せいぜい胸を張ってやるさ。

(ひともまばらなえきのほーむにあさのでんしゃがやってきた)

人もまばらな駅のホームに、朝の電車がやってきた。

(こんやにむかってはしりゆくあさのれっしゃがやってきた)

今夜に向って走りゆく、朝の列車がやってきた。

(しぼんだかばんをむねにだきねぼけまなこでしゃそうをのぞく)

萎んだカバンを胸に抱き、寝ぼけ眼で車窓を覗く。

(まちをさるたびにおとがするなにかとちぎれるおとがする)

街を去る度に音がする。何かと千切れる音がする。

(わかってたまっかしったこっちゃねーよ)

分かってたまっか。知ったこっちゃねーよ。

(わかってたまっかしったこっちゃねーよって)

分かってたまっか。知ったこっちゃねーよって。

(とざしたあしおとをかさねてきたし)

閉ざした足音を重ねてきたし

(かさねていくんだろうけど)

重ねていくんだろうけど

(せいぜいむねをはってやるさせいぜいむねをはってやるさ)

せいぜい胸を張ってやるさ。せいぜい胸を張ってやるさ。

(すくいようのないにんげんにしかすくいようのないにんげんもいるだろうよ)

救いようのない人間にしか救いようのない人間もいるだろうよ。

(せいぜいむねをはってやるさ)

せいぜい胸を張ってやるさ。

(らせんかいだんのおどりばでとものうたをきいている)

螺旋階段の踊り場で、商売敵の歌を聴いている。

(こやのとびらからはみだしたとものうたをきいている)

小屋の扉からはみ出した、商売敵の歌を聴いている。

(これがさいごのきょくらしいつめをかむのを)

これが最後の曲らしい。爪を噛むのを、

(ひざをゆらすのをやめてやがてすてーじをつぐたびにおとがする)

膝を揺らすのをやめて、やがてステージを継ぐ度に音がする。

(なにかがちぎれるおとがする)

何かが千切れる音がする。

(まけてたまっかざまあみろ)

負けてたまっか。ざまあみろ。

(まけてたまっかざまあみろって)

負けてたまっか。ざまあみろって。

(すさみきったあしおとをかさねてきたしかさねていくんだろうけど)

荒みきった足音を重ねて来たし 重ねていくんだろうけど

(せいぜいむねをはってやるさせいぜいむねをはってやるさ)

せいぜい胸を張ってやるさ。せいぜい胸を張ってやるさ。

(すくいようのないにんげんにしかすくいようのないにんげんもいるだろう)

救いようのない人間にしか救いようのない人間もいるだろう。

(ぴんとのずれたすぽっとらいとのした)

ピントのズレたスポットライトの下

(とぐろをまくたばこのけむりをけちらし)

トグロを巻くタバコの煙を蹴散らし

(さけにくさったやじをかきわけ)

酒に腐った野次を掻き分け

(よれたてびょうしにしょうせつをしならせながら)

縒れた手拍子に小節をしならせながら

(くびのまがったふぉーくぎたーをかきならし)

首の曲がったフォークギターを掻き鳴らし

(あたまのつぶれたまいくろふぉんにくちづけ)

頭の潰れたマイクロフォンに口づけ

(さゆうちぐはぐなせいたいをすりあわせ)

左右ちぐはぐな声帯を擦り合わせ

(だみごえをはじきとばしながら)

濁声を弾き飛ばしながら

(せいぜいむねをはってやるさせいぜいむねをはってやるさ)

せいぜい胸を張ってやるさ。せいぜい胸を張ってやるさ。

(すくいようのないにんげんにしかすくいようのないにんげんもいるだろう)

救いようのない人間にしか救いようのない人間もいるだろう。