいとしたてやがいうのだが、)

先生(伊沢のこと)も裏口から行ってごらんなさいと仕立屋が言うのだが、

(あいにくいざわはつとめさきでとくはいがあるのでばあさんのせわにならずにすんでいた。)

あいにく伊沢は勤め先で特配があるので婆さんの世話にならずにすんでいた。

(ところがそのすじむかいのこめのはいきゅうじょのうらてに)

ところがその筋向いの米の配給所の裏手に

(こがねをにぎったみぼうじんがすんでいて、)

小金を握った未亡人が住んでいて、

(あに(しょっこう)といもうととふたりのこどもがあるのだが、)

兄(職工)と妹と二人の子供があるのだが、

(このしんじつのきょうだいがふうふのかんけいをむすんでいる。)

この真実の兄妹が夫婦の関係を結んでいる。

(けれどもみぼうじんはけっきょくそのほうがやすあがりだともくにんしているうちに、)

けれども未亡人は結局その方が安上りだと黙認しているうちに、

(あにのほうにおんなができた。)

兄の方に女ができた。

(そこでいもうとのほうをかたづけるひつようがあって)

そこで妹の方をかたづける必要があって

(しんせきにあたるごじゅうとかろくじゅうとかのろうじんのところへよめいりということになり、)

親戚に当る五十とか六十とかの老人のところへ嫁入りということになり、

猫イラズ:ねずみを殺す薬。殺鼠剤。

(いもうとがねこいらずをのんだ。)

妹が猫イラズを飲んだ。

(のんでおいてしたてや(いざわのげしゅく)へおけいこにきてくるしみはじめ、)

飲んでおいて仕立屋(伊沢の下宿)へお稽古にきて苦しみはじめ、

(けっきょくしんでしまったが、そのときちょうないのいしゃが)

結局死んでしまったが、そのとき町内の医者が

(しんぞうまひのしんだんしょをくれてはなしはそのままきえてしまった。)

心臓麻痺の診断書をくれて話はそのまま消えてしまった。

(え?どのいしゃがそんなべんりなしんだんしょをくれるんですか、)

え?どの医者がそんな便利な診断書をくれるんですか、

(といざわがぎょうてんしてたずねると、したてやのほうがあっけにとられたおももちで、)

と伊沢が仰天して訊ねると、仕立屋の方が呆気にとられた面持で、

(なんですか、よそじゃ、そうじゃないんですか、ときいた。)

なんですか、よそじゃ、そうじゃないんですか、と訊いた。

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