刀 -10-

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師匠シリーズ
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関連タイピング

問題文

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(そとよりいくぶんかましだったむしあつさも、そのままへんしつしたように)

外よりいくぶんかましだった蒸し暑さも、そのまま変質したように

(どろりとしたのうみつなつめたさとなって、へやのなかにじゅうまんしている。)

どろりとした濃密な冷たさとなって、部屋の中に充満している。

(ぼくはじぶんのれいかんがいじょうにたかぶっているのがどうしようもなくおそろしかった。)

僕は自分の霊感が異常に高ぶっているのがどうしようもなく恐ろしかった。

(あいてのしょうたいもわからない。)

相手の正体も分からない。

(くらもちしもそのけはいにきづいているのか、かおをこうちょくさせたまま)

倉持氏もその気配に気付いているのか、顔を硬直させたまま

(ぶるぶるとほおのにくをこきざみにふるわせていた。)

ぶるぶると頬の肉を小刻みに震わせていた。

(さっきまで。)

さっきまで。

(さっきまでなにもかんじなかったのに。どうして?)

さっきまでなにも感じなかったのに。どうして?

(たたみからずるりとでてきたくろいかげたちが、ふゆうをはじめる。)

畳からずるりと出てきた黒い影たちが、浮遊を始める。

(ひとのかたちをしている。)

人の形をしている。

(しかいのはしをかすめたそれはくびのあたりがちぎれかけ、)

視界の端をかすめたそれは首のあたりが千切れかけ、

(かわいちまいでつながっているようにぶらぶらとゆれているようにみえた。)

皮一枚で繋がっているようにぶらぶらと揺れているように見えた。

(くろくぬりつぶされているようでかおかたちなどはまったくわからない。)

黒く塗りつぶされているようで顔かたちなどはまったく分からない。

(ただ、そのくろいものがわらっているようなきがするのだった。)

ただ、その黒いものが笑っているような気がするのだった。

(いくつものかげがへやのなかをふゆうし、そのどれもがみからだのいちぶがかけていた。)

いくつもの影が部屋の中を浮遊し、そのどれもが身体の一部が欠けていた。

(しんぞうがはやくみゃくうちすぎてとまりそうだ。)

心臓が早く脈打ちすぎて止まりそうだ。

(たしかにいえのなかで、へんなけはいやおと、しんれいげんしょうのようなことが)

確かに家の中で、変な気配や音、心霊現象のようなことが

(おこっているときいていたのに。)

起こっていると聞いていたのに。

(それを、これくしょんのなかにひとをころしたいわくつきのかたながあってほしいとねがう)

それを、コレクションの中に人を殺した曰くつきの刀があって欲しいと願う

(しんりがうみだしたかじょうなさっかくだろうとたかをくくってしまっていた。)

真理が生み出した過剰な錯覚だろうと高をくくってしまっていた。

など

(どうしたらいい。どうしたらいい。)

どうしたらいい。どうしたらいい。

(しかいがくらくなっていく。どろどろとへやごととけていくようだ。)

視界が暗くなっていく。どろどろと部屋ごと溶けて行くようだ。

(ししょうが、うごいた。)

師匠が、動いた。

(それにはんのうしてくらもちしがそばにあったかけだいからわきざしのひとふりをつかみ、)

それに反応して倉持氏がそばにあった掛台から脇差の一振りを掴み、

(ちゅうごしのままむなもとにひきよせる。)

中腰のまま胸元に引き寄せる。

(おびえたひょうじょうだ。しゅういをつつむいようなくうきをさっちしているらしい。)

怯えた表情だ。周囲を包む異様な空気を察知しているらしい。

(ししょうはかまわずいっぽまえにふみだす。そしてくらもちしのめをみすえる。)

師匠は構わず一歩前に踏み出す。そして倉持氏の目を見据える。

(「せんそうに、いきましたね」)

「戦争に、行きましたね」

(そのことばにろうじんはめをむく。)

その言葉に老人は目を剥く。

(「きたじゃない。・・・・・なんぽうですね」)

「北じゃない。・・・・・南方ですね」

(ししょうはちらりとよこめでかげをおうようなしぐさをみせた。)

師匠はちらりと横目で影を追うような仕草を見せた。

(みえているのか、あのくろいかげをもっとしょうさいに。)

見えているのか、あの黒い影をもっと詳細に。

(「あなたはそこで、ひとをきりころしましたね。ぐんとうで」)

「あなたはそこで、人を斬り殺しましたね。軍刀で」

(くちをへのじにしてなきそうなかおをするいらいにんに、)

口をへの字にして泣きそうな顔をする依頼人に、

(ようしゃなくことばがあびせられる。)

容赦なく言葉が浴びせられる。

(「ぎりぐちがふかすぎる。せんじょうじゃない。)

「斬り口が深すぎる。戦場じゃない。

(むていこうのあいてにたいしてふりおろされたやいばですね」)

無抵抗の相手に対して振り下ろされた刃ですね」

(ししょうのひとみがおおきくなり、ひだりめのしたにゆびがはう。)

師匠の瞳が大きくなり、左目の下に指が這う。

(「せんじちゅうのことです。いまそれをひなんするつもりはありません。)

「戦時中のことです。今それを非難するつもりはありません。

(しかしせんそうがおわってあたらしいせいかつをおくりはじめても、)

しかし戦争が終わって新しい生活を送り始めても、

(あなたにはそのせいさんなきおくがずっとおしかかっていた。)

あなたにはその凄惨な記憶がずっと圧し掛かっていた。

(よる、うなされただろうとおもいます。ししゃのうらみ、おんねんをおそれたはずです。)

夜、うなされただろうと思います。死者の恨み、怨念を恐れたはずです。

(ひびえたいのしれないものおとに、けはいに、おびえていたでしょう。だから・・・・・」)

日々得体の知れない物音に、気配に、怯えていたでしょう。だから・・・・・」

(ししょうはたちならぶとうけんにめをやった。)

師匠は立ち並ぶ刀剣に目をやった。

(「べんきょうかいでひとをきったというかたなをみてから、あなたは「うわがき」を)

「勉強会で人を斬ったという刀を見てから、あなたは「上書き」を

(かんがえたのです。あるいはむいしきに。ひとをきりころしたかたながいえにあれば、)

考えたのです。あるいは無意識に。人を斬り殺した刀が家にあれば、

(そんなけはいやものおとも、すべてそのかたなについているものとおもいこめるからです」)

そんな気配や物音も、すべてその刀に憑いているものと思い込めるからです」

(そうか。)

そうか。

(わかった。)

分かった。

(そのためにれいのうりょくをやとってきて、そのおすみつきをもらいたかったのか。)

そのために霊能力を雇って来て、そのお墨付きを貰いたかったのか。

(くらもちしはなにもいえずにただこきゅうだけがあらい。)

倉持氏はなにも言えずにただ呼吸だけが荒い。

(さやのなかでかたながかたかたとなっている。)

鞘の中で刀がカタカタと鳴っている。

(「きょうわたしはこのうちにおじゃましていらい、なんのれいてきなけはいもかんじませんでした。)

「今日私はこの家にお邪魔して以来、なんの霊的な気配も感じませんでした。

(それはかたなをみてもおなじでした。しかしそんなれいはかたなについてはいないという)

それは刀を見ても同じでした。しかしそんな霊は刀に憑いてはいないという

(さきほどのへんとうともに、どこいもなかったはずのこのれいきがふきだしてきました。)

先ほどの返答ともに、どこいもなかったはずのこの霊気が吹き出してきました。

(いままでじぶんをくるしめたあくりょうが、じぶんではなくかたなについていたものなのかも)

今まで自分を苦しめた悪霊が、自分ではなく刀に憑いていたものなのかも

(しれないというきたいかんによってさっきまでそのそんざいをほりゅうされていたからです。)

知れないという期待感によってさっきまでその存在を保留されていたからです。

(きったぐんとうはここになくとも、ししゃのいちぶはあなたのこころのなかにのこっていた。)

斬った軍刀はここになくとも、死者の一部はあなたの心の中に残っていた。

(それがわたしのことばでそんざいをこうていされ、わきだしてきたのです」)

それが私の言葉で存在を肯定され、湧き出して来たのです」

(こうなってはもう。)

こうなってはもう。

(とししょうはいった。)

と師匠は言った。

(「ししゃのねんなのか、あなたのこころがうみだしたものなのか、くべつがつけられない」)

「死者の念なのか、あなたの心が生み出したものなのか、区別がつけられない」

(ちょうしょうがしゅういからながれてくるようなさっかくがあった。きもちのわるいけはいが、)

嘲笑が周囲から流れてくるような錯覚があった。気持ちの悪い気配が、

(うすくなったりこくなったりしながらまわりをただよっている。)

薄くなったり濃くなったりしながら周りを漂っている。

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