「白昼夢」3 江戸川乱歩

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タグ小説 長文
江戸川乱歩の小説「白昼夢」です。
今はあまり使われていない、漢字や読み方、表現などがありますが、原文のままです。
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1 pechi 5787 A+ 6.4 90.9% 289.4 1860 185 31 2024/11/02

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(だれかが「ようよう、ごちそうさまっ」とさけんだ。そして、しょうせい。「みなさん」)

誰かが「ようよう、御馳走さまッ」と叫んだ。そして、笑声。「みなさん」

(おとこはそんなはんじょうなどをむししてつづけた。「あなたがたが、もしわたしのきょうぐうに)

男はそんな半畳などを無視して続けた。「あなた方が、若し私の境遇に

(あったらいったいどうしますか。これがころさないでいられましょうか!」)

あったら一体どうしますか。これが殺さないでいられましょうか!」

(「・・・・・・あのおんなはみみかくしがよくにあいました。)

「・・・・・・あの女は耳隠しがよく似合いました。

(じぶんでじょうずにゆうのです・・・・・・きょうだいのまえにすわっていました。)

自分で上手に結うのです・・・・・・鏡台の前に坐っていました。

(ゆいあげたところです。きれいにおけしょうしたかおがわたしのほうをふりむいて、)

結い上げた所です。綺麗にお化粧した顔が私の方をふり向いて、

(あかいくちびるでにっこりわらいました」)

赤い脣でニッコリ笑いました」

(おとこはここでひとつかたをゆりあげてみえをきった。こいまゆがりょうほうからせまって)

男はここで一つ肩を揺り上げて見えを切った。濃い眉が両方から迫って

(すごいひょうじょうにかわった。あかいくちびるがきみわるくひんまがった。)

凄い表情に変った。赤い脣が気味悪くヒン曲った。

(「・・・・・・おれはいまだとおもった。このこのもしいすがたをえいきゅうにおれのものにして)

「・・・・・・俺は今だと思った。この好もしい姿を永久に俺のものにして

(しまうのはいまだとおもった」「よういしていたせんまいどおしを、)

了うのは今だと思った」「用意していた千枚通しを、

(あのおんなのにおやかなえりあしへ、ちからまかせにたたきこんだ。えがおのきえぬうちに、)

あの女の匂やかな襟足へ、力まかせにたたき込んだ。笑顔の消えぬうちに、

(おおきいいときりばがくちびるからのぞいたまんま・・・・・・しんでしまった」)

大きい糸切歯が脣から覗いたまんま・・・・・・死んで了った」

(にぎやかなこうこくのがくたいがとおりすぎた。おおらっぱがとんきょうなおとをだした。)

賑かな広告の楽隊が通り過ぎた。大喇叭が頓狂な音を出した。

(「ここはおくにをなんびゃくり、はなれてとおきまんしゅうの」こどもらがふしにあわせ)

「ここはお国を何百里、離れて遠き満州の」子供等が節に合わせ

(うたいながら、ぞろぞろとついていった。)

歌いながら、ゾロゾロとついて行った。

(「しょくん、あれはおれのことをふれまわっているのだ。まがらたろうはひとごろしだ、)

「諸君、あれは俺のことを触廻っているのだ。真柄太郎は人殺しだ、

(ひとごろしだ、そういってふれまわっているのだ」)

人殺しだ、そういって触廻っているのだ」

(またわらいごえがおこった。がくたいのたいこのおとだけが、おとこのえんぜつのばんそうででも)

又笑い声が起った。楽隊の太鼓の音丈けが、男の演説の伴奏ででも

(あるように、いつまでもいつまでもきこえていた。)

ある様に、いつまでもいつまでも聞えていた。

など

(「・・・・・・おれはにょうぼうのしがいをいつつにきりはなした。いいかね、どうがひとつ、)

「・・・・・・俺は女房の死骸を五つに切り離した。いいかね、胴が一つ、

(てがにほん、これでつまりいつつだ。・・・・・・おしかったけれどしかたがない。)

手が二本、これでつまり五つだ。・・・・・・惜しかったけれど仕方がない。

(・・・・・・よくふとったまっしろなあしだ」)

・・・・・・よく肥った真っ白な足だ」

(「・・・・・・あなたがたはあのみずのおとをきかなかったですか」)

「・・・・・・あなた方はあの水の音を聞かなかったですか」

(おとこはにわかにこえをひくめていった。くびをまえにつきだし、きょろきょろさせながら、)

男は俄に声を低めて云った。首を前につき出し、キョロキョロさせながら、

(さもいちだいじをうちあけるのだといわぬばかりに、「さんしちにじゅういちにちのあいだ、)

さも一大事を打開けるのだといわぬばかりに、「三七二十一日の間、

(わたしのいえのすいどうはざーざーとあけっぱなしにしてあったのですよ。)

私の家の水道はザーザーと開けっぱなしにしてあったのですよ。

(いつつにきったにょうぼうのしたいをね、しとだるのなかにいれて、ひやしていたのですよ。)

五つに切った女房の死体をね、四斗樽の中に入れて、冷していたのですよ。

(これがね、みなさん」ここでかれのこえはきこえないくらいにひくめられた。)

これがね、みなさん」ここで彼の声は聞こえない位に低められた。

(「ひけつなんだよ。ひけつなんだよ。しがいをくさらせない。)

「秘訣なんだよ。秘訣なんだよ。死骸を腐らせない。

(・・・・・・しろうというものになるんだ」)

・・・・・・屍蝋というものになるんだ」

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