洒落怖《治験》

(へやとたたみしきでてれびやほんがおいてあるへやのふたへやだけ。)

部屋と畳敷きでテレビや本が置いてある部屋の二部屋だけ。

(ここで１かげつすごさなければならない。)

ここで１ヶ月過ごさなければならない。

(なにのくすりだったのかわすれたがまいにち２じかんてんてきをうち、３かいさいけつをする。)

何の薬だったのか忘れたが毎日２時間点滴を打ち、３回採血をする。

(いっしゅうかんほどたったあるよるにさいれんがなった。)

一週間程経ったある夜にサイレンが鳴った。

(まどからそとをみるとひとりのおとこがけいびいんにとりおさえられている。)

窓から外を見るとひとりの男が警備員に取り押さえられている。

(なにがあったんだろうとおもってまどをあけると、)

何があったんだろうと思って窓を開けると、

(「いやだー！もういやだ。たのむからかえらせてくれ」)

「嫌だー！もう嫌だ。頼むから帰らせてくれ」

(とりおさえられたおとこはこんなことをいっている。)

取り押さえられた男はこんな事を言っている。

(しゅくちょくのかんごふさんがやってきてきにしないではやくねてくださいという。)

宿直の看護婦さんがやってきて気にしないで早く寝てくださいという。

(おれたちのからだにもいへんがおきていた。いようにからだがむくむ。)

俺達の体にも異変が起きていた。異様に体がむくむ。

(じぶんだけだったらともかくぜんいんむくんでいた。)

自分だけだったらともかく全員むくんでいた。

(ここにきてなかよくなったａさんとｂさんはふつうはなにかいじょうがでたら)

ここに来て仲良くなったAさんとBさんは普通は何か異常が出たら

(すぐにちけんをちゅうしするはずなのにここはあきらかにおかしいといっていた。)

すぐに治験を中止するはずなのにここは明らかにおかしいと言っていた。

(ふたりともにほんで１ねんかんきんをかせいでかいがいをほうろうするのがしゅみで)

二人とも日本で１年間金を稼いで海外を放浪するのが趣味で

(なんかいもちけんをたいけんずみである。)

何回も治験を体験済みである。

(２しゅうかんがたつころにはぜんいんかおがぱんぱんにふくれあがっていた。もうげんかいだ。)

２週間が経つ頃には全員顔がパンパンに膨れ上がっていた。もう限界だ。

(おれたちはちけんのちゅうしをうったえたが、せんせいたちはききいれてくれなかった。)

俺達は治験の中止を訴えたが、先生たちは聞き入れてくれなかった。

(（このくすりはあんぜんだ。けつえきのすうちにいじょうはみられない。だいじょうぶだ。）)

（この薬は安全だ。血液の数値に異常は見られない。大丈夫だ。）

(だがあきらかにおれもふくめみんなのかおはだいじょうぶじゃなかった。)

だが明らかに俺も含めみんなの顔は大丈夫じゃなかった。

(ａさんとｂさんは「おかねはいりませんからもうかえらせてください。」)

ＡさんとＢさんは「お金はいりませんからもう帰らせてください。」

(といったがそれでもかえらせてくれないという。)

と言ったがそれでも帰らせてくれないと言う。

(「けいやくしょにちゃんとかいてありますよ。さいごまでちけんをうけると。)

「契約書にちゃんと書いてありますよ。最後まで治験を受けると。

(みなさんはんをおされているじゃないですか。さいごまでうけてください。」)

皆さん判を押されているじゃないですか。最後まで受けてください。」

(おれとａさんとｂさんはにもつをまとめてかえろうとしたがかいだんのところに)

俺とＡさんとＢさんは荷物を纏めて帰ろうとしたが階段のところに

(かぎつきのどあがありいちかいにおりることができない。かんきんじょうたいにおちいった。)

鍵付きのドアがあり一階に降りる事が出来ない。監禁状態に陥った。

(そのよるみんなとそうだんしたがおどろくことに６にんはここにのこりちけんをつづけるという。)

その夜みんなと相談したが驚く事に６人はここに残り治験を続けるという。

(きんがはいらないとこまるらしい。)

金が入らないと困るらしい。

(おれとａさんｂさんともうひとりｃさんはまどからだっしゅつすることにした。)

俺とＡさんＢさんともう一人Ｃさんは窓から脱出する事にした。

(しーつを４つむすんでべっどにくくりつけ、まどからおりた。)

シーツを４つ結んでベッドに括り付け、窓から降りた。

(ぶじぜんいんおりてでぐちにむかうと、どうしてばれたのかわからないが)

無事全員降りて出口に向かうと、どうしてバレたのか分からないが

(さいれんがなった。でぐちにむかうよゆうはない。)

サイレンが鳴った。出口に向かう余裕はない。

(２めーとるいじょうあるへいをよじのぼりそこからそとにでた。)

２メートル以上ある塀をよじ登りそこから外に出た。

(よるの１２じすぎ。まわりにはなにもなくがいとうすらない。)

夜の１２時過ぎ。周りには何もなく街灯すらない。

(あるいてえきをめざし、えきについたのはあさの７じすぎ。)

歩いて駅を目指し、駅に着いたのは朝の７時過ぎ。

(しんかんせんだいはなくじゅんこうでとうきょうへいきけについたのはよるだった。)

新幹線代は無く巡行で東京へ行き家に着いたのは夜だった。

(つかれはててねているとでんわがなり、でるとあのしせつからだった。)

疲れ果てて寝ていると電話が鳴り、出るとあの施設からだった。

(「なにをかんがえているんです。)

「何を考えているんです。

(いちにちでもてんてきをしないばあい、もういちどはじめからやりなおしですよ。)

一日でも点滴をしない場合、もう一度初めからやり直しですよ。

(とにかくいますぐこちらへもどってきてください。)

とにかく今すぐこちらへ戻ってきてください。

(こちらへおもどりいただけないばあいほうてきしゅだんにでますよ？」)

こちらへお戻りいただけない場合法的手段に出ますよ？」

(ふざけんな。こっちこそおまえらのことうったえるからな。といってでんわをきった。)

ふざけんな。こっちこそお前らの事訴えるからな。と言って電話を切った。

(よくじつからこうねつが１０にっていつづきねこんだ。)

翌日から高熱が１０日程続き寝込んだ。

(ぜんしんのむくみはじょじょにとれていったがけっきょくなおるのにいちかげつちかくかかったとおもう。)

全身のむくみは徐々にとれていったが結局治るのに一ヶ月近くかかったと思う。

(しせつからあれいらいいちどもれんらくはないがのこったひとたちはだいじょうぶだったんだろうか。)

施設からあれ以来一度も連絡はないが残った人たちは大丈夫だったんだろうか。