注文の多い料理店(2/4)宮沢賢治

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1 ㅁㅁ 6317 S 6.5 96.5% 360.1 2360 85 49 2024/11/12

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問題文

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(ふたりはそこで、ひどくよろこんでいいました。)

二人はそこで、ひどくよろこんで言いました。

(「こいつはどうだ。やっぱりよのなかはうまくできてるねえ。)

「こいつはどうだ。やっぱり世の中はうまくできてるねえ。

(きょういちにちなんぎしたけれど。こんどはこんないいこともある。)

きょう一日なんぎしたけれど。こんどはこんないいこともある。

(このうちはりょうりてんだけれどもただでごちそうするんだぜ。」)

このうちは料理店だけれどもただでご馳走するんだぜ。」

(「どうもそうらしい。けっしてごえんりょはありませんというのはそのいみだ。」)

「どうもそうらしい。決してご遠慮はありませんというのはその意味だ。」

(ふたりはとをおして、なかへはいりました。そこはすぐろうかになっていました。)

二人は戸を押して、なかへ入りました。そこはすぐ廊下になっていました。

(そのがらすどのうらがわには、きんもじでこうなっていました。)

その硝子戸の裏側には、金文字でこうなっていました。

(「ことにふとったおかたやわかいおかたは、だいかんげいいたします」)

「ことに肥(ふと)ったお方や若いお方は、大歓迎いたします」

(ふたりはだいかんげいというので、もうおおよろこびです。)

二人は大歓迎というので、もう大喜びです。

(「きみ、ぼくらはだいかんげいにあたっているのだ。」「ぼくらはりょうほうかねてるから」)

「君、僕らは大歓迎にあたっているのだ。」「ぼくらは両方兼ねてるから」

(ずんずんろうかをすすんでいきますと、)

ずんずん廊下を進んで行きますと、

(こんどはみずいろのぺんきぬりのとがありました。)

今度は水色のペンキ塗りの扉(と)がありました。

(「どうもへんなうちだ。どうしてこんなにたくさんとがあるのだろう。」)

「どうもへんな家(うち)だ。どうしてこんなにたくさん戸があるのだろう。」

(「これはろしあしきだ。さむいとこややまのなかはみんなこうさ。」)

「これはロシア式だ。寒いとこや山の中はみんなこうさ。」

(そしてふたりはそのとびらをあけようとしますと、)

そして二人はその扉を開けようとしますと、

(うえにきいろなじでこうかいてありました。)

上に黄いろな字でこう書いてありました。

(「とうけんはちゅうもんのおおいりょうりてんですからどうかそこはごしょうちください」)

「当軒は注文の多い料理店ですからどうかそこはご承知ください」

(「なかなかはやってるんだ。こんなやまのなかで。」)

「なかなかはやってるんだ。こんな山の中で。」

(「それあそうだ。みたまえ、)

「それあそうだ。見たまえ、

(とうきょうのおおきなりょうりやだっておおどおりにはすくないだろう」)

東京の大きな料理屋だって大通りには少ないだろう」

など

(ふたりはいいながら、そのとびらをあけました。するとそのうらがわに、)

二人は云いながら、その扉をあけました。するとその裏側に、

(「ちゅうもんはずいぶんおおいでしょうがどうかいちいちこらえてください。」)

「注文はずいぶん多いでしょうがどうか一々こらえて下さい。」

(「これはぜんたいどういうんだ。」ひとりのしんしはかおをしかめました。)

「これはぜんたいどういうんだ。」ひとりの紳士は顔をしかめました。

(「うん、これはきっとちゅうもんがあまりおおくてしたくがてまどるけれども)

「うん、これはきっと注文があまり多くて支度が手間取るけれども

(ごめんくださいと、こういうことだ。」)

ごめん下さいと、こういうことだ。」

(「そうだろう。はやくどこかへやのなかにはいりたいもんだな。」)

「そうだろう。早くどこか室(へや)の中に入りたいもんだな。」

(「そしててーぶるにすわりたいもんだな。」)

「そしてテーブルに座りたいもんだな。」

(ところがどうもうるさいことは、またとびらがひとつありました。)

ところがどうもうるさいことは、また扉が一つありました。

(そしてそのわきにかがみがかかって、)

そしてそのわきに鏡がかかって、

(そのしたにはながいえのついたぶらしがおいてあったのです)

その下には長い柄(え)のついたブラシが置いてあったのです

(とびらにはあかいじで、)

扉には赤い字で、

(「おきゃくさまがた、ここでかみをきちんとして、)

「お客さまがた、ここで髪をきちんとして、

(それからはきもののどろをおとしてください。」とかいてありました。)

それから履物の泥を落としてください。」と書いてありました。

(「これはどうももっともだ。ぼくもさっきげんかんで、)

「これはどうも尤(もっと)もだ。僕もさっき玄関で、

(やまのなかだとおもってみくびったんだよ」)

山の中だと思って見くびったんだよ」

(「さほうのきびしいいえだ。きっとよほどえらいひとたちが、たびたびくるんだ。」)

「作法の厳しい家だ。きっとよほど偉い人たちが、たびたび来るんだ。」

(そこでふたりは、きれいにかみをけずって、くつのどろをおとしました。)

そこで二人は、きれいに髪をけずって、靴の泥を落としました。

(そしたら、どうです。ぶらしをいたのうえにおくやいなや、)

そしたら、どうです。ブラシを板の上に置くや否や、

(そいつがぼうっとかすんでなくなって、かぜがどうっとへやのなかにはいってきました。)

そいつがぼうっとかすんで無くなって、風がどうっと室の中に入ってきました。

(ふたりはびっくりして、たがいによりそって、)

二人はびっくりして、互いによりそって、

(とびらをがたんとあけて、つぎのへやへはいっていきました。)

扉をがたんと開けて、次の室へ入って行きました。

(はやくなにかあたたかいものでもたべて、げんきをつけておかないと、)

早く何か暖かいものでも食べて、元気をつけて置かないと、

(もうとほうもないことになってしまうと、ふたりともおもったのでした。)

もう途方も無いことになってしまうと、二人とも思ったのでした。

(とびらのうちがわに、またへんなことがかいてありました。)

扉の内側に、また変なことが書いてありました。

(「てっぽうとたまをここへおいてください。」)

「鉄砲と弾丸(たま)をここへ置いてください。」

(みるとすぐよこにくろいだいがありました。)

見るとすぐ横に黒い台がありました。

(「なるほど、てっぽうをもってものをくうというほうはない。」)

「なるほど、鉄砲を持ってものを食うという法は無い。」

(「いや、よほどえらいひとがしじゅうきているんだ。)

「いや、よほど偉い人が始終来ているんだ。

(ふたりはてっぽうをはずし、おびかわをといて、それをだいのうえにおきました。)

二人は鉄砲をはずし、帯皮を解いて、それを台の上に置きました。

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