横光利一 機械 6
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | だだんどん | 6065 | A++ | 6.7 | 90.9% | 550.8 | 3711 | 370 | 48 | 2024/12/21 |
2 | baru | 3694 | D+ | 4.2 | 88.1% | 876.1 | 3741 | 504 | 48 | 2024/11/19 |
3 | デコポン | 1044 | G+ | 1.0 | 96.2% | 3415.7 | 3712 | 143 | 48 | 2024/11/09 |
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問題文
(かるべとのあらそいもとうぶんのあいだはおこらなくなってわたしもいくらかまえよりいやすくなると)
軽部との争いも当分の間は起らなくなって私もいくらか前よりいやすくなると
(しばらくして、しごとがきゅうげきにかるべとわたしにましてきた。あるしやくしょからそのぜんちょうの)
暫くして、仕事が急激に軽部と私に増して来た。ある市役所からその全町の
(ねーむぷれーとごまんまいをとおかのあいだにせよといってきたのでよろこんだのはしゅふだが)
ネームプレート五万枚を十日の間にせよといって来たので喜んだのは主婦だが
(わたしたちはそのためほとんどよるさえねむれなくなるのはわかっているのだ。それでしゅじんは)
私たちはそのため殆ど夜さえ眠れなくなるのは分っているのだ。それで主人は
(どうぎょうのゆうじんのせいさくじょからてのすいたしょくにんをひとりかりてきてわたしたちのなかへ)
同業の友人の製作所から手のすいた職人を一人借りて来て私たちの中へ
(まじえながらしごとをはじめることにした。はじめのあいだはわたしたちはなんのきもなくただ)
混えながら仕事を始めることにした。初めの間は私たちは何の気もなくただ
(しごとのりょうにあっとうされてしまってはたらいていたのだが、そのうちにあたらしくはいってきた)
仕事の量に圧倒されてしまって働いていたのだが、そのうちに新しく入って来た
(しょくにんのやしきというおとこのようすがなんとなくわたしのちゅういをひきはじめた。ぶきようなてつきと)
職人の屋敷という男の様子が何となく私の注意をひき始めた。不器用な手つきと
(いいひとのようすをみるときのするどいめつきといいしょくにんらしくはしているがこれは)
いい人の様子を見るときの鋭い眼つきといい職人らしくはしているがこれは
(しょくにんではなくてもしかしたらせいさくじょのひみつをぬすみにきたまわしものではないかと)
職人ではなくてもしかしたら製作所の秘密を盗みに来た廻し者ではないかと
(おもったのだ。しかし、そんなことをくちにでもだしてしゃべったらかるべはやしきを)
思ったのだ。しかし、そんなことを口にでも出して饒舌ったら軽部は屋敷を
(どんなめにあわすかしれないのでしばらくだまってかれのようすをみていることに)
どんな目に逢わすかしれないので暫く黙って彼の様子を見ていることに
(していると、やしきのちゅういはいつもかるべのばっとのゆすりかたにそそがれているのをわたしは)
していると、屋敷の注意はいつも軽部の槽の揺り方にそそがれているのを私は
(はっけんした。やしきのしごとはしんちゅうのじがねをかせいそーだのようえきちゅうにいれてかるべの)
発見した。屋敷の仕事は真鍮の地金をカセイソーダの溶液中に入れて軽部の
(すませてきたえんかてつのふしょくやくといっしょにそのときもちいたにすやぐりゅーを)
すませて来た塩化鉄の腐蝕薬と一緒にそのとき用いたニスやグリューを
(あらいおとすやくめなのだが、かるべのしごとのぶぶんはここのせいさくじょのにばんめのとくちょうのぶぶん)
洗い落す役目なのだが、軽部の仕事の部分はここの製作所の二番目の特長の部分
(なので、ほかのせいさくじょではまねすることはできないのだからそこにみいるやしきとて)
なので、他の製作所では真似することは出来ないのだからそこに見入る屋敷とて
(とうぜんなことはとうぜんだとしてもうたがっているときのこととてそのとうぜんなことがなお)
当然なことは当然だとしても疑っているときのこととてその当然なことがなお
(いっそううたがわしいげんいんになるのである。しかし、かるべはやしきにみいられていると)
一層疑わしい原因になるのである。しかし、軽部は屋敷に見入られていると
(ますますとくいになってちょうしをとりつつばっとのなかのえんかてつのようえきをゆするのだ。)
ますます得意になって調子をとりつつ槽の中の塩化鉄の溶液を揺するのだ。
(いつものことならわたしをうたぐりだしたようにかるべとていちおうはやしきをうたがわねばならぬ)
いつものことなら私を疑り出したように軽部とて一応は屋敷を疑わねばならぬ
(はずだのにそれがこともあろうかかるべはやしきにばっとのゆすりかたをせつめいして、じがねに)
筈だのにそれが事もあろうか軽部は屋敷に槽の揺り方を説明して、地金に
(かかれたもじというものはいつもこうしてうつぶせにするもので、すべてきんぞくと)
書かれた文字というものはいつもこうしてうつ伏せにするもので、すべて金属と
(いうものはきんぞくそれじしんのおもみのためにまけるのだからもじいがいのぶぶんは)
いうものは金属それ自身の重みのために負けるのだから文字以外の部分は
(それだけはやくえんかてつにおかされてくさっていくのだとだれにきいたものやら)
それだけ早く塩化鉄に侵されて腐っていくのだと誰に聞いたものやら
(むずかしいくちょうでせつめいしてやしきにいちどばっとをゆすってみよとまでいう。わたしは)
むずかしい口調で説明して屋敷に一度バットを揺すってみよとまでいう。私は
(はじめはひやひやしながらだまってかるべのしゃべっていることをきいていたのだが)
初めはひやひやしながら黙って軽部の饒舌っていることを聞いていたのだが
(しまいにはわたしはわたしでだれがどんなしごとのひみつをしろうとしらせるだけよいのでは)
しまいには私は私で誰がどんな仕事の秘密を知ろうと知らせるだけ良いのでは
(ないかとおもいだし、それからはもうやしきへのけいかいもしないことにさだめて)
ないかと思い出し、それからはもう屋敷への警戒もしないことに定めて
(しまったが、すべてひみつというものはそのぶぶんにはたらくもののまんしんからもれるのだと)
しまったが、すべて秘密というものはその部分に働く者の慢心から洩れるのだと
(きがついたのはそのときのなによりのわたしのしゅうかくであったであろう。それにしても)
気がついたのはそのときの何よりの私の収穫であったであろう。それにしても
(かるべがそんなにうまくひみつをしゃべったのもかれのそのときのちょうしにのったまんしんだけ)
軽部がそんなにうまく秘密を饒舌ったのも彼のそのときの調子に乗った慢心だけ
(ではない、たしかにかれにそんなにもしゃべらせたやしきのふうぼうがかるべのこころをそのとき)
ではない、確に彼にそんなにも饒舌らせた屋敷の風丰が軽部の心をそのとき
(うきあがらせてしまったのにちがいないのだ。やしきのがんこうはするどいがそれがやわらぐと)
浮き上らせてしまったのにちがいないのだ。屋敷の眼光は鋭いがそれが柔ぐと
(あいてのこころをぶんれつさせてしまうふしぎなみりょくをもっているのである。そのかれの)
相手の心を分裂させてしまう不思議な魅力を持っているのである。その彼の
(みりょくはたえずわたしへもことばをいうたびにせまってくるのだがなんにせよわたしはあまりに)
魅力は絶えず私へも言葉をいう度に迫って来るのだが何にせよ私はあまりに
(いそがしくてあさはやくからがすでねっしたしんちゅうへうるしをぬりつけてはかわかしたり)
急がしくて朝早くから瓦斯で熱した真鍮へ漆を塗りつけては乾かしたり
(じゅうくろむさんあんもにあでぬりつめたきんぞくばんをにっこうにさらしてかんこうさせたり)
重クロムサンアンモニアで塗りつめた金属板を日光に曝して感光させたり
(あにりんをかけてみたり、そのたばーにんぐからすみとぎからあもあぴかるから)
アニリンをかけてみたり、その他バーニングから炭とぎからアモアピカルから
(だんさいまでくるくるまわってしつづけなければならぬのでやしきのみりょくもなにもあったもの)
断裁までくるくる廻ってし続けなければならぬので屋敷の魅力も何もあったもの
(ではないのである。するといつかめごろのよなかになってふとわたしがめをさますとまだ)
ではないのである。すると五日目頃の夜中になってふと私が眼を醒すとまだ
(やぎょうをつづけていたはずのやしきがあんしつからでてきてしゅふのへやのほうへはいって)
夜業を続けていた筈の屋敷が暗室から出て来て主婦の部屋の方へ這入って
(いった。いまごろしゅふのへやへなんのようがあるのであろうとおもっているうちに)
いった。今頃主婦の部屋へ何の用があるのであろうと思っているうちに
(おしいことにはもうわたしはしごとのつかれでねむってしまった。よくあさまためをさますとわたしに)
惜しいことにはもう私は仕事の疲れで眠ってしまった。翌朝また眼を醒すと私に
(うかんできただいいちのことはさくやのやしきのようすであった。しかし、こまったことには)
浮んで来た第一のことは昨夜の屋敷の様子であった。しかし、困ったことには
(かんがえているうちにそれはわたしのゆめであったのかげんじつであったのかまったくわからなく)
考えているうちにそれは私の夢であったのか現実であったのか全くわからなく
(なってきたことだ。つかれているときにはいままでとてもときどきわたしにはそんな)
なって来たことだ。疲れているときには今までとてもときどき私にはそんな
(ことがあったのでなおこのたびのやしきのこともわたしのゆめかもしれないとおもえるのだ。)
ことがあったのでなおこの度の屋敷のことも私の夢かもしれないと思えるのだ。