土の下 -3-

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師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
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問題文

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(ぬぐったたおるにはべっとりとちがついている。みまちがいではない。)

拭ったタオルにはべっとりと血がついている。見間違いではない。

(「だいじょうぶだっていってるだろ」)

「大丈夫だって言ってるだろ」

(ししょうはらんぼうにうでをふりはらうとまくりあげていたそでをもとにもどした、さわをわたりはじめた。)

師匠は乱暴に腕を振り払うと捲り上げていた袖を元に戻した、沢を渡り始めた。

(ぼくはしばらくたおるのちとししょうのせなかをみくらべていたが、)

僕はしばらくタオルの血と師匠の背中を見比べていたが、

(やがて「みなかったことにしょう」とけつろんづけててのなかのたおるをなげすてた。)

やがて「見なかったことにしょう」と結論付けて手の中のタオルを投げ捨てた。

(かんがえるだにおそろしいからだ。)

考えるだに恐ろしいからだ。

(そして「まってください」とそのせなかをおいかける。)

そして「待ってください」とその背中を追いかける。

(ししょうはまだまだやるきまんまんで、それからひがかんぜんにくれるまでに)

師匠はまだまだやる気満々で、それから日が完全に暮れるまでに

(さらににかしょではかをはっけんした。)

さらに二箇所で墓を発見した。

(やまあるきになれたひとのうしろをついていくだけでぼくはいきがあがり、)

山歩きに慣れた人の後ろをついて行くだけで僕は息が上がり、

(「もうかえりましょう」となんどもうったえたが、そんなことばなどむしして)

「もう帰りましょう」と何度も訴えたが、そんな言葉など無視して

(「こっちだ」とみちなきみちをまよわずすすまれると、)

「こっちだ」と道なき道を迷わず進まれると、

(ためいきをつきながらおいすがらざるをえないのだった。)

溜め息をつきながら追いすがらざるを得ないのだった。

(やまみちのそばでみつけたさいごのはかはぼめいもなく、)

山道の傍で見つけた最後の墓は墓名もなく、

(ちいさないしをふたつかさねただけのもので、)

小さな石を二つ重ねただけのもので、

(そうといわれなければきづかなかったにちがいない。)

そうと言われなければ気づかなかったに違いない。

(ししょうはてをあわせたままつぶやいた。)

師匠は手を合わせたまま呟いた。

(「こんなちいさなみすぼらしいはかをみるとさ、なんかうれしくなるな」)

「こんな小さなみすぼらしい墓を見るとさ、なんか嬉しくなるな」

(「なぜです」)

「なぜです」

(いがいなきがした。)

意外な気がした。

など

(「かねがなかったのか、えんがなかったのか・・・・・)

「金が無かったのか、縁が無かったのか・・・・・

(もしかしたらなまえもつけられないまましんだこどもだったのかもしれない」)

もしかしたら名前も付けられないまま死んだ子どもだったのかも知れない」

(「きちんとしたはかをたててもらえなかったひとのことが、なぜうれしくなるんです」)

「きちんとした墓を建ててもらえなかった人のことが、なぜ嬉しくなるんです」

(ししょうはしずかにかおをあげる。)

師匠は静かに顔を上げる。

(「それでも、そのひとがいたというあかしに、こんなちいさなはかがのこっている」)

「それでも、その人がいたという証に、こんな小さな墓が残っている」

(こけむしたいしのだいざにせんこうがにほん。けむりがゆったりとたちのぼっている。)

苔むした石の台座に線香が二本。煙がゆったりと立ち上っている。

(ししょうはうでをのばし、せんこうにみずをかけた。)

師匠は腕を伸ばし、線香に水を掛けた。

(「こうしててをあわせるひとだって、きまぐれにやってくる」)

「こうして手を合わせる人だって、気まぐれにやってくる」

(さあ、かえろうかといってたちあがった。)

さあ、帰ろうかと言って立ち上がった。

(ぼくもあわててりゅっくさっくからだしたものをかたづける。)

僕も慌ててリュックサックから出したものを片付ける。

(かえりみちはまっくらで、じさんしていたかいちゅうでんとうをそれぞれかかげた。)

帰り道は真っ暗で、持参していた懐中電灯をそれぞれ掲げた。

(きたときとはちがうみちだ。ししょうはちかみちのはずだという。)

来た時とは違う道だ。師匠は近道のはずだと言う。

(あしもとにもきをつけつつ、ししょうのせなかをみうしなわないようにみどおりのわるい)

足元にも気を付けつつ、師匠の背中を見失わないように見通りの悪い

(くだりざかをしんちょうにあるいたが、こころはさっきのちいさなはかにつなぎとめられていた。)

下り坂を慎重に歩いたが、心はさっきの小さな墓に繋ぎ止められていた。

((そのひとがいたというあかしか・・・・・))

(その人がいたという証か・・・・・)

(しはしをしなしむ、ということばがふいにうかんだ。だれかのよんだうただったか。)

死は死を死なしむ、という言葉がふいに浮かんだ。誰かの詠んだ歌だったか。

(ひとがしぬということは、そのひとのこころのなかにのこっている)

人が死ぬということは、その人の心の中に残っている

(かつてしんだちかしいひとびとのきおくがもういちど、)

かつて死んだ近しい人々の記憶がもう一度、

(そしてえいえんにきはつしてしまうということだ、といういみだったとおもう。)

そして永遠に揮発してしまうと言うことだ、という意味だったと思う。

(さっきのはかのあるじも、きっともうなんのきろくにも、)

さっきの墓の主も、きっともうなんの記録にも、

(そしてだれのきおくにものこっていないだろう。)

そして誰の記憶にも残っていないだろう。

(それでもいしはのこる。)

それでも石は残る。

(そのいみをかんがえていた。)

その意味を考えていた。

(ぼうっとしていると、ししょうのこえがとおくからきこえた。)

ぼうっとしていると、師匠の声が遠くから聞こえた。

(「おい」)

「おい」

(われにかえると、ししょうがみちのとちゅうでたちとまり、)

我に返ると、師匠が道の途中で立ち止まり、

(やぶのきれたわきみちのほうにかいちゅうでんとうをむけていた。)

藪の切れた脇道の方に懐中電灯を向けていた。

(「どうしたんです」)

「どうしたんです」

(よこがおがこころなしかきんちょうしているようにみえる。)

横顔が心なしか緊張しているように見える。

(「じさつだ」)

「自殺だ」

(「えっ」)

「えっ」

(おどろいてかけよる。)

驚いて駆け寄る。

(くさがおいしげり、いっけんしただけはみちだとおもわないようなばしょに、)

草が生い茂り、一見しただけは道だと思わないような場所に、

(だれかがとおったようなこんせきがたしかにある。)

誰かが通ったような痕跡が確かにある。

(ふまれてたおれたくさのむこうにかいちゅうでんとうをむける。)

踏まれて倒れた草の向こうに懐中電灯を向ける。

(ししょうとぼくのふたつのひかりがこうさし、てらしだされるさきにはちゅうにうかぶひとかげがあった。)

師匠と僕の二つの光が交差し、照らし出される先には宙に浮かぶ人影があった。

(くびつりだ。)

首吊りだ。

(おもわずなまつばをのみこむ。)

思わず生唾を飲み込む。

(くぼちのきのしたにひとがぶらさがっている。)

窪地の木の下に人がぶらさがっている。

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