夏目漱石「こころ」2-16

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投稿者投稿者たけしいいね0お気に入り登録
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夏目漱石「こころ」2-16
(中)両親と私
こっちゃん様が(上)の方を上げて下さっていたものの続きでございます。
タイピングを投稿するのは初めてですので、誤字脱字等ありましたらご連絡何卒宜しくお願い致します。

次:https://typing.twi1.me/game/365930

こっちゃん様による(上)
https://typing.twi1.me/profile/userId/86231

お待たせしました。
続きからです。
長くなっちゃいました。

*ご連絡ありがとうございました。次回も続きからとなっております。(4月3日)
順位 名前 スコア 称号 打鍵/秒 正誤率 時間(秒) 打鍵数 ミス 問題 日付
1 berry 7618 7.7 98.0% 374.9 2914 58 54 2024/09/22
2 なおきち 6655 S+ 6.8 97.4% 429.9 2938 77 54 2024/10/09
3 饅頭餅美 4975 B 5.2 95.6% 567.6 2960 136 54 2024/09/28
4 やまちゃん 4796 B 4.9 97.7% 595.6 2925 68 54 2024/09/27
5 bam 3974 D++ 4.1 95.0% 706.3 2962 155 54 2024/10/17

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問題文

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(わたくしがちちのびょうきをよそに、しずかにすわったりしょけんしたりするよゆうのあるごとくに、)

私が父の病気を余所に、静かに坐ったり書見したりする余裕のある如くに、

(ははもめのまえのびょうにんをわすれて、ほかのことをかんがえるだけ、)

母も眼の前の病人を忘れて、外の事を考えるだけ、

(むねにすきまがあるのかしらとうたぐった。)

胸に空地があるのかしらと疑った。

(そのとき「じつはね」とははがいいだした。)

その時「実はね」と母が云い出した。

(「じつはおとうさんのいきておいでのうちに、)

「実は御父さんの生きて御出のうちに、

(おまえのくちがきまったらさぞあんしんなさるだろうとおもうんだがね。)

御前の口が極ったらさぞ安心なさるだろうと思うんだがね。

(このようすじゃ、とてもまにあわないかもしれないけれども、)

この様子じゃ、とても間に合わないかもしれないけれども、

(それにしても、まだああやってくちもたしかならきもたしかなんだから、)

それにしても、まだああ遣って口も慥なら気も慥なんだから、

(ああしておいでのうちによろこばしてあげるようにおやこうこうをおしな」)

ああして御出のうちに喜ばして上げるように親孝行をおしな」

(あわれなわたくしはおやこうこうのできないきょうぐうにいた。)

憐れな私は親孝行の出来ない境遇にいた。

(わたくしはついにいちぎょうのてがみもせんせいにださなかった。)

私は遂に一行の手紙も先生に出さなかった。

(じゅうに)

十二

(あにがかえってきたとき、ちちはねながらしんぶんをよんでいた。)

兄が帰って来た時、父は寝ながら新聞を読んでいた。

(ちちへへいぜいからなにをおいてもしんぶんだけにはめをとおすしゅうかんであったが、)

父へ平生から何を措いても新聞だけには眼を通す習慣であったが、

(とこについてからは、たいくつのためなおさらそれをよみたがった。)

床についてからは、退屈のため猶更それを読みたがった。

(ははもわたくしもしいてははんたいせずに、なるべくびょうにんのおもいどおりにさせておいた。)

母も私も強いては反対せずに、なるべく病人の思い通りにさせて置いた。

(「そういうげんきならけっこうなものだ。)

「そういう元気なら結構なものだ。

(よっぽどわるいかとおもってきたら、たいへんいいようじゃありませんか」)

余程悪いかと思って来たら、大変好いようじゃありませんか」

(あにはこんなことをいいながらちちとはなしをした。)

兄はこんな事を云いながら父と話をした。

(そのにぎやかすぎるちょうしがわたくしにはかえってふちょうわにきこえた。)

その賑やか過ぎる調子が私には却って不調和に聞こえた。

など

(それでもちちのまえをはずしてわたくしとさしむかいになったときは、むしろしずんでいた。)

それでも父の前を外して私と差し向いになったときは、寧ろ沈んでいた。

(「しんぶんなんかよましちゃいけなかないか」)

「新聞なんか読ましちゃ不可なかないか」

(「わたくしもそうおもうんだけれども、よまないとしょうちしないんだから、しようがない」)

「私もそう思うんだけれども、読まないと承知しないんだから、仕様がない」

(あにはわたくしのべんかいをだまってきいていた。)

兄は私の弁解を黙って聞いていた。

(やがて、「よくわかるのかな」といった。)

やがて、「能く解るのかな」と云った。

(あにはちちのりかいりょくがびょうきのために、)

兄は父の理解力が病気のために、

(へいぜいよりはよほどにぶっているようにかんさつしたらしい。)

平生よりは余程鈍っているように観察したらしい。

(「そりゃたしかです。わたくしはさっきにじゅうぷんばかりまくらもとにすわっていろいろはなしてみたが、)

「そりゃ慥です。私はさっき二十分ばかり枕元に坐って色々話して見たが、

(ちょうしのくるったところはすこしもないです。)

調子の狂ったところは少しもないです。

(あのようすじゃことによるとまだなかなかもつかもしれませんよ」)

あの様子じゃことによると未だ中々持つかも知れませんよ」

(あにとぜんごしてついたいもうとのおっとのいけんは、われわれよりもよほどらっかんてきであった。)

兄と前後して着いた妹の夫の意見は、我々よりもよほど楽観的であった。

(ちちはかれにむかっていもうとのことをあれこれとたずねていた。)

父は彼に向って妹の事をあれこれと尋ねていた。

(「からだがからだだからむやみにきしゃになんぞのってゆれないほうがいい。)

「身体が身体だから無暗に汽車になんぞ乗って揺れない方が好い。

(むりをしてみまいにこられたりすると、かえってこっちがしんぱいだから」といっていた。)

無理をして見舞に来られたりすると、却って此方が心配だから」と云っていた。

(「なにいまになおったらあかんぼうのかおでもみに、)

「なに今に治ったら赤ん坊の顔でも見に、

(ひさしぶりにこっちからでかけるからさしつかえない」ともいっていた。)

久し振に此方から出掛るから差支ない」とも云っていた。

(のぎだいしょうのしんだときも、ちちはいちばんさきにしんぶんでそれをしった。)

乃木大将の死んだ時も、父は一番さきに新聞でそれを知った。

(「たいへんだたいへんだ」といった。)

「大変だ大変だ」と云った。

(なにごともしらないわたくしたちはこのとつぜんなことばにおどろかされた。)

何事も知らない私達はこの突然な言葉に驚ろかされた。

(「あのときはいよいよあたまがへんになったのかとおもって、ひやりとした」)

「あの時は愈頭が変になったのかと思って、ひやりとした」

(とあとであにがわたくしにいった。)

と後で兄が私に云った。

(「わたしもじつはおどろきました」といもうとのおっともどうかんらしいことばつきであった。)

「私も実は驚ろきました」と妹の夫も同感らしい言葉つきであった。

(そのころのしんぶんはじっさいいなかものにはひごとにまちうけられるようなきじばかりあった。)

その頃の新聞は実際田舎ものには日毎に待受けられるような記事ばかりあった。

(わたくしはちちのまくらもとにすわってていねいにそれをよんだ。)

私は父の枕元に坐って鄭寧にそれを読んだ。

(よむじかんのないときは、そっとじぶんのへやへもってきて、のこらずめをとおした。)

読む時間のない時は、そっと自分の室へ持って来て、残らず眼を通した。

(わたくしのめはながいあいだ、ぐんぷくをきたのぎだいしょうと、)

私の眼は長い間、軍服を着た乃木大将と、

(それからかんじょみたようななりをしたそのふじんのすがたをわすれることができなかった。)

それから官女みたような服装をしたその夫人の姿を忘れる事が出来なかった。

(ひつうなかぜがいなかのすみまでふいてきて、ねむたそうなきやくさをふるわせているさなかに、)

悲痛な風が田舎の隅まで吹いて来て、眠たそうな樹や草を震わせている最中に、

(とつぜんわたくしはいっつうのでんぽうをせんせいからうけとった。)

突然私は一通の電報を先生から受取った。

(ようふくをきたひとをみるといぬがほえるようなところでは、)

洋服を着た人を見ると犬が吠えるような所では、

(いっつうのでんぽうすらだいじけんであった。)

一通の電報すら大事件であった。

(それをうけとったははは、はたしておどろいたようなようすをして、)

それを受取った母は、果して驚ろいたような様子をして、

(わざわざわたくしをひとのいないところへよびだした。)

わざわざ私を人のいない所へ呼び出した。

(「なんだい」といって、わたくしのふうをひらくのをそばにたってまっていた。)

「何だい」と云って、私の封を開くのを傍に立って待っていた。

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