卍 4
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問題文
(で、そのじぶん、ーーといいますのんは、はなしまえにもどりまして、まだおたがいに)
で、その時分、ーーといいますのんは、話前に戻りまして、まだお互いに
(ものもいわんといてましたじぶん、まえにいいましたようなけったいなうわさ)
ものもいわんといてました時分、前にいいましたようなけったいな噂
(たちましたことはみつこさんのみみいもはいってえへんはずあれしませんのんに、)
立ちましたことは光子さんの耳いも這入ってえへんはずあれしませんのんに、
(みつこさんのようすはちょっともまえとかわれしませんねん。わたしのほうではとうから)
光子さんの様子はちょっとも前と変れしませんねん。わたしの方では疾うから
(きれいなひとやおもて、うわさたちませんじぶんには、みつこさんがとおりなさると、それとのう)
綺麗な人や思て、噂立ちません時分には、光子さんが通りなさると、それとのう
(そばいよっていったりしましてんけど、みつこさんのほうではてんとわたしやかいがんちゅうに)
傍い寄って行ったりしましてんけど、光子さんの方ではてんと私やかい眼中に
(ないようなあんばいで、すうっととおってしまいはりますが、そのとおられたあとの)
ないような塩梅で、すうッと通ってしまいはりますが、その通られた跡の
(くうきまでがきれいなようなきいするのんです。もしもみつこさんがれいのうわさ)
空気までが綺麗なような気イするのんです。もしも光子さんが例の噂
(きいてなさるとしたら、なんぼなんでもわたしいうもんにちゅういしなされへんわけ)
聞いてなさるとしたら、なんぼ何でも私いうもんに注意しなされへん訳
(あれしませんやろ。いやなやっちゃおもわれるか、きのどくやおもいなさるか、)
あれしませんやろ。イヤな奴っちゃ思われるか、気の毒や思いなさるか、
(なんとかそぶりにみえそうなもんですのんに、さっぱりそういうふうしなされへん)
何とか素振に見えそうなもんですのんに、さっぱりそういう風しなされへん
(もんですから、わたしのほうもだんだんずうずうしいになりまして、またそばいよって)
もんですから、私の方も段々ずうずうしいになりまして、また傍い寄って
(かおのぞきこむようになりましてん。するとあるひ、おひるのやすみにきゅうけいじょで)
顔のぞき込むようになりましてん。すると或る日、お午の休みに休憩所で
(ばったりであうと、いつでもすうっとすましてとおりすぎてしまいなさるのんに、)
ばったり出遭うと、いつでもすうッと澄まして通り過ぎてしまいなさるのんに、
(どういうわけやにっこりしなさって、めえでわらいなさるのんです。そいでわたし)
どういう訳やにッこりしなさって、眼エで笑いなさるのんです。そいで私
(おもわずおじぎしてしまいましたら、すぐつかつかとよってこられて、)
思わずお時儀してしまいましたら、直ぐつかつかと寄って来られて、
(「わたし、あんたにこないだからたいへんしつれいしてました。どうぞわるうに)
「わたし、あんたにこないだから大変失礼してました。どうぞ悪うに
(おもわんといてちょうだい」いいなさいますねん。「まあなにいいなさるのんです。)
思わんといて頂戴」いいなさいますねん。「まあ何いいなさるのんです。
(わたしこそあやまらないかなんだのんですが」いいますと、「あんたあやまりなさること)
わたしこそ詫らないかなんだのんですが」いいますと、「あんた詫りなさること
(あれしませんわ。あんたはなにもしりなされへんのんです。わたしたちおとしいれよと)
あれしませんわ。あんたは何も知りなされへんのんです。わたしたち陥れよと
(してるものいますから、きいつけなさいや」いいなさいますねん。「へえ、)
してる者いますから、気イつけなさいや」いいなさいますねん。「へえ、
(ーーそれはだれですか」とたんねますと、「こうちょうせんせいですわ」といわれて、)
ーーそれは誰ですか」と尋ンねますと、「校長先生ですわ」といわれて、
(「ここではくわしいはなしでけしませんさかいどこぞそといいて、おひるごはんいっしょに)
「此処では詳しい話出来しませんさかい何処ぞ外い行て、お昼御飯一緒に
(つきおうてもらわれしませんか?そしたらいろいろ、ゆっくりきいて)
附き合うてもらわれしませんか? そしたらいろいろ、ゆっくり聞いて
(もらいますが」いいなさるもんですから、「どこいでもいっしょにいきますわ」)
もらいますが」いいなさるもんですから、「何処いでも一緒にいきますわ」
(と、ふたりでてんのうじこうえんのきんじょにあるれすとらんいいきました。そいからみつこさん)
と、二人で天王寺公園の近所にあるレストランい行きました。そいから光子さん
(ようしょくたべながらはなしてくださったのんですが、わたしたちのことについてわるいうわさ)
洋食たべながら話して下さったのんですが、わたしたちの事について悪い噂
(いいふらしたのんはじつはこうちょうさんやいいなさいますねん。なるほどそういわれて)
いい触らしたのんは実は校長さんやいいなさいますねん。なるほどそういわれて
(みると、ようもないのんにきょうしついはいってきて、みんなのまえでわざとわたしに)
見ると、用もないのんに教室い這入って来て、みんなの前でわざと私に
(はじかかすようなことするいうのんが、だいぶんおかしい。あくいあってした)
恥掻かすような事するいうのんが、だいぶんおかしい。悪意あってした
(もんとしかおもわれへん。けどいったいなんのためにこうちょうさんがそんなうわさふれ)
もんとしか思われへん。けどいったい何のために校長さんがそんな噂触れ
(まわるのんかといいますと、もくてきはみつこさんにあるのんやそうで、なんでもかでも)
廻るのんかといいますと、目的は光子さんにあるのんやそうで、何でも彼でも
(みつこさんのひんこうについてわるいひょうばんたちさいしたらええのんやいうのんです。)
光子さんの品行について悪い評判立ちさいしたらええのんやいうのんです。
(それがまたどういうわけやいいますと、そのじぶんみつこさんにけっこんのはなし)
それがまたどういう訳やいいますと、その時分光子さんに結婚の話
(もちあがってまして、さきはmいうおおさかでもゆうめいなおかねもちのいえのぼんぼんで、)
持ち上ってまして、先はMいう大阪でも有名なお金持の家の坊々で、
(みつこさんじしんはきいすすんでおられなかったそうやのんですが、おたくでは)
光子さん自身は気イ進んでおられなかったそうやのんですが、お宅では
(たいそうそのえんだんのぞんでおられたし、せんぽうでもみつこさんほしがっておられた。)
たいそうその縁談望んでおられたし、先方でも光子さん欲しがっておられた。
(ところがあるしかいぎいんのおじょうさんで、やっぱりそのmさんへえんだんもちかけてるひと)
ところが或る市会議員のお嬢さんで、やっぱりそのMさんへ縁談持ちかけてる人
(あって、みつこさんのほうときょうそうのかたちになってた。ーーみつこさんはきょうそうのつもりや)
あって、光子さんの方と競争の形になってた。ーー光子さんは競争のつもりや
(のうても、しかいぎいんのほうではたいてきがあらわれたおもいましてんやろ。なにしろ)
のうても、市会議員の方では大敵が現われた思いましてんやろ。何しろ
(mさんのぼんぼんはみつこさんのきりょうにあこがれてらぶれたーよこしたくらいやのん)
Mさんの坊々は光子さんの器量にあこがれてラブレター寄越したくらいやのん
(ですから、それはたいてきにちがいあれしません。そいでそのしかいぎいんのほうでは)
ですから、それは大敵に違いあれしません。そいでその市会議員の方では
(はっぽういうんどうして、なろうことならみつこさんにけちつけよというのんで、)
八方い運動して、成ろうことなら光子さんにケチ附けよというのんで、
(もういままでにもずいぶんいろいろと、みつこさんほかにおとこあるらしいとか、あること)
もう今までにも随分いろいろと、光子さん外に男あるらしいとか、あること
(ないこといいふらしてましたんやそうですが、まだそいだけではあきたらんと、)
ないこといい触らしてましたんやそうですが、まだそいだけでは飽き足らんと、
(とうどがっこのほういてえまわして、こうちょうさんばいしゅうしたのんですなあ。あ、そうそう、)
とうど学校の方い手エ廻して、校長さん買収したのんですなあ。あ、そうそう、
(そいからそのまえに、ーーはなしがほんまにこんがらがってますけど、ーーそのまえに)
そいからその前に、ーー話がほんまにこんがらがってますけど、ーーその前に
(そのこうちょうさんが、こうしゃのしゅうぜんするからいうのんで、みつこさんのおとうさまに、)
その校長さんが、校舎の修繕するからいうのんで、光子さんのお父様に、
(おかねせんえんいちじゆうずうしてもらえまいかいうてきたことありますねんと。みつこさんの)
お金千円一時融通してもらえまいかいうて来たことありますねんと。光子さんの
(おたくではおかねはたんとありまっさかい、せんえんぐらいなんでもなかった)
お宅ではお金はたんとありまっさかい、千円ぐらい何でもなかった
(のんですやろけど、おおびらにきふきんつのるのんならきこえてるが、いちじ)
のんですやろけど、おおびらに寄附金募るのんなら聞えてるが、一時
(ゆうずうしてくれというのんおかしい、それにあんだけのこうしゃがせんえんのおかねで)
融通してくれというのんおかしい、それにあんだけの校舎が千円のお金で
(しゅうぜんできるはずもないし、わからんはなしやいうようなことで、おとうさまはことわられた)
修繕出来るはずもないし、分らん話やいうようなことで、お父様は断られた
(のんやそうですねん。みつこさんのはなしやと、そんなこというてはおかねのありそうな)
のんやそうですねん。光子さんの話やと、そんなこというてはお金のありそうな
(せいとのいえたのみあるくのんこうちょうさんのくせやそうで、かったおかねはいっぺんでも)
生徒の家頼み歩くのん校長さんの癖やそうで、借ったお金は一ぺんでも
(かえしたことあれしませんねんと。それもこうしゃのしゅうぜんにつかうのんならかくべつ、)
返したことあれしませんねんと。それも校舎の修繕に使うのんなら格別、
(こうしゃいうのんぶたごやみたいにきたのうてぼろぼろになったなり、あれほうだいに)
校舎いうのん豚小屋みたいに汚うてぼろぼろになったなり、荒れ放題に
(したあるのんです。ーーはあ?いいえ、そのおかねはじぶんのせいかつひにつこて)
したあるのんです。ーーはあ? いいえ、そのお金は自分の生活費に使て
(はりますねん。こうちょうさんいいましてもこうとうほうかんみたいなひとで、おまけにおくさんが)
はりますねん。校長さんいいましても高等幇間みたいな人で、おまけに奥さんが
(やっぱりそこのがっこのししゅうのせんせいしてなさって、ふうふでおかねもちのせいとに)
やっぱりそこの学校の刺繍の先生してなさって、夫婦でお金持の生徒に
(とりいっては、にちようのたんびにえんそくかいやとか、そんなことばっかりして)
取り入っては、日曜のたんびに遠足会やとか、そんなことばっかりして
(はりますさかい、なかなかくらしはでですねん。そいでおかねかしたげたら、)
はりますさかい、なかなか暮らし派手ですねん。そいでお金貸したげたら、
(たいそうごきげんええのんやそうですけど、ことわったら、かげいまわってそのせいとのこと)
たいそう御機嫌ええのんやそうですけど、断ったら、陰い廻ってその生徒のこと
(えらいわるういやはりますねんと。つまりみつこさんにはそういううらみあるとこ)
えらい悪ういやはりますねんと。つまり光子さんにはそういう恨みあるとこ
(いさして、しかいぎいんにたのまれたもんですから、どんなあくらつなことかて)
いさして、市会議員に頼まれたもんですから、どんな悪辣なことかて
(しかねへんのです。「ですからあんたわたしおとしいれるためにりようしられ)
しかねへんのです。「ですからあんたわたし陥れるために利用しられ
(なさったんやわ」とみつこさんはいわれますねん。「まあ、そんなふかいわけ)
なさったんやわ」と光子さんはいわれますねん。「まあ、そんな深い訳
(あったのんですか、そんなこととはちょっともしりませなんだが、それにしても)
あったのんですか、そんな事とはちょっとも知りませなんだが、それにしても
(あんたとわたしとはきょうまでおつきあいもしてませなんだのんに、あんまりでたらめが)
あんたと私とは今日までお附き合いもしてませなんだのんに、あんまり出鱈目が
(すぎるではあれしませんか。ねつぞうするひともねつぞうするひとなら、みんながそれまに)
過ぎるではあれしませんか。捏造する人も捏造する人なら、みんながそれ真に
(うけるいうのんふしぎでなれしません」いいますと、「あんたはそれやから)
受けるいうのん不思議でなれしません」いいますと、「あんたはそれやから
(のんきや」いいなさって、「うわさたったもんやさかい、ふたりはわざとがっこでは)
呑気や」いいなさって、「噂立ったもんやさかい、二人はわざと学校では
(ものいえへんのやと、みんなそないいうてますし、それどころか、こないだの)
ものいえへんのやと、みんなそないいうてますし、それどころか、こないだの
(にちようにふたりだいきでんしゃにのってならいいくとこみたいうひとさいあるのんですね」)
日曜に二人大軌電車に乗って奈良い行くとこ見たいう人さいあるのんですね」
(いいなさるのんです。わたしあきれてしもて、「まあ、だれがそんなこと)
いいなさるのんです。わたし呆れてしもて、「まあ、誰がそんなこと
(いいますねんやろ」いいますと、「なんでもこうちょうさんのおくさまからでたらしい)
いいますねんやろ」いいますと、「なんでも校長さんの奥様から出たらしい
(のんです。それはそれはあんたがかんがえてなさるよりじゅうばいもにじゅうばいもいんけんや)
のんです。それはそれはあんたが考えてなさるより十倍も二十倍も陰険や
(のんですから、きいつけなさいや」いうわけですねん。)
のんですから、気イ附けなさいや」いう訳ですねん。
(そんでみつこさんは、ほんまにあんたにきのどくでなれしません、すみません)
そんで光子さんは、ほんまにあんたに気の毒でなれしません、すみません
(すみませんとなんべんもいいなさいますから、わたしのほうがかいってきのどくに)
すみませんと何遍もいいなさいますから、わたしの方がかいって気の毒に
(なりまして、「いいえ、いいえ、あんたわるいことあれしません。にくいのんは)
なりまして、「いいえ、いいえ、あんた悪いことあれしません。憎いのんは
(こうちょうせんせいです。きょういくかともあろうもんが、なんちゅうひれつな、・・・けど、)
校長先生です。教育家ともあろうもんが、何ちゅう卑劣な、……けど、
(わたしでしたらどんなこといわれようとちょっともかめしませんけど、)
わたしでしたらどんなこといわれようとちょっとも構めしませんけど、
(あんたこそおよめいりまえのみいで、そんなあくらつなひとたちのわなにかからんように)
あんたこそお嫁入り前の身イで、そんな悪辣な人たちの罠にかからんように
(きいつけなさいや」と、こっちからあれこれとなぐさめたげましたら、「きょうは)
気イ附けなさいや」と、こっちからあれこれと慰めたげましたら、「きょうは
(あんたにすっくりおはなしすることできて、ほんまにええことしました。こいで)
あんたにすっくりお話すること出来て、ほんまにええことしました。こいで
(ようようむねすっとしました」いわれて、「あのう、こうしてふたりで)
ようよう胸すッとしました」いわれて、「あのう、こうして二人で
(はなしやかいしてたら、またなんやかんやいわれますから、こんだけに)
話やかいしてたら、またなんやかんやいわれますから、こんだけに
(しときまひょなあ」とわらいなさるのんです。「せっかくともだちになったのんに)
しときまひょなあ」と笑いなさるのんです。「折角友だちになったのんに
(なごりおしいですなあ」と、わたしなんや、ほんまにそんなきいしましてしばらく)
名残惜しいですなあ」と、わたし何や、ほんまにそんな気イしまして暫く
(もじもじしてました。するとみつこさんは「あんたさいよろしかったらともだちに)
もじもじしてました。すると光子さんは「あんたさいよろしかったら友だちに
(なりたいのんですが、こんどうちいあそびにきなされしませんか。わたしはたから)
なりたいのんですが、今度内い遊びに来なされしませんか。わたしハタから
(どないいわれてもこわいことあれしませんわ」いいなさるのんです。「はあ、)
どないいわれても恐いことあれしませんわ」いいなさるのんです。「はあ、
(わたしかってこわいことあれしませんわ、あんまりうるさいこというのんなら、)
わたしかって恐いことあれしませんわ、あんまりうるさいこというのんなら、
(あんながっこやかいやめてしまいます」いいますと、「なあ、かきうちさん、)
あんな学校やかい止めてしまいます」いいますと、「なあ、柿内さん、
(わたしいっそのこと、しってなかようしてみんながひやかすのんみてやりたいわ。)
わたしいっそのこと、知って仲ようしてみんなが冷やかすのん見てやりたいわ。
(あんたどないおもいなさる?」)
あんたどない思いなさる?」