【衒学シリーズ】超長文タイピング１０

(とびらのかいほうは、まさにけいじにひとしく、)

扉の開放は、まさに啓示に等しく、

(こしつといううちゅうがそのみをあらわす。)

個室という宇宙がその身を現す。

(べんざにちゃくちしたしゅんかん、)

便座に着地した瞬間、

(じゅうりょくがみかたになるきせきがおとずれる。)

重力が味方になる奇跡が訪れる。

(おとははじけ、くうきがふるえ、)

音は弾け、空気が震え、

(えきたいはちじょうにかんげんされていく。)

液体は地上に還元されていく。

(それはただのはいしゅつではなく、)

それはただの排出ではなく、

(じくうのあみなおしであり、じこのさいこうちくである。)

時空の編み直しであり、自己の再構築である。

(あふれるものは、みずであり、いしきであり、)

あふれるものは、水であり、意識であり、

(そしてすこしの、してきなかいほうである。)

そして少しの、詩的な解放である。

(いきをはき、めをとじるとき、)

息を吐き、目を閉じるとき、

(そこにあるのは、かんりょうというなのあんねい。)

そこにあるのは、完了という名の安寧。

(はいにょうとは、せいりとせいしんのけっせつてんであり、)

排尿とは、生理と精神の結節点であり、

(がまんのはてにある、むごんのかんきである。)

我慢の果てにある、無言の歓喜である。

(われわれはりゅうたいであり、ようきであり、)

我々は流体であり、容器であり、

(どうじにおもさとかるさのはざまにいきている。)

同時に重さと軽さのはざまに生きている。

(ひとはなぜ、がまんするのか。)

人はなぜ、我慢するのか。

(それは、かいらくをさいだいかするちえであり、)

それは快楽を最大化する知恵であり、

(くつうとかんきをせつぞくするこころみである。)

苦痛と歓喜を接続する試みである。

(このこうぞうにこそ、にんげんのせっけいがある。)

この構造にこそ、人間の設計がある。

(はいにょうのすうびょうかんにおいて、)

排尿の数秒間において、

(せかいは、かんぜんなとうかへとしゅうそくする。)

世界は完全な等価へと収束する。

(かねもめいよも、かこもみらいも、)

金も名誉も、過去も未来も、

(ただのしずかないってきにとける。)

ただの静かな一滴に溶ける。

(そのきよめられたいっしゅんのなかで、)

その清められた一瞬のなかで、

(われわれはむとなり、みずとなる。)

我々は無となり、水となる。

(そのかくべつのかんかくを、)

その格別の感覚を、

(だれもがいちどはしっている。)

誰もが一度は知っている。

(それなのに、それについてかたらない。)

それなのに、それについて語らない。

(だが、それこそがしんのしぜんであり、)

だが、それこそが真の自然であり、

(もっともにんげんらしいしゅんかんかもしれない。)

もっとも人間らしい瞬間かもしれない。

(はいにょうとは、せいのあかしである。)

排尿とは、生の証である。

(ちんもくは、しばしばそんちょうされるが、)

沈黙は、しばしば尊重されるが、

(このちんもくにはこうぞうがある。)

この沈黙には構造がある。

(それはよくあつではなく、じゅんびである。)

それは抑圧でなく、準備である。

(くるべきかいほうの、したじである。)

来るべき解放の、下地である。

(にょういはたんなるしんごうではない。)

尿意は単なる信号ではない。

(それはないめんからのたいむすたんぷであり、)

それは内面からのタイムスタンプであり、

(しんたいというそうちのりまいんだーである。)

身体という装置のリマインダーである。

(しこうはこのしるしにより、ちにひきもどされる。)

思考はこの印により、地に引き戻される。

(ふゆうしていたいしきは、)

浮遊していた意識は、

(ぼうこうのおもみとともにせっちする。)

膀胱の重みとともに接地する。

(それはいたみではなく、じゅうりょくである。)

それは痛みではなく、重力である。

(そんざいをじっかんさせるしつりょうである。)

存在を実感させる質量である。

(といれにたどりつくしゅんかんまで、)

トイレに辿り着く瞬間まで、

(ひとはいのりににたちんもくをいきている。)

人は祈りに似た沈黙を生きている。

(それはぎじゅつをもってしてもだいたいされない、)

それは技術をもってしても代替されない、

(ただひとつのせいりてきげいじゅつである。)

ただひとつの生理的芸術である。