残ってる / 吉澤嘉代子

(かいさつはよそよそしいかおで)

改札はよそよそしい顔で

(あさがえりをせめられたきがした)

朝帰りを責められた気がした

(わたしはゆうべのふくのままで)

私はゆうべの服のままで

(うかれたわんぴーすがまぶしい)

浮かれたワンピースがまぶしい

(かぜをひきそうなそら)

風邪をひきそうな空

(いちやにしてまちはきせつをこえたらしい)

一夜にして　街は季節を越えたらしい

(まだあなたがのこってるからだのおくにのこってる)

まだ　あなたが残ってる　からだの奥に残ってる

(ここもここもどこかしこもあなただらけ)

ここもここもどこかしこも　あなただらけ

(でもいそがしいあさがつれていっちゃうの)

でも　忙しい朝が　連れて行っちゃうの

(いかないでいかないでいかないでいかないで)

いかないで　いかないで　いかないで　いかないで

(わたしまだきのうをいきていたい)

私まだ　昨日を生きていたい

(ちゅうりんじょうでかぎをさがすとき)

駐輪場で鍵を探すとき

(かきごおりいろのねいるがはげていた)

かき氷いろのネイルが剥げていた

(ぞうかのひまわりはわたしみたい)

造花の向日葵は私みたい

(もうなつはさむざむしい)

もう夏は寒々しい

(だれかがたばこをけしたけど)

誰かが煙草を消したけど

(わたしのひはのろしをあげてもえつづく)

私の火は　のろしをあげて燃えつづく

(まだみみにのこってるざらざらしたこえ)

まだ　耳に残ってる　ざらざらした声

(ずっとずっとちかくできいてみたかったんだ)

ずっとずっとちかくで　聞いてみたかったんだ

(ああくびすじにつけたきすがじんわり)

ああ　首筋につけた　キスがじんわり

(いかないでいかないでいかないでいかないで)

いかないで　いかないで　いかないで　いかないで

(あきかぜがまちになじんでゆくなかで)

秋風が街に　馴染んでゆくなかで

(わたしまだきのうをいきていた)

私まだ　昨日を生きていた