新美南吉 手袋を買いに①/④
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問題文
(さむいふゆがほっぽうから、きつねのおやこのすんでいるもりへもやってきました。)
寒い冬が北方から、狐の親子の棲んでいる森へもやって来ました。
(あるあさほらあなからこどものきつねがでようとしましたが、)
ある朝洞穴から子供の狐が出ようとしましたが、
(「あっ」とさけんでめをおさえながらかあさんぎつねのところへころげてきました。)
「あっ」とさけんで眼を抑えながら母さん狐のところへころげて来ました。
(「かあちゃん、めになにかささった、ぬいてちょうだいはやくはやく」といいました。)
「母ちゃん、眼に何か刺さった、ぬいて頂戴早く早く」と言いました。
(かあさんぎつねがびっくりして、あわてふためきながら、)
母さん狐がびっくりして、あわてふためきながら、
(めをおさえているこどものてをおそるおそるとりのけてみましたが、)
眼を抑えている子供の手を恐る恐るとりのけて見ましたが、
(なにもささってはいませんでした。)
何も刺さってはいませんでした。
(かあさんぎつねはほらあなのいりぐちからそとへでてはじめてわけがわかりました。)
母さん狐は洞穴の入口から外へ出て始めてわけが解りました。
(さくやのうちに、まっしろなゆきがどっさりふったのです。そのゆきのうえから)
昨夜のうちに、真っ白な雪がどっさり降ったのです。その雪の上から
(おひさまがきらきらとてらしていたので、ゆきはまぶしいほど)
お陽さまがキラキラと照らしていたので、雪は眩しいほど
(はんしゃしていたのです。ゆきをしらなかったこどものきつねは、)
反射していたのです。雪を知らなかった子供の狐は、
(あまりつよいはんしゃをうけたので、めになにかささったとおもったのでした。)
あまり強い反射をうけたので、眼に何か刺さったと思ったのでした。
(こどものきつねはあそびにいきました。)
子供の狐は遊びに行きました。
(まわたのようにやわらかいゆきのうえをかけまわると、ゆきのこが、)
真綿のように柔らかい雪の上を駈け廻ると、雪の粉(こ)が、
(しぶきのようにとびちってちいさいにじがすっとうつるのでした。)
しぶきのように飛び散って小さい虹がすっと映るのでした。
(するととつぜん、うしろで、)
すると突然、うしろで、
(「どたどた、ざーっ」とものすごいおとがして、ぱんこのようなこなゆきが、)
「どたどた、ざーっ」と物凄い音がして、パン粉のような粉雪が、
(ふわーっとこぎつねにおっかぶさってきました。)
ふわーっと子狐におっかぶさって来ました。
(こぎつねはびっくりして、ゆきのなかにころがるようにして)
子狐はびっくりして、雪の中にころがるようにして
(じゅうめーとるもむこうへにげました。)
十メートルも向こうへ逃げました。
(なんだろうとおもってふりかえってみましたがなにもいませんでした。)
何だろうと思ってふり返って見ましたが何もいませんでした。
(それはもみのえだからゆきがなだれおちたのでした。)
それは樅の枝から雪がなだれ落ちたのでした。
(まだえだとえだのあいだからしろいきぬいとのようにゆきがこぼれていました。)
まだ枝と枝の間から白い絹糸のように雪がこぼれていました。
(まもなくほらあなへかえってきたこぎつねは、)
間もなく洞穴へ帰って来た子狐は、
(「おかあちゃん、おててがつめたい、おててがtintinする」といって、)
「お母ちゃん、お手々が冷たい、お手々がTINTINする」と言って、
※NGワードの為、ローマ字表記にしてあります。
(ぬれてぼたんいろになったりょうてをかあさんぎつねのまえにさしだしました。)
濡れて牡丹色になった両手を母さん狐の前にさしだしました。
(かあさんぎつねは、そのてに、はーっといきをふっかけて、)
母さん狐は、その手に、はーっと息をふっかけて、
(ぬくといかあさんのてでやんわりつつんでやりながら、)
ぬくとい母さんの手でやんわり包んでやりながら、
(「もうすぐあたたかくなるよ、ゆきをさわると、すぐあたたかくなるもんだよ」)
「もうすぐ暖かくなるよ、雪をさわると、すぐ暖かくなるもんだよ」
(といいましたが、かあいいぼうやのてにしもやけができてはかわいそうだから、)
といいましたが、かあいい坊やの手に霜焼ができてはかわいそうだから、
(よるになったら、まちまでいって、ぼうやのおててにあうような)
夜になったら、町まで行って、坊やのお手々にあうような
(けいとのてぶくろをかってやろうとおもいました。)
毛糸の手袋を買ってやろうと思いました。