桜雨 -19-(完)
師匠シリーズ
以前cicciさんが更新してくださっていましたが、更新が止まってしまってしまったので、続きを代わりにアップさせていただきます。
cicciさんのアカウント
https://typing.twi1.me/profile/userId/130158
cicciさんのアカウント
https://typing.twi1.me/profile/userId/130158
| 順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 1 | berry | 7880 | 神 | 8.0 | 98.2% | 456.8 | 3667 | 67 | 76 | 2026/04/29 |
関連タイピング
-
60秒です。
プレイ回数539 かな60秒 -
打ち切れたら天才だ
プレイ回数2.9万 歌詞540打 -
めっちゃいい曲....
プレイ回数4.7万 歌詞かな200打 -
ちょっと難しめに作りました!
プレイ回数695 長文かな1078打 -
テトリスサビ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
プレイ回数17万 歌詞かな167打 -
Mrs.GREEN APPLEの青と夏です!
プレイ回数17万 歌詞1030打 -
プレイ回数3666 歌詞かな1220打
-
最後まで打てるか!?筋トレなるかもw
プレイ回数364 歌詞かな1026打
問題文
ふりがな非表示
ふりがな表示
(ざびえるはそのあでやかなながいかみをそっとととのえ、にっこりをほほえむと、)
ザビエルはその艶やかな長い髪をそっと整え、にっこりを微笑むと、
(「ちいさなさくらね。でもかえってきた。やくそくどおり。)
「小さな桜ね。でもかえってきた。約束どおり。
(なにもかも、あなたのおかげよ」とささやいた。)
なにもかも、あなたのおかげよ」とささやいた。
(いつものたいいくけいのえんちょうのようなぞんざいなしゃべりかたとはまったくちがう。)
いつもの体育系の延長のようなぞんざいな喋り方とは全く違う。
(よそいきのこえ。いや、それがほんとうのこえだったのかもしれない。)
よそ行きの声。いや、それが本当の声だったのかも知れない。
(ひろさんはなんどもうなずいていた。なんども、なんども。)
ヒロさんは何度も頷いていた。何度も、何度も。
(「でもこれからは」)
「でもこれからは」
(ざびえるはすこしこえをつまらせて、それからまたほほえんだ。)
ザビエルは少し声をつまらせて、それからまた微笑んだ。
(「あなたじしんのためにいきて」)
「あなた自身のために生きて」
(そうしてとまっていたじかんがようやくうごきだしたのだった。)
そうして止まっていた時間がようやく動き出したのだった。
(ひときわつよいかぜがふいて、どろみずにぬれたわたしたちのふくをつめたくなでた。)
一際強い風が吹いて、泥水に濡れた私たちの服を冷たく撫でた。
(りくじょうぶのこもんがくびにかけたたおるであたまをふいている。)
陸上部の顧問が首にかけたタオルで頭を吹いている。
(がくのうえのあたりにどろがついて、それがそこにないはずのかみのけにみえた。)
額の上の辺りに泥がついて、それがそこにないはずの髪の毛に見えた。
(なんだかおかしい。)
なんだか可笑しい。
(わたしはめのまえにしせんをもどし、こえをかけようとして、いっぽまえにでた。)
私は目の前に視線を戻し、声を掛けようとして、一歩前に出た。
(「ざび・・・・・じゃなかった、のだせんせい」)
「ザビ・・・・・じゃなかった、野田先生」
(ざびえるはひろさんのてをにぎったままわたしのほうにかおをむけた。)
ザビエルはヒロさんの手を握ったまま私の方に顔を向けた。
(こんなにきれいなひとだったっけ。わたしはふと、そんなことをおもった。)
こんなに綺麗な人だったっけ。私はふと、そんなことを思った。
(つぎのひ、ひろさんはもうあのこうえんにいなかった。)
次の日、ヒロさんはもうあの公園にいなかった。
(やまをこえたさきにあるというこきょうにかえったのかもしれない。)
山を超えた先にあるという故郷に帰ったのかも知れない。
など
(きりさめのようなあめがふっていた。きのうのよるはんからふりはじめたあめは、)
霧雨のような雨が降っていた。昨日の夜半から降り始めた雨は、
(けさまでだんぞくてきにつづき、どうろやいえのやねやねをすっかりとぬらしていた。)
今朝まで断続的に続き、道路や家の屋根やねをすっかりと濡らしていた。
(わたしはそのなかをかさもささずにじてんしゃをこいでえきにむかった。)
私はその中を傘もささずに自転車を漕いで駅に向かった。
(あえないことはわかっていた。それでもえきのこうないにたった。)
会えないことは分かっていた。それでも駅の構内に立った。
(ぬれたかみをはんかちでふきながら。)
濡れた髪をハンカチで拭きながら。
(ひろさんは、あのとしおいたちいさなからだをひょこひょことうごかして、)
ヒロさんは、あの年老いた小さな身体をひょこひょこと動かして、
(ここからたびだっていったのだろうか。げんきでいてほしい。)
ここから旅立っていったのだろうか。元気でいてほしい。
(どこかしらない、そのばしょでも。)
どこか知らない、その場所でも。
(「ぎのためにいきる、の、ぎって、どんないみだ」)
「義のために生きる、の、義って、どんな意味だ」
(わたしはあのあとでざびえるにきいた。)
私はあの後でザビエルに聞いた。
(「ぎは、そうだな。ふるいことばで、でぃかいおしゅねーといって、ただしいこと。)
「義は、そうだな。古い言葉で、ディカイオシュネーと言って、正しいこと。
(そしてせいじつであるということ。だ。どうした。きりすときょうにきょうみがあるのか」)
そして誠実であるということ。だ。どうした。キリスト教に興味があるのか」
(「ばーか」)
「ばーか」
(そんなことばをえらんだざびえるにも、ふかいいとはなかったのかもしれない。)
そんな言葉を選んだザビエルにも、深い意図はなかったのかも知れない。
(ただ、そんなことのためにいきたひとが、いつかむくわれるといい。)
ただ、そんなことのために生きた人が、いつか報われるといい。
(わたしはそれだけをおもった。)
私はそれだけを思った。
(かんだかいおとがなった。)
甲高い音が鳴った。
(こうないあなうんすがれっしゃのしゅっぱつをつげたのだ。)
構内アナウンスが列車の出発を告げたのだ。
(あしもとにめをやると、はなびらがおちているのにきづく。)
足元に目をやると、花びらが落ちているのに気づく。
(ちいさなしろいはなは、ふみつけられてあしあとのかたちにゆかにはりついていた。)
小さな白い花は、踏みつけられて足跡の形に床に張り付いていた。
(さくらがさくころにふるあめのことを、さくらあめというそうだ。)
桜が咲くころに降る雨のことを、桜雨というそうだ。
(そしてそれは、さくらのはなをちらせるあめでもある。)
そしてそれは、桜の花を散らせる雨でもある。
(れいねんよりかいかがおそかったせいで、もうごがつだというのにほんのわずか)
例年より開花が遅かったせいで、もう五月だというのにほんのわずか
(のこっていたさくらは、それでもきのうからのあめですべてちってしまっただろうか。)
残っていた桜は、それでも昨日からの雨ですべて散ってしまっただろうか。
(めのまえでれっしゃがゆっくりとうごきだす。)
目の前で列車がゆっくりと動き出す。
(かおをあげると、ほーむにはれっしゃのまどにむかっててをふるおんなのこがいた。)
顔を上げると、ホームには列車の窓に向かって手を振る女の子がいた。
(れっしゃのまどからは、おなじようなとしかっこうのおんなのこが、)
列車の窓からは、同じような年恰好の女の子が、
(やはりみをのりだしててをふっている。)
やはり身を乗り出して手を振っている。
(はるはであいのきせつであり、わかれのきせつでもある。)
春は出会いの季節であり、別れの季節でもある。
(こうしてこのえきのほーむは、このはるにいくどものわかれをみとどけたことだろう。)
こうしてこの駅のホームは、この春に幾度もの別れを見届けたことだろう。
(そしててをふりあうひとびとのあいだにかわされるあたらしいやくそくを。)
そして手を振りあう人々の間に交わされる新しい約束を。
(わたしには、ふみつけられ、どろによごれてじめんにおしつけられたしろいはなが、)
私には、踏みつけられ、泥に汚れて地面に押し付けられた白い花が、
(あたらしいやくそくたちの、そのあかしのためのこくいんのようにおもえてならなかった。)
新しい約束たちの、その証のための刻印のように思えてならなかった。
(きょうすけさんのむかしばなしがおわった。)
京介さんの昔話が終わった。
(おれはざびえるとよばれていたじょせいがさっていったかいさつのむこうをみつめる。)
俺はザビエルと呼ばれていた女性が去っていった改札の向こうを見つめる。
(「ざびえるのほんみょうは、まつおせんせいじゃなかったんですか」)
「ザビエルの本名は、松尾先生じゃなかったんですか」
(「うん?」)
「うん?」
(なんだ、わからないのか。そんなかおできょうすけさんはくしょうした。)
なんだ、分からないのか。そんな顔で京介さんは苦笑した。
(「びじょは、やじゅうとけっこんしたんだよ」)
「美女は、野獣と結婚したんだよ」
(どうやら、あいあいかさはほんとうにじょうじゅしたらしい。)
どうやら、相合傘は本当に成就したらしい。
(これと、か。おれはおやゆびをたててくしょうする。)
コレと、か。俺は親指を立てて苦笑する。
(つまり、ざびえることのだせんせいは、ずっといちずにいいよっていた)
つまり、ザビエルこと野田先生は、ずっと一途に言い寄っていた
(りくじょうぶのこもんであるまつおせんせいのきゅうあいをうけいれたということだ。)
陸上部の顧問である松尾先生の求愛を受け入れたということだ。
(そしてせいもまつおにかわった。)
そして性も松尾に変わった。
(「それからだんなのほうがべつのがっこうにうつったけど、)
「それから旦那の方が別の学校に移ったけど、
(ざびえるのほうはわたしたちのがっこうにのこったんだ。)
ザビエルの方は私たちの学校に残ったんだ。
(わたしなんてさんねんかんもずっとあいつがたんにんだったんだぞ」)
私なんて三年間もずっとあいつが担任だったんだぞ」
(そのあいだ、ずいぶんしかられたらしい。なにしろひどいふりょうむすめだったのだから。)
その間、ずいぶん叱られたらしい。なにしろひどい不良娘だったのだから。
(「さむいな」)
「寒いな」
(きょうすけさんはそういって、まふらーをくびにまきなおす。)
京介さんはそう言って、マフラーを首に巻き直す。
(「くり、ありがとう」)
「栗、ありがとう」
(まだほのかなかこのよいんがのこるなか、きょうすけさんはちいさくてをふり、)
まだ仄かな過去の余韻が残る中、京介さんは小さく手を振り、
(さっそうとみをひるがえして、ひとでごったがえすえきのちかをあゆみさっていった。)
颯爽と身を翻して、人でごった返す駅の地下を歩み去っていった。
(はるか。)
春か。
(ふゆじたくのひとびとのむれのなかにきえていくきょうすけさんのせなかをみつめながら、)
冬支度の人々の群れの中に消えていく京介さんの背中を見つめながら、
(おれもまた、こころのどこかであたらしいはるを、もうまちはじめていた。)
俺もまた、心のどこかで新しい春を、もう待ち始めていた。