セロ弾きのゴーシュ(5/9)宮沢賢治
・読み辛い箇所は、平仮名を漢字に直したり、句読点を追加している箇所があります
・「扉」の読みは、「と」で統一しました
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問題文
(するとかっこうは、またまるでほんきになって「かっこう、かっこう、かっこう」)
するとかっこうは、またまるで本気になって「かっこう、かっこう、かっこう」
(とからだをまげて、じつにいっしょうけんめいさけびました。)
と体を曲げて、実に一生けん命叫びました。
(ごーしゅははじめはむしゃくしゃしていましたが、)
ゴーシュは初めはむしゃくしゃしていましたが、
(いつまでもつづけてひいているうちに、ふっとなんだかこれはとりのほうが)
いつまでも続けて弾いているうちに、ふっと何だかこれは鳥の方が
(ほんとうのどれみふぁにはまっているかな、というきがしてきました。)
本当のドレミファにはまっているかな、という気がしてきました。
(どうもひけばひくほど、かっこうのほうがいいようなきがするのでした。)
どうも弾けば弾くほど、かっこうの方がいいような気がするのでした。
(「えい、こんなばかなことしていたら、おれはとりになってしまうんじゃないか。」)
「えい、こんな馬鹿な事していたら、俺は鳥になってしまうんじゃないか。」
(とごーしゅはいきなりぴたりとせろをやめました。)
とゴーシュはいきなりぴたりとセロをやめました。
(するとかっこうは、どしんとあたまをたたかれたようにふらふらっとして)
するとかっこうは、どしんと頭を叩かれた様にふらふらっとして
(それからまたさっきのように)
それからまたさっきのように
(「かっこう、かっこう、かっこう、かっかっかっかっかっ」といってやめました)
「かっこう、かっこう、かっこう、かっかっかっかっかっ」と云ってやめました
(それからうらめしそうにごーしゅをみて)
それから恨めしそうにゴーシュを見て
(「なぜやめたんですか。ぼくらならどんないくじないやつでも)
「なぜやめたんですか。僕らならどんな意気地無い奴でも
(のどからちがでるまではさけぶんですよ。」といいました。)
喉から血が出るまでは叫ぶんですよ。」と云いました。
(「なにをなまいきな。こんなばかなまねをいつまでもしていられるか。)
「何を生意気な。こんな馬鹿な真似をいつまでもしていられるか。
(もうでていけ。みろ。よがあけるんじゃないか。」)
もう出て行け。見ろ。夜が明けるんじゃないか。」
(ごーしゅはまどをゆびさしました。ひがしのそらがぼうっとぎんいろになって)
ゴーシュは窓を指さしました。東の空がぼうっと銀色になって
(そこをまっくろなくもが、きたのほうへどんどんはしっています。)
そこを真っ黒な雲が、北の方へどんどん走っています。
(「ではおひさまのでるまでどうぞ。もういっぺん。ちょっとですから。」)
「ではお日様の出るまでどうぞ。もう一ぺん。ちょっとですから。」
(かっこうはまたあたまをさげました。「だまれっ。いいきになって。このばかどりめ。)
かっこうはまた頭を下げました。「黙れっ。いい気になって。このばか鳥め。
(でていかんとむしってあさめしにくってしまうぞ。」)
出て行かんとむしって朝飯に食ってしまうぞ。」
(ごーしゅはどんとゆかをふみました。するとかっこうは、)
ゴーシュはどんと床を踏みました。するとかっこうは、
(にわかにびっくりしたように、いきなりまどをめがけてとびたちました。)
にわかにびっくりした様に、いきなり窓をめがけて飛び立ちました。
(そしてがらすにはげしくあたまをぶっつけて、ばたっとしたへおちました。)
そして硝子に激しく頭をぶっつけて、ばたっと下へ落ちました。
(「なんだ、がらすへ。ばかだなあ。」ごーしゅはあわててたって)
「何だ、硝子へ。馬鹿だなあ。」ゴーシュは慌てて立って
(まどをあけようとしましたが、がんらいこのまどは、)
窓を開けようとしましたが、元来この窓は、
(そんなにいつでもするするひらくまどではありませんでした。)
そんなにいつでもするする開く窓ではありませんでした。
(ごーしゅがまどのわくをしきりにがたがたしているうちに、またかっこうが)
ゴーシュが窓の枠をしきりにがたがたしているうちに、またかっこうが
(ばっとぶっつかって、したへおちました。みるとくちばしのつけねから)
ばっとぶっつかって、下へ落ちました。見ると嘴(くちばし)の付け根から
(すこしちがでています。「いまあけてやるからまっていろったら。」)
少し血が出ています。「今開けてやるから待っていろったら。」
(ごーしゅがやっとにすんばかりまどをあけたとき、かっこうはおきあがって)
ゴーシュがやっと二寸ばかり窓を開けた時、かっこうは起き上がって
(なにがなんでもこんどこそというように、じっとまどのむこうのひがしのそらをみつめて、)
何が何でも今度こそという様に、じっと窓の向こうの東の空を見つめて、
(あらんかぎりのちからをこめたかぜでぱっととびたちました。)
あらん限りの力を込めた風でぱっと飛び立ちました。
(もちろんこんどはまえよりひどくがらすにつきあたって)
もちろん今度は前よりひどく硝子に突き当たって
(かっこうはしたにおちたまま、しばらくみうごきもしませんでした。)
かっこうは下に落ちたまま、しばらく身動きもしませんでした。
(つかまえてどあからとばしてやろうとごーしゅがてをだしましたら)
捕まえてドアから飛ばしてやろうとゴーシュが手を出しましたら
(いきなりかっこうは、めをひらいてとびのきました。)
いきなりかっこうは、眼を開いて飛び退きました。
(そしてまたがらすへとびつきそうにするのです。ごーしゅはおもわずあしをあげて)
そしてまたガラスへ飛びつきそうにするのです。ゴーシュは思わず足を上げて
(まどをばっとけりました。がらすはにさんまい、ものすごいおとしてくだけ)
窓をばっと蹴りました。ガラスは二三枚、物凄い音して砕け
(まどはわくのままそとへおちました。そのがらんとなったまどのあとを)
窓は枠のまま外へ落ちました。そのがらんとなった窓の跡を
(かっこうがやのようにそとへとびだしました。そしてもうどこまでもどこまでも)
かっこうが矢の様に外へ飛び出しました。そしてもうどこまでもどこまでも
(まっすぐにとんでいって、とうとうみえなくなってしまいました。)
まっすぐに飛んで行って、とうとう見えなくなってしまいました。
(ごーしゅはしばらくあきれたようにそとをみていましたが、そのままたおれるように)
ゴーシュはしばらく呆れたように外を見ていましたが、そのまま倒れるように
(へやのすみへころがって、ねむってしまいました。)
室(へや)の隅へ転がって、眠ってしまいました。