横光利一 機械 5
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | gg\\ | 6888 | S++ | 7.2 | 94.8% | 588.1 | 4282 | 231 | 57 | 2024/10/26 |
2 | はち | 3646 | D+ | 3.7 | 96.5% | 1134.2 | 4289 | 153 | 57 | 2024/09/19 |
関連タイピング
-
プレイ回数10万歌詞200打
-
プレイ回数24万長文786打
-
プレイ回数74万長文300秒
-
プレイ回数9746313打
-
プレイ回数5397歌詞1062打
-
プレイ回数5962長文989打
-
プレイ回数530歌詞169打
-
プレイ回数1508歌詞かな677打
問題文
(どうしてよいのかわからなくなってきた。まったくわたしはこのときほどはっきりとじぶんを)
どうして良いのか分らなくなって来た。全く私はこのときほどはっきりと自分を
(もてあましたことはない。まるでこころはにくたいといっしょにぴったりとくっついたまま)
持てあましたことはない。まるで心は肉体と一緒にぴったりとくっついたまま
(そんざいとはよくもなづけたとおもえるほどこころがただもくもくとしんたいのおおきさにしたがって)
存在とはよくも名付けたと思えるほど心がただ黙々と身体の大きさに従って
(そんざいしているだけなのだ。しばらくしてわたしはそのままあんしつへはいるとしかけておいた)
存在しているだけなのだ。暫くして私はそのまま暗室へ這入ると仕かけておいた
(ちゃくしょくようのびすむちるをちんでんさすため、しけんかんをとってくろむさんかりをやきはじめた)
着色用のビスムチルを沈殿さすため、試験管をとってクロム酸加里を焼き始めた
(のだがかるべにとってはそれがまたいけなかったのだ。わたしがじゆうにあんしつへはいると)
のだが軽部にとってはそれがまたいけなかったのだ。私が自由に暗室へ這入ると
(いうことがすでにかるべのうらみをかったげんいんだったのにさんざんかれをおこらせた)
いうことがすでに軽部の怨みを買った原因だったのにさんざん彼を怒らせた
(あげくのはてにすぐまたわたしがあんしつへはいったのだからかれのぎゃくじょうしたのももっともな)
揚げ句の果に直ぐまた私が暗室へ這入ったのだから彼の逆上したのももっともな
(ことである。かれはあんしつのどあをあけるとわたしのくびをもったままひきずりだしてゆかの)
ことである。彼は暗室のドアを開けると私の首を持ったまま引き摺り出して床の
(うえへなげつけた。わたしはなげつけられたようにしてほとんどじぶんからたおれるきもちで)
上へ投げつけた。私は投げつけられたようにして殆ど自分から倒れる気持ちで
(たおれたのだが、わたしのようなものをこまらせるのにはまったくそのようにぼうりょくだけより)
倒れたのだが、私のようなものを困らせるのには全くそのように暴力だけより
(ないのであろう。かるべはわたしがしけんかんのなかのくろむさんかりがこぼれたかどうかと)
ないのであろう。軽部は私が試験管の中のクロム酸加里がこぼれたかどうかと
(みているあいだ、どうしたものかいちどあわててへやのなかをかけまわってそれからまた)
見ている間、どうしたものか一度周章てて部屋の中を駈け廻ってそれからまた
(わたしのまえへもどってくると、かけまわったことがなんのやくにもたたなかったとみえてただ)
私の前へ戻って来ると、駈け廻ったことが何の役にもたたなかったと見えてただ
(かれはわたしをにらみつけているだけなのである。しかしもしわたしがすこしでもうごけばかれは)
彼は私を睨みつけているだけなのである。しかしもし私が少しでも動けば彼は
(てもちぶさたのためわたしをけりつけるにちがいないとおもったのでわたしはそのまま)
手持ち無沙汰のため私を蹴りつけるにちがいないと思ったので私はそのまま
(いつまでもたおれていたのだが、せっぱくしたいくらかのじかんでもいったいじぶんはなにを)
いつまでも倒れていたのだが、切迫したいくらかの時間でもいったい自分は何を
(しているのだとおもったがさいごもうぼんやりとまのぬけてしまうもので、まして)
しているのだと思ったが最後もうぼんやりと間の脱けてしまうもので、まして
(こちらはあいてをいちどおもうさまおこらさねばだめだとおもっているときとてもうあいても)
こちらは相手を一度思うさま怒らさねば駄目だと思っているときとてもう相手も
(すっかりきのむくまでおこってしまったころであろうとおもうとついわたしもおちついて)
すっかり気の向くまで怒ってしまった頃であろうと思うとつい私も落ち着いて
(やれやれというきになり、どれほどかるべのやつがさきからあばれたのかとおもって)
やれやれという気になり、どれほど軽部の奴がさきから暴れたのかと思って
(あたりをみまわすといちばんひどくあらされているのはわたしのかおでかるしうむがざらざら)
あたりを見廻すと一番ひどく暴されているのは私の顔でカルシウムがざらざら
(したままくちびるからみみへまではいっているのにきがついた。が、さてわたしはいつ)
したまま唇から耳へまで這入っているのに気がついた。が、さて私はいつ
(おきあがってよいものかそれがわからぬ。わたしはだんさいきからこぼれてわたしのはなのさきに)
起き上がって良いものかそれが分らぬ。私は断裁機からこぼれて私の鼻の先に
(うずたかくつみあがっているあるみにゅーむのかがやいただんめんをながめながらよくまあ)
うず高く積み上っているアルミニュームの輝いた断面を眺めながらよくまア
(みっかのあいだにこれだけのしごとがじぶんにできたとおどろいた。それでかるべにもうつまらぬ)
三日の間にこれだけの仕事が自分に出来たと驚いた。それで軽部にもうつまらぬ
(あらそいはやめてはやくにゅーむにざぼんをぬろうではないかというと、かるべはもう)
争いはやめて早くニュームにザボンを塗ろうではないかというと、軽部はもう
(そんなしごとはしたくないのだ、それよりおまえのかおをみがいてやろうといって)
そんな仕事はしたくないのだ、それよりお前の顔を磨いてやろうといって
(よこたわっているわたしのかおをあるみにゅーむのせっぺんでうめだし、そのうえからわたしのかおを)
横たわっている私の顔をアルミニュームの切片で埋め出し、その上から私の顔を
(あらうようにゆりつづけるのだが、まちにならんだいえいえのとぐちにばんごうをつけて)
洗うように揺り続けるのだが、街に並んだ家々の戸口に番号をつけて
(はりつけられたあのちいさなねーむぷれーとのやまでみがかれているじぶんのかおを)
貼りつけられたあの小さなネームプレートの山で磨かれている自分の顔を
(そうぞうすると、しょせんはなにがおそろしいといってぼうりょくほどおそるべきものはないと)
想像すると、所詮は何が恐ろしいといって暴力ほど恐るべきものはないと
(おもった。にゅーむのかどがゆれるたびにがんめんのしわやくぼんだほねにささってちくちくする)
思った。ニュームの角が揺れる度に顔面の皺や窪んだ骨に刺さってちくちくする
(だけではない。かわいたばかりのうるしがかおにへばりついたままはなれないのだから)
だけではない。乾いたばかりの漆が顔にへばりついたまま放れないのだから
(やがてかおもふくれあがるにちがいないのだ。わたしももうそれだけのぼうりょくをだまってうけて)
やがて顔も膨れ上るにちがいないのだ。私ももうそれだけの暴力を黙って受けて
(おればかるべへのぎむもはたしたようにおもったのでおきあがるとまたあんしつのなかへ)
おれば軽部への義務も果したように思ったので起き上るとまた暗室の中へ
(はいろうとした。するとかるべはまたわたしのそのうでをもってせなかへねじあげ、まどの)
這入ろうとした。すると軽部はまた私のその腕を持って背中へ捻じ上げ、窓の
(そばまでおしてくるとわたしのあたまをまどがらすへぶちあてながらかおをがらすのとっぺんで)
傍まで押してくると私の頭を窓硝子へぶちあてながら顔をガラスの突片で
(きろうとした。もうやめるであろうとおもっているのによそうとははんたいにそんなふうに)
切ろうとした。もうやめるであろうと思っているのに予想とは反対にそんな風に
(いつまでもおってこられると、こんどはこのぼうりょくがいつまでつづくのであろうかと)
いつまでも追って来られると、今度はこの暴力がいつまで続くのであろうかと
(おもいだしていくものだ。しかしそうなればこちらもたとえわるいとはおもっても)
思い出していくものだ。しかしそうなればこちらもたとえ悪いとは思っても
(しゃざいするきなんかはなくなるばかりでいままですきがあればなかなおりをしようと)
謝罪する気なんかはなくなるばかりでいままで隙があれば仲直りをしようと
(おもっていたひょうじょうさえますますにがにがしくふくれてきてさらにつぎのぼうりょくをさそうどういんを)
思っていた表情さえますます苦々しくふくれて来て更に次の暴力を誘う動因を
(つくりだすだけとなった。が、じつはかるべももうおこるきはそんなになくただしかたが)
作り出すだけとなった。が、実は軽部ももう怒る気はそんなになくただ仕方が
(ないのでおこっているだけだということはわかっているのだ。それでわたしはかるべがわたしを)
ないので怒っているだけだということは分っているのだ。それで私は軽部が私を
(まどのそばからげきやくのはいっているふしょくようのばっとのそばまでつれていくと、きゅうに)
窓の傍から劇薬の這入っている腐蝕用のバットの傍まで連れていくと、急に
(かるべのほうへむきかえって、きみはわたしをそんなにいじめるのはきみのかってだがわたしがいままで)
軽部の方へ向き返って、君は私をそんなに虐めるのは君の勝手だが私がいままで
(あんしつのなかでしていたじっけんはたにんのまだしたことのないじっけんなので、もしせいこう)
暗室の中でしていた実験は他人のまだしたことのない実験なので、もし成功
(すればしゅじんがどれほどりえきをえるかしれないのだ。きみはそれもわたしにさせない)
すれば主人がどれほど利益を得るかしれないのだ。君はそれも私にさせない
(ばかりかくしんのすえにつくったびすむちるのようえきまでこぼしてしまったではないか、)
ばかりか苦心の末に作ったビスムチルの溶液までこぼしてしまったではないか、
(ひろえ、というとかるべはそれならなぜじぶんにもそれをいっしょにさせないのだという。)
拾え、というと軽部はそれなら何ぜ自分にもそれを一緒にさせないのだという。
(させるもさせないもないだいたいかがくほうていしきさえよめないものにじっけんをてつだわせ)
させるもさせないもないだいたい化学方程式さえ読めない者に実験を手伝わせ
(たってじゃまになるだけなのだが、そんなこともいえないのですこしいやみだと)
たって邪魔になるだけなのだが、そんなこともいえないので少しいやみだと
(おもったがあんしつへつれていってかがくほうていしきをこまかくかいたのーとをみせてせつめいし、)
思ったが暗室へ連れていって化学方程式を細く書いたノートを見せて説明し、
(これらのすうじにしたがってげんそをくみあわせてはやりなおしてばかりいるしごとがきみに)
これらの数字に従って元素を組み合わせてはやり直してばかりいる仕事が君に
(おもしろいならこれからまいにちでもわたしにかわってしてもらおうというと、かるべははじめて)
面白いならこれから毎日でも私に変ってして貰おうというと、軽部は初めて
(それからわたしにまけはじめた。)
それから私に負け始めた。