mononoke12

(つらいか)

辛いか

(そこからとびおりればかんたんにけりがつくぞ。たいりょくがもどれば、あざもあばれだす)

そこから飛び降りれば簡単にけりがつくぞ。体力が戻れば、痣も暴れ出す

(わたしはなんにちもねていたようだな。ゆめうつつにあのこのせわになったのをおぼえている)

私は何日も寝ていたようだな。夢うつつにあの子の世話になったのを覚えている

(おまえがひとことでもうめきごえをあげればかみころしてやったものを、おしいことをした)

お前が一言でも呻き声をあげれば噛み殺してやったものを、惜しいことをした

(うつくしいもりだ)

美しい森だ

(おっことぬしはまだうごいていないのか)

乙事主はまだ動いていないのか

(あなにもどれ、こぞう)

穴に戻れ、小僧

(おまえにはきこえまい。いのししどもにくいあらされるもりのひめいが)

お前には聞こえまい。猪共に食い荒らされる森の悲鳴が

(わたしはここでくちていくからだともりのひめいにみみをかたむけながら、あのおんなをまっている)

私はここで朽ちていく体と森の悲鳴に耳を傾けながら、あの女を待っている

(あいつのあたまをかみくだくしゅんかんをゆめみながら)

あいつの頭を噛み砕く瞬間を夢見ながら

(もろ、もりとひとがたたかわずにすむみちはないのか。ほんとうにもうとめられないのか)

モロ、森と人が戦わずにすむ道はないのか。本当にもう止められないのか

(にんげんどもがあつまっている。きゃつらのひがじきにここへとどくだろう)

人間どもが集まっている。彼奴らの火がじきにここへ届くだろう

(さんをどうするきだ。あのこもみちづれにするつもりか)

サンをどうする気だ。あの子も道連れにするつもりか

(いかにもにんげんらしいてまえがってなかんがえだな。さんはわがいちぞくのむすめだ)

いかにも人間らしい手前勝手な考えだな。サンはわが一族の娘だ

(もりといき、もりがしぬときはともにほろびる)

森と生き、森が死ぬときはともに滅びる

(あのこをときはなて。あのこはにんげんだぞ)

あの子を解き放て。あの子は人間だぞ

(だまれこぞう！おまえにあのむすめのふこうがいやせるのか)

黙れ小僧！お前にあの娘の不幸が癒せるのか

(もりをおかしたにんげんが、わがきばをのがれるためになげてよこしたあかごがさんだ)

森を侵した人間が、我が牙を逃れるために投げて寄越した赤子がサンだ

(にんげんにもなれず、やまいぬにもなりきれぬ、あわれでみにくいかわいいわがむすめだ)

人間にもなれず、山犬にもなりきれぬ、哀れで醜い可愛い我が娘だ

(おまえにさんをすくえるか)

お前にサンを救えるか