洒落怖《家族の笑顔》

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問題文

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(わたしはちいさいころからちちがすきで、どこにでかけるにもあとをおっていました。)

私は小さい頃から父が好きで、どこに出かけるにも後を追っていました。

(ちちのゆうじんのいえ、しごとのげんばにもなんどもついていきました。)

父の友人の家、仕事の現場にも何度も付いて行きました。

(そんなあるひ、わたしがしょうがくせいのころ。)

そんなある日、私が小学生の頃。

(かぞくぜんいんででかけるようじがありました。)

家族全員で出かける用事がありました。

(わたし、りょうしん、ちちかたのそふぼ、ちちのあねのろくにんでおおきなくるまにのっていくことにしました。)

私、両親、父方の祖父母、父の姉の六人で大きな車に乗って行く事にしました。

(いきさきはかたみち2、3じかんかかるばしょで、)

行き先は片道2、3時間かかる場所で、

(とうげみちをいくつもこえていかないとたどりつかないとこでした。)

峠道をいくつも越えて行かないと辿り着かないとこでした。

(もくてきちにつき、ようじをおえ、じたくにむかいとうげみちをはしっているさいちゅうでした。)

目的地に着き、用事を終え、自宅に向かい峠道を走っている最中でした。

(とつぜん、うんてんしていたちちがろかたにくるまをとめて、)

突然、運転していた父が路肩に車を停めて、

(「うしろたいや、ぱんくしてるな」とみんなにつたえました。)

「後ろタイヤ、パンクしてるな」とみんなに伝えました。

(そふとちちがかくにんしにそとにでていきました。)

祖父と父が確認しに外に出て行きました。

(すぐにもどってきて、「だめだな」といいました。)

すぐに戻ってきて、「ダメだな」と言いました。

(すぺあたいやはありませんでした。)

スペアタイヤはありませんでした。

(ばしょはとうげのとちゅうでみんかはなく、がいとうもすうほんていどしかないところです。)

場所は峠の途中で民家は無く、街灯も数本程度しかない所です。

(とうじはすまーとふぉんなどはなく、)

当時はスマートフォンなどは無く、

(がいしゅつさきかられんらくをとるにはこうしゅうでんわしかありませんでした。)

外出先から連絡を取るには公衆電話しかありませんでした。

(このさきどうするのか、はなしあいがはじまりました。)

この先どうするのか、話し合いが始まりました。

(10ぷんくらいで、あるけつろんがでました。)

10分くらいで、ある結論が出ました。

(ちちがこのさきにあるきゅうけいしょまであるいていき、)

父がこの先にある休憩所まで歩いて行き、

(そこからほかのみうちにれんらくをしてむかえにきてもらうというのです。)

そこから他の身内に連絡をして迎えに来てもらうというのです。

など

(たしかにこのさき、とんねるを2、3かしょすぎたところにきゅうけいしょがあるというのは)

確かにこの先、トンネルを2、3箇所過ぎたところに休憩所があるというのは

(しょうがくせいだったわたしでもわかっていました。)

小学生だった私でも分かっていました。

(ちちがでてゆこうとしたときに、「おれもいく」といいました。)

父が出て行こうとした時に、「俺も行く」と言いました。

(くらいやまみちをあるいていくのはすこしこわかったが、)

暗い山道を歩いて行くのは少し怖かったが、

(ちちとはなれたくないというおもいのほうがつよかったのです。)

父と離れたくないという思いの方が強かったのです。

(「あぶないからだめ」となんどもいわれましたが、)

「危ないからダメ」と何度も言われましたが、

(「いく!」とわたしはいっぽもひきませんでした。)

「行く!」と私は一歩も引きませんでした。

(ちちが、ためいきをついて、)

父が、溜息をついて、

(「いいよ、いこう。つかれたらおぶるからだいじょうぶ。」といってくれました。)

「いいよ、行こう。疲れたらおぶるから大丈夫。」と言ってくれました。

(ふたりでそとにでて、ゆっくりあるきはじめました。)

二人で外に出て、ゆっくり歩き始めました。

(あるきはじめはへっどらいとのともりでてらしてくれてましたが、)

歩き始めはヘッドライトの灯りで照らしてくれてましたが、

(かーぶをまがるとそのさきはまっくらに。)

カーブを曲がるとその先は真っ暗に。

(じょじょにめがなれていき、すうほんあるがいとうをたよりにあるきつづけました。)

徐々に目が慣れていき、数本ある街灯を頼りに歩き続けました。

(あるきながらわたしはぎもんにおもうことがありました。)

歩きながら私は疑問に思う事がありました。

(「よるでやまみちだけど、くるまがぜんぜんとおらないな」)

「夜で山道だけど、車が全然通らないな」

(くるまがとおっていれば、じじょうをはなし、)

車が通っていれば、事情を話し、

(うんがよければきゅうけいしょまでのせてもらえるのに・・・とおもっていました。)

運が良ければ休憩所まで乗せてもらえるのに・・・と思っていました。

(そんなことをかんがえながらわたしはしたをむき、あるいていました。)

そんな事を考えながら私は下を向き、歩いていました。

(かおをすこしあげたしゅんかん、「えっ・・・」とちいさくつぶやき、)

顔を少し上げた瞬間、「えっ・・・」と小さく呟き、

(からだがいっしゅんうごかなくなるかんかくがありました。)

身体が一瞬動かなくなる感覚がありました。

(はんたいしゃせんのろかたをだれかがあるいていたのです。)

反対車線の路肩を誰かが歩いていたのです。

(がいとうがないところをおとなとこどもがあるいていました。)

街灯がないところを大人と子供が歩いていました。

(すぐにしせんをしたにして、ちちのてをにぎりました。)

すぐに視線を下にして、父の手を握りました。

(めをつぶり、すこしふるえながらちちにつかまりあるきつづけました。)

目を瞑り、少し震えながら父に掴まり歩き続けました。

(しばらくあるいて、きょりもはなれたとおもったのでちちのようすをうかがいました。)

暫く歩いて、距離も離れたと思ったので父の様子を伺いました。

(「だいじょうぶか?つかれたか?」いつものちちのやさしさにふれ、すこしあんしんしました。)

「大丈夫か?疲れたか?」いつもの父の優しさに触れ、少し安心しました。

(「だいじょうぶ」とよわいじぶんをみせないように、)

「大丈夫」と弱い自分を見せないように、

(やせがまんをいい、きゅうけいしょをめざしました。)

やせ我慢を言い、休憩所を目指しました。

(あと、とんねるいっぽんぬければきゅうけいしょというところまできました。)

あと、トンネル一本抜ければ休憩所という所まで来ました。

(とんねるいりぐちちかくのがいとうのちかくにさしかかったところでとつぜん、)

トンネル入り口近くの街灯の近くに差し掛かったところで突然、

(はんたいしゃせんがわにさきほどみたひとかげのようなものがみえました。)

反対車線側に先程見た人影のようなものが見えました。

(いっしゅんでからだじゅうにきんちょうがはしり、すぐちちにつかまりあるきつづけました。)

一瞬で身体中に緊張が走り、すぐ父に掴まり歩き続けました。

(とんねるにはいり、ちちに、「ねぇ、さっきの・・・」というと。)

トンネルに入り、父に、「ねぇ、さっきの・・・」と言うと。

(「うしろをふりむくなよ。」とちいさくいってきました。)

「後ろを振り向くなよ。」と小さく言ってきました。

(そのことばをきいたしゅんかんからふるえはじめ、「うん・・・」とちいさなこえでこたえました。)

その言葉を聞いた瞬間から震え始め、「うん・・・」と小さな声で答えました。

(まもなくして、こうほうからくるまのおとがきこえました。)

まもなくして、後方から車の音が聞こえました。

(はしってきたくるまはもうすぴーどでわたしたちのよこをはしりさっていきました。)

走ってきた車は猛スピードで私達の横を走り去っていきました。

(「あれ?うちとおなじくるまかも」とくるまのりあをみておもいました。)

「あれ?うちと同じ車かも」と車のリアを見て思いました。

(いちだいでもくるまがとおったことにあんどし、)

一台でも車が通った事に安堵し、

(「もうすこしできゅうけいしょだ」とおもっていたら、またすぐにくるまのおとが。)

「もう少しで休憩所だ」と思っていたら、またすぐに車の音が。

(また、きた!というあんしんかんからうしろをいっしゅんふりむきました。)

また、来た!という安心感から後ろを一瞬振り向きました。

(すると、とんねるのいりぐちふきんでふたつのかげがこちらをみているのが、)

すると、トンネルの入口付近で二つの影がこちらを見ているのが、

(めにはいり、「やばい・・・」といっしゅんかんじたのもつかのま、)

目に入り、「やばい・・・」と一瞬感じたのも束の間、

(かげをみてるしかいにくるまがすろーもーしょんのようにはいってきました。)

影を見てる視界に車がスローモーションの様に入って来ました。

(そのあと、わたしのしせんはかげよりもくるまのしゃないにくぎづけになりました。)

その後、私の視線は影よりも車の社内に釘付けになりました。

(そのしゅんかん、なにもかんがえられませんでした、)

その瞬間、何も考えられませんでした、

(なぜなら、とおりすぎていくくるまのしゃないでは、)

何故なら、通り過ぎていく車の車内では、

(ぱんくしたくるまにのこっているはずのかぞくがわらっていたからです。)

パンクした車に残っているはずの家族が笑っていたからです。

(しかも、ぜんいんおなじようなかおでおおきくくちをあけてばくしょうしていました。)

しかも、全員同じような顔で大きく口を開けて爆笑していました。

(まよこをとおりすぎるとすろーもーしょんだったうごきがつうじょうにもどり、)

真横を通り過ぎるとスローモーションだった動きが通常に戻り、

(くるまははしりさっていきました。)

車は走り去っていきました。

(とんねるないでぼうぜんとする、わたしとちち。)

トンネル内で呆然とする、私と父。

(そこではじめて、ちちもおなじこうけいをみたんだとかんじました。)

そこで初めて、父も同じ光景を見たんだと感じました。

(むごんのときがながれ、)

無言の時が流れ、

(「とりあえず、いこう」ときゅうけいしょまでわたしをおぶってあるきはじめました。)

「とりあえず、行こう」と休憩所まで私をおぶって歩き始めました。

(わたしは、なにがおきたのか、なにをみたのか、)

私は、何が起きたのか、何を見たのか、

(おなじかおをしたかぞくのえがおはなにだったのか、かんがえていました。)

同じ顔をした家族の笑顔は何だったのか、考えていました。

(「もしかしたら、ぱんくがなおってこのさきのきゅうけいしょでまってるのかも!」)

「もしかしたら、パンクが直ってこの先の休憩所で待ってるのかも!」

(「わらっていたのは、おれたちをみて、ふざけてたんだ!」)

「笑っていたのは、俺達を見て、ふざけてたんだ!」

(とかってにかいしゃくしていました。)

と勝手に解釈していました。

(まもなくして、そんなげんそうはうちくだかれ、げんじつをつきつけられました。)

間もなくして、そんな幻想は打ち砕かれ、現実を突きつけられました。

(きゅうけいしょにとうちゃくしたが、くるまなんてない。)

休憩所に到着したが、車なんてない。

(まっているはずのかぞくがいない。)

待っているはずの家族がいない。

(なにもかんがえられず、ちちのせなかでうずくまっていました。)

何も考えられず、父の背中でうずくまっていました。

(ちちはほかのみうちにれんらくをし、むかえにきてもらうようにしてくれました。)

父は他の身内に連絡をし、迎えに来てもらうようにしてくれました。

(すうじっぷんごにむかえがきてくれてからはきおくがあまりありません。)

数十分後に迎えが来てくれてからは記憶があまりありません。

(くるまにのせてもらい、かぞくのもとにむかっているとちゅうでねてしまいました。)

車に乗せてもらい、家族の元に向かっている途中で寝てしまいました。

(すうじゅうねんご、みうちであつまるとき、たまにそのはなしだいがでます。)

数十年後、身内で集まる時、たまにその話題が出ます。

(ちちやほかのかぞくはたぬきかきつねにだまされたんだとわらいながらはなしています。)

父や他の家族はタヌキかキツネに騙されたんだと笑いながら話しています。

(れいわになったいまのじだいではかんがえられないようなできごとでした。)

令和になった今の時代では考えられないような出来事でした。

(みんなはわらってはなしをしているが、わたしはわすれることはない。)

みんなは笑って話をしているが、私は忘れる事はない。

(おなじかおで、おおきくくちをあけてわらっていた、かぞくのえがおを。)

同じ顔で、大きく口を開けて笑っていた、家族の笑顔を。

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