横光利一 機械 7
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | デコポン | 6887 | S++ | 7.1 | 96.7% | 654.1 | 4661 | 156 | 61 | 2024/11/09 |
2 | りーちょ | 4827 | B | 4.9 | 97.5% | 949.1 | 4702 | 120 | 61 | 2024/11/11 |
3 | baru | 4090 | C | 4.5 | 90.1% | 1024.1 | 4704 | 515 | 61 | 2024/11/19 |
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問題文
(しかし、やしきがあんしつへはいったりゆうはそうぞうできなくはないがしゅふのへやへ)
しかし、屋敷が暗室へ這入った理由は想像出来なくはないが主婦の部屋へ
(はいっていったかれのりゆうはわたしにはわからない。まさかやしきとしゅふとがわたしたちには)
這入っていった彼の理由は私には分らない。まさか屋敷と主婦とが私たちには
(わからぬふかいところでまえからこうしょうをもちつづけていたとはおもえないのだしこれはゆめだと)
分らぬ深い所で前から交渉を持ち続けていたとは思えないのだしこれは夢だと
(おもっているほうがかくじつであろうとおもっていると、そのひのしょうごになってふいに)
思っている方が確実であろうと思っていると、その日の正午になって不意に
(しゅじんがさいくんにさくやなにかかわったことがなかったかとわらいながらたずねだした。すると)
主人が細君に昨夜何か変ったことがなかったかと笑いながら訪ね出した。すると
(さいくんは、おかねをとったのはあなただぐらいのことはいくらねぼうのわたしだってしって)
細君は、お金をとったのはあなただぐらいのことはいくら寝坊の私だって知って
(いるのだ。とるのならもっとじょうずにとってもらいたいとすましていうとしゅじんはいっそう)
いるのだ。盗るのならもっと上手にとって貰いたいと澄ましていうと主人は一層
(おおきなこえでおもしろそうにわらいつづけた。それではさくやしゅふのへやへはいっていった)
大きな声で面白そうに笑い続けた。それでは昨夜主婦の部屋へ這入っていった
(のはやしきではなくしゅじんだったのかときがついたのだがいくらいつもきんせんを)
のは屋敷ではなく主人だったのかと気がついたのだがいくらいつも金銭を
(もたされないからといってよなかじぶんのさいくんのまくらもとのさいふをねらってしのびこむ)
持たされないからといって夜中自分の細君の枕もとの財布を狙って忍び込む
(しゅじんもしゅじんだとおもいながらわたしもおかしくなり、あんしつからでてきたのもそれでは)
主人も主人だと思いながら私もおかしくなり、暗室から出て来たのもそれでは
(あなたかとしゅじんにきくと、いやそれはしらぬとしゅじんはいう。ではあんしつから)
あなたかと主人に訊くと、いやそれは知らぬと主人はいう。では暗室から
(でてきたのだけはやはりやしきであろうかそれともそのぶぶんだけはゆめなので)
出て来たのだけは矢張り屋敷であろうかそれともその部分だけは夢なので
(あろうかとまたわたしはまよいだした。しかし、しゅふのへやへはいりこんだおとこが)
あろうかとまた私は迷い出した。しかし、主婦の部屋へ這入り込んだ男が
(やしきでなくてしゅじんだということだけはたしかにげんじつだったのだからあんしつから)
屋敷でなくて主人だということだけは確に現実だったのだから暗室から
(でてきたやしきのすがたもぜんぜんゆめだとばかりもおもえなくなってきて、いちどきえた)
出て来た屋敷の姿も全然夢だとばかりも思えなくなって来て、一度消えた
(やしきへのうたがいもはんたいにまただんだんふかくすすんできた。しかし、そういううたがい)
屋敷への疑いも反対にまただんだん深くすすんで来た。しかし、そういう疑い
(というものはひとりうたがっていたのではけっきょくじぶんじしんをうたがっていくだけなのでなんの)
というものはひとり疑っていたのでは結局自分自身を疑っていくだけなので何の
(やくにもたたなくなるのはわかっているのだ。それよりちょくせつやしきにたずねてみれば)
役にも立たなくなるのは分っているのだ。それより直接屋敷に訪ねて見れば
(わかるのだが、もしたずねてそれがほんとうにやしきだったらやしきのこまるのもきまっている。)
分るのだが、もし訪ねてそれが本当に屋敷だったら屋敷の困るのも決っている。
(このばあいわたしがやしきをこまらしてみたところでべつにわたしのとくになるではなしといって)
この場合私が屋敷を困らしてみたところで別に私の得になるではなしといって
(すてておくにはじけんはきょうみがありすぎておしいのだ。だいいちあんしつのなかにはわたしの)
捨てておくには事件は興味があり過ぎて惜しいのだ。だいいち暗室の中には私の
(くしんをかさねたそうえんとけいさんじるこにうむのかごうぶつや、しゅじんのとくいとするむていけい)
苦心を重ねた蒼鉛と珪酸ジルコニウムの化合物や、主人の得意とする無定形
(せれにうむのせきしょくぬりのひほうがかがくほうていしきとなってかくされているのである。それを)
セレニウムの赤色塗の秘法が化学方程式となって隠されているのである。それを
(しられてしまえばここのせいさくじょにとってはばくだいなそんしつであるばかりではない、)
知られてしまえばここの製作所にとっては莫大な損失であるばかりではない、
(わたしにしたっていままでのひみつはひみつではなくなってせいかつのおもしろさがなくなる)
私にしたっていままでの秘密は秘密ではなくなって生活の面白さがなくなる
(のだ。むこうがひみつをぬすもうとするならこちらはそれをかくしたってかまわぬで)
のだ。向うが秘密を盗もうとするならこちらはそれを隠したってかまわぬで
(あろう。とおもうとわたしはやしきをいちずにぞくのようにうたがっていってみようとけっしんした。)
あろう。と思うと私は屋敷を一途に賊のように疑っていってみようと決心した。
(まえにはわたしはかるべからそのようにうたがわれたのだがこんどはじぶんがたにんをうたがうばんに)
前には私は軽部からそのように疑われたのだが今度は自分が他人を疑う番に
(なったのをかんじると、あのときかるべをそのあいだばかにしていたおもしろさをおもいだして)
なったのを感じると、あのとき軽部をその間馬鹿にしていた面白さを思い出して
(やがてはわたしもやしきにたえずあんなおもしろさをかんじさすのであろうかとそんなこと)
やがては私も屋敷に絶えずあんな面白さを感じさすのであろうかとそんなこと
(までかんがえながら、いちどはひとからばかにされてもみなければともおもいなおしたりして)
まで考えながら、一度は人から馬鹿にされてもみなければとも思い直したりして
(いよいよやしきへちゅういをそそいでいった。ところがやしきはやしきでわたしのめが)
いよいよ屋敷へ注意をそそいでいった。ところが屋敷は屋敷で私の眼が
(ひかりだしたときづいたのであろうか、それからほとんどわたしとしせんをあわさなくて)
光り出したと気附いたのであろうか、それから殆ど私と視線を合さなくて
(すませるほうこうばかりにむきはじめた。あまりいまからきゅうくつなおもいをさせてはかえって)
すませる方向ばかりに向き始めた。あまり今から窮屈な思いをさせては却って
(いまのうちにやしきをにがしてしまいそうだしするので、なるだけのんきにしなければ)
今の中に屋敷を逃がしてしまいそうだしするので、なるだけのんきにしなければ
(ならぬとやわらいでみるのだがめというものはふしぎなもので、おなじにんしきのたかさで)
ならぬと柔いでみるのだが眼というものは不思議なもので、同じ認識の高さで
(うろついているしせんというものはいちどがっするとそこまでどうじにつらぬきあうのだ。)
うろついている視線というものは一度合すると底まで同時に貫き合うのだ。
(そこでわたしはあもあぴかるでしんちゅうをみがきながらよもやまのはなしをすすめ、めだけで)
そこで私はアモアピカルで真鍮を磨きながらよもやまの話をすすめ、眼だけで
(かれにもほうていしきはぬすんだかときいてみるとむこうはむこうでまだまだとこたえるか)
彼にも方程式は盗んだかと訊いてみると向うは向うでまだまだと応えるか
(のようにひかってくる。それでははやくぬすめばよいではないかというとおまえにそれを)
のように光って来る。それでは早く盗めば良いではないかというとお前にそれを
(しられてはじかんがかかってしょうがないという。ところがかれのほうていしきはいまのところ)
知られては時間がかかってしょうがないという。ところが彼の方程式は今の所
(まだまちがいだらけでとったってなんのやくにもたたぬぞというとそれならおれがみて)
まだ間違いだらけで盗ったって何の役にも立たぬぞというとそれなら俺が見て
(なおしてやろうという。そういうふうにしばらくやしきとわたしはしごとをしながらわたしじしんのあたまの)
直してやろうという。そういう風に暫く屋敷と私は仕事をしながら私自身の頭の
(なかでだまってかいわをつづけているうちにだんだんわたしはいっかのうちのだれよりもやしきに)
中で黙って会話を続けているうちにだんだん私は一家のうちの誰よりも屋敷に
(したしみをかんじだした。まえにかるべをうちょうてんにさせてひみつをしゃべらせてしまったかれの)
親しみを感じ出した。前に軽部を有頂天にさせて秘密を饒舌らせてしまった彼の
(みりょくがわたしへもしだいにのりうつってきはじめたのだ。わたしはやしきとしんぶんをわけあって)
魅力が私へも次第に乗り移って来始めたのだ。私は屋敷と新聞を分け合って
(よんでいてもきょうつうのわだいになるといけんがいつもいっちしてすすんでいく。かがくのはなしに)
読んでいても共通の話題になると意見がいつも一致して進んでいく。化学の話に
(なってもりかいのそくどやちどがきっこうしながらなめらかにすべっていく。せいじにかんする)
なっても理解の速度や遅度が拮抗しながら滑らかに辷っていく。政治に関する
(けんしきでもしゃかいにたいするきぼうでもおなじである。ただわたしとかれとのそういしているところは)
見識でも社会に対する希望でも同じである。ただ私と彼との相違している所は
(たにんのはつめいをぬすみこもうとするふどうとくなこういにかんしてのけんかいだけだ。だが、)
他人の発明を盗み込もうとする不道徳な行為に関しての見解だけだ。だが、
(それとてかれにはかれのかいしゃくのしかたがあってはつめいほうほうをぬすむということはべつに)
それとて彼には彼の解釈の仕方があって発明方法を盗むということは別に
(ふどうとくなことではないとおもっているにちがいない。じっさい、ほうほうをぬすむという)
不道徳なことではないと思っているにちがいない。実際、方法を盗むという
(ことはぬすまぬものよりよいこういをしているのかもしれぬのだ。げんにしゅじんの)
ことは盗まぬ者より良い行為をしているのかもしれぬのだ。現に主人の
(はつめいほうほうをあんしつのなかでかくそうとどりょくしているわたしとぬすもうとしているやしきとを)
発明方法を暗室の中で隠そうと努力している私と盗もうとしている屋敷とを
(ひかくしてみるとやしきのこういのほうがそれだけしゃかいにとってはやくだつことをしている)
比較してみると屋敷の行為の方がそれだけ社会にとっては役立つことをしている
(けっかになっていく。それをおもうとそうしてそんなふうにわたしにおもわしめてきたやしきを)
結果になっていく。それを思うとそうしてそんな風に私に思わしめて来た屋敷を
(おもうと、なおますますわたしにはやしきがしたしくみえだすのだが、そうかといってわたしは)
思うと、なおますます私には屋敷が親しく見え出すのだが、そうかといって私は
(しゅじんのそうししたむていけいせれにうむにかんするせんしょくほうほうだけはしらしたくはないので)
主人の創始した無定形セレニウムに関する染色方法だけは知らしたくはないので
(ある。それゆえたえずいちばんやしきとなかよくなったわたしがやしきのじゃまもまたしぜんに)
ある。それ故絶えず一番屋敷と仲好くなった私が屋敷の邪魔もまた自然に
(だれよりいちばんしつづけているわけにもなっているのだ。)
誰より一番し続けているわけにもなっているのだ。