白痴 12

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坂口安吾の小説。

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問題文

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(このしつようなやりかたにいざわははらをたてた。)

この執拗なやり方に伊沢は腹を立てた。

(てあらくおしいれをあけはなしてあなたはなにをかんちがいをしているのですか、)

手荒く押入を開け放してあなたは何を勘違いをしているのですか、

(あれほどせつめいもしているのにおしいれへはいってとをしめるなどとは)

あれほど説明もしているのに押入へ這入って戸をしめるなどとは

(じんをぶじょくするもはなはだしい、)

人を侮辱するも甚しい、

(それほどしんようできないいえへなぜにげこんできたのですか、)

それほど信用できない家へなぜ逃げこんできたのですか、

(それはひとをぐろうし、)

それは人を愚弄し、

(わたしのじんかくにふとうなはじをあたえ、)

私の人格に不当な恥を与え、

(まるであなたがなにかひがいしゃのようではありませんか、)

まるであなたが何か被害者のようではありませんか、

(ちゃばんもいいかげんにしたまえ。)

茶番もいい加減にしたまえ。

(けれどもそのことばのいみも)

けれどもその言葉の意味も

(このおんなにはりかいするのうりょくすらもないのだとおもうと、)

この女には理解する能力すらもないのだと思うと、

(これくらいはりあいのないばかばかしさもないもので)

これくらい張合のない馬鹿馬鹿しさもないもので

(おんなのよこっつらをなぐりつけてさっさとねむるほうが)

女の横ッ面を殴りつけてさっさと眠る方が

(なによりきがきいているとおもうのだった。)

何より気がきいていると思うのだった。

(するとおんなはみょうにわりきれぬかおつきをしてなにかくちのなかでぶつぶついっている、)

すると女は妙に割切れぬ顔附をして何か口の中でブツブツ言っている、

(わたしはかえりたい、わたしはこなければよかった、)

私は帰りたい、私は来なければよかった、

(といういみのことばであるらしい。)

という意味の言葉であるらしい。

(でもわたしはもうかえるところがなくなったから、というので、)

でも私はもう帰るところがなくなったから、と言うので、

(そのことばにはいざわもさすがにむねをつかれて、)

その言葉には伊沢もさすがに胸をつかれて、

(だから、あんしんしてここでいちやをあかしたらいいでしょう、)

だから、安心してここで一夜を明かしたらいいでしょう、

など

(わたしがあくいをもたないのにまるでひがいしゃのような)

私が悪意をもたないのにまるで被害者のような

(おもいあがったことをするからはらをたてただけのことです、)

思いあがったことをするから腹を立てただけのことです、

(おしいれのなかなどにはいらずにふとんのなかでおやすみなさい。)

押入の中などにはいらずに蒲団の中でおやすみなさい。

(するとおんなはいざわをみつめてなにかはやくちにぶつぶついう。)

すると女は伊沢を見つめて何か早口にブツブツ言う。

(え?なんですか、そしていざわはとびあがるほどおどろいた。)

え? なんですか、そして伊沢は飛び上るほど驚いた。

(なぜならおんなのぶつぶつのなかからわたしはあなたにきらわれていますもの、)

なぜなら女のブツブツの中から私はあなたに嫌われていますもの、

(というひとことがはっきりききとれたからである。)

という一言がハッキリききとれたからである。

(え、なんですって?いざわがおもわずめをみひらいてききかえすと、)

え、なんですって? 伊沢が思わず目を見開いて訊き返すと、

(おんなのかおはしょうぜんとして、わたしはこなければよかった、)

女の顔は悄然として、私はこなければよかった、

(わたしはきらわれている、わたしはそうはおもっていなかった、)

私はきらわれている、私はそうは思っていなかった、

(といういみのことをくどくどといい、)

という意味の事をくどくどと言い、

(そしてあらぬいっかしょをみつめてほうしんしてしまった。)

そしてあらぬ一ヶ所を見つめて放心してしまった。

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