洒落怖《披露宴にて》
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問題文
(そのひ、わたしはどうりょうのけっこんしきにまねかれてじないのぼうほてるをおとずれていた。)
その日、私は同僚の結婚式に招かれて地内の某ホテルを訪れていた。
(かれとは、はいぞくちいきがきまったあとにおなじちいきになったひとたちで)
彼とは、配属地域が決まった後に同じ地域になった人達で
(いったりょこうでいっしょだったが、ぶしょがちがうためふだんからことばをかわすことはなく、)
行った旅行で一緒だったが、部署が違う為普段から言葉を交わす事は無く、
(とくべつせいかくやはなしがあうこともまたなかった。)
特別性格や話が合う事もまた無かった。
(だからこそ、さんかげつほどまえ、かいしゃからもどったあるよなかに)
だからこそ、三か月程前、会社から戻ったある夜中に
(かれからけっこんしきのおさそいのlineをいただいたときは、)
彼から結婚式のお誘いのLINEを頂いた時は、
(よそうがいのあいてからきたとうとつなほうこくにおどろいた。)
予想外の相手から来た唐突な報告に驚いた。
(だがどうじに、どうせだいとしてかれをしゅくふくしてあげたいきもちがしみじみとわいてきて)
だが同時に、同世代として彼を祝福してあげたい気持ちがしみじみと湧いてきて
(わたしはいざないをかいだくした。)
私は誘いを快諾した。
(わたしのまわりをみるかぎりでは、しんそつにゅうしゃから1,2ねん(ねんれいでいえば23,4さい))
私の周りを見る限りでは、新卒入社から1,2年(年齢でいえば23,4歳)
(というたいみんぐでのけっこんは、せけんてきにめずらしいのではないだろうか。)
というタイミングでの結婚は、世間的に珍しいのではないだろうか。
(しきはほてるにりんせつしたちゃぺるでおこなわれ、)
式はホテルに隣接したチャペルで行われ、
(そのあとふらわーしゃわーときょしきのかねをへて、ひろうえんのじかんとなった。)
その後フラワーシャワーと挙式の鐘を経て、披露宴の時間となった。
(ほてるさいじょうかいのかいじょうにつくと、わたしはうけつけでもらったぱんふれっとをたよりに)
ホテル最上階の会場に着くと、私は受付で貰ったパンフレットを頼りに
(てーぶるにむかい、していされたせきについた。)
テーブルに向かい、指定された席についた。
(かいしゃかんけいしゃのせきはしんろうしんぷのめのまえとかなりちかく、なんだかきがひけてしまった。)
会社関係者の席は新郎新婦の目の前とかなり近く、何だか気が引けてしまった。
(めのまえはいちめんのがらすばりで、まちのやけいをぱのらまでいちぼうできた。)
目の前は一面のガラス張りで、街の夜景をパノラマで一望できた。
(わたしがけしきにきをとられているところにうえいたーがやってきて、)
私が景色に気を取られている所にウエイターがやってきて、
(どりんくについてたずねてきた。)
ドリンクについて訊ねて来た。
(すこししゃれたきぶんになっていたわたしはしろわいんをたのんだ。)
少し洒落た気分になっていた私は白ワインを頼んだ。
(うえいたーはてーぶるのほかのげすとのちゅうもんもとりまとめたあと、)
ウエイターはテーブルの他のゲストの注文も取りまとめた後、
(まどぞいにかいじょうのさたんまであるいてゆき、くらがりへのびるつうろにきえた。)
窓沿いに会場の左端まで歩いてゆき、暗がりへ伸びる通路に消えた。
(いれちがいにべつのうえいたーがそこからでてきた。)
入れ違いに別のウエイターがそこから出てきた。
(おそらくちゅうぼうにつうじているのだろう。)
恐らく厨房に通じているのだろう。
(そのつうろに、かはんしんはだかでしろしゃつだけをまとったおとこが)
その通路に、下半身裸で白シャツだけをまとった男が
(こちらむきにかたでかべによりかかるようにたっていた。)
こちら向きに肩で壁に寄りかかる様に立っていた。
(かみはぼうぼうにのびてめもとをかんぜんにかくしており、)
髪はぼうぼうに伸びて目元を完全に隠しており、
(くるしそうにあごをつきだしてくびのあたりをかきむしっていた。)
苦しそうに顎を突き出して首のあたりをかきむしっていた。
(すくなくともしきじょうかんけいしゃではだんじてない。)
少なくとも式場関係者では断じてない。
(ただ、わたしはそのようすになぜかきしかんをおぼえた。)
ただ、私はその様子に何故か既視感を覚えた。
(うえいたーたちはかれのよこをそしらぬかおをしてとおりすぎていく。)
ウエイターたちは彼の横を素知らぬ顔をして通り過ぎていく。
(ふきんのせきにいるひともふくめてだれもかれのそんざいにきづいているそぶりはなかった。)
付近の席にいる人も含めて誰も彼の存在に気付いている素振りは無かった。
(それから、しかいがはなしはじめ、びでおがながれ、かくかんけいしゃだいひょうのすぴーちが)
それから、司会が話し始め、ビデオが流れ、各関係者代表のスピーチが
(おわるころになっても、そのおとこはいっこうにすがたをけさなかった。)
終わる頃になっても、その男は一向に姿を消さなかった。
(いつになったらきえてくれるのかそわそわするわたしのまえで、)
いつになったら消えてくれるのかソワソワする私の前で、
(しんろうしんぷのもとにりょうけがしゅうごうししゃしんさつえいのじかんがおとずれた。)
新郎新婦のもとに両家が集合し写真撮影の時間が訪れた。
(へんなしゅみかもしれないが、わたしはこのようにたにんのかぞくをまえにすると、)
変な趣味かもしれないが、私はこのように他人の家族を前にすると、
(かおつきやたいけいがおやからこにどのようにいでんしたかみくらべることがよくある。)
顔つきや体形が親から子にどのように遺伝したか見比べる事がよくある。
(しんろうはたれめとくっきりとしたはながははおやとうりふたつで、)
新郎は垂れ目とくっきりとした鼻が母親と瓜二つで、
(すらりとのびたしんたいとてあしもははおやのとくちょうをうけついでいた。)
すらりと伸びた身体と手足も母親の特徴を受け継いでいた。
(いっぽうでしんぷはめつきがちちおやゆずりのきれながで、)
一方で新婦は目つきが父親譲りの切れ長で、
(ぽってりとしたくちびるとなでがたにははおやのようしのだんぺんをただよわせていた。)
ぽってりとした唇となで肩に母親の容姿の断片を漂わせていた。
(しゃしんさつえいのじかんがおわり、りょうけがせきにもどろうとするときだった。)
写真撮影の時間が終わり、両家が席に戻ろうとする時だった。
(しんろうのははおやがなにげなくつうろのほうにめをむけたあと、)
新郎の母親が何気なく通路の方に目を向けた後、
(そのひょうじょうがいっしゅんかたまったようにみえた。)
その表情が一瞬固まった様に見えた。
(どうじに、おとこにたいするきしかんのしょうたいがとけた。)
同時に、男に対する既視感の正体が解けた。
(おとこのくちもととあごのりんかくがしんろうのものとそっくりだったのだ。)
男の口元と顎の輪郭が新郎のものとそっくりだったのだ。
(わたしがふたたびつうろをみると、かれはもうそこにいなかった。)
私が再び通路を見ると、彼はもうそこにいなかった。