江戸川乱歩 赤い部屋⑱
順位 | 名前 | スコア | 称号 | 打鍵/秒 | 正誤率 | 時間(秒) | 打鍵数 | ミス | 問題 | 日付 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | difuku | 3728 | D+ | 3.9 | 94.9% | 490.6 | 1931 | 102 | 32 | 2024/12/09 |
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問題文
(かようにしてこんやのはなしての、ものすごくもきかいきわまるみのうえばなしはおわった。)
斯様にして今夜の話し手の、物凄くも奇怪極まる身の上話は終わった。
(かれはいくぶんちばしった、そしてしろめがちにどろんとしたきょうじんらしいめで、)
彼は幾分血走った、そして白眼がちにドロンとした狂人らしい目で、
(わたしたちききてのかおをひとりひとりみまわすのだった。)
私達聴者(ききて)の顔を一人一人見廻すのだった。
(しかしだれひとりこれにこたえてひはんのくちをひらくものもなかった。)
しかし誰一人これに答えて批判の口を開くものもなかった。
(そこには、ただうすきみわるくちろちろとまたたくろうそくのほのおにてらしだされた、)
そこには、ただ薄気味悪くチロチロと瞬く蝋燭の焔に照らし出された、
(しちにんのじょうきしたかおが、びどうさえしないでならんでいた。)
七人の上気した顔が、微動さえしないで並んでいた。
(ふと、どあのあたりのたれぎぬのおもてに、ちかりとひかったものがあった。)
ふと、ドアのあたりの垂絹の表に、チカリと光ったものがあった。
(みていると、そのぎんいろにひかったものが、だんだんおおきくなっていた。)
見ていると、その銀色に光ったものが、段々大きくなっていた。
(それはぎんいろのまるいもので、ちょうどまんげつがみつうんをやぶってあらわれるように、)
それは銀色の丸いもので、丁度満月が密雲を破って現われる様に、
(あかいたれぎぬのあいだから、じょじょにまったきえんけいをつくりながらあらわれているのであった。)
赤い垂絹の間から、徐々に全き円形を作りながら現われているのであった。
(わたしはさいしょのしゅんかんから、それがきゅうじおんなのりょうてにささげられた、)
私は最初の瞬間から、それが給仕女の両手に捧げられた、
(われわれののみものをはこぶおおきなぎんぼんであることをしっていた。でも、)
我々の飲み物を運ぶ大きな銀盆であることを知っていた。でも、
(ふしぎにもばんしょうをむげんかしないではおかぬこの「あかいへや」のくうきは、)
不思議にも万象を夢幻化しないでは置かぬこの「赤い部屋」の空気は、
(そのよのつねのぎんぼんを、なにかさろめげきのふるいどのなかからどれいが)
その世の常の銀盆を、何かサロメ劇の古井戸の中から奴隷が
(ぬっとつきだすところの、あのよげんしゃのなまくびののせられたぎんぼんのようにも)
ヌッとつき出す所の、あの予言者の生首の載せられた銀盆の様にも
(げんそうせしめるのであった。そして、ぎんぼんがたれぎぬからできってしまうと、)
幻想せしめるのであった。そして、銀盆が垂絹から出切ってしまうと、
(そのあとから、せいりゅうとうのようなはばのひろい、ぎらぎらしただんびらが、)
その後から、青竜刀の様な幅の広い、ギラギラしたダンビラが、
(にょいとでてくるのではないかとさえおもわれるのであった。)
ニョイと出て来るのではないかとさえ思われるのであった。
(だが、そこからは、くちびるのあついはんらたいのどれいのかわりに、)
だが、そこからは、唇の厚い半裸体の奴隷の代わりに、
(いつものうつくしいきゅうじおんながあらわれた。そして、かのじょがさもかいかつに)
いつもの美しい給仕女が現われた。そして、彼女がさも快活に
(しちにんのおとこのあいだをたちまわって、のみものをくばりはじめると、)
七人の男の間を立ち廻って、飲み物を配り始めると、
(その、せけんとはまるでかけはなれたまぼろしのへやに、)
その、世間とはまるでかけ離れた幻の部屋に、
(せけんのかぜがふきこんできたようで、なんとなくふちょうわなきがしだした。)
世間の風が吹き込んで来た様で、何となく不調和な気がし出した。
(かのじょは、このいえのかいかのれすとらんの、はなやかなかぶと)
彼女は、この家の階下のレストランの、華やかな歌舞と
(らんすいときゃあというようなわかいおんなのしだらないひめいなどを、)
乱酔とキャアという様な若い女のしだらない悲鳴などを、
(ふわふわとそのしんぺんにただよわせていた。)
フワフワとその身辺に漂わせていた。
(「そうら、うつよ」)
「そうら、射(う)つよ」
(とつぜんtが、いままでのはなしごえとすこしもちがわないおちついたちょうしでいった。)
突然Tが、今までの話し声と少しも違わない落ち着いた調子で云った。
(そして、みぎてをかいちゅうへいれると、ひとつのきらきらひかるぶったいをとりだして、)
そして、右手を懐中へ入れると、一つのキラキラ光る物体を取出して、
(ぬーっときゅうじおんなのほうへさしむけた。)
ヌーッと給仕女の方へさし向けた。
(あっというわたしたちのこえと、ばん・・・というぴすとるのおとと、)
アッという私達の声と、バン・・・というピストルの音と、
(きゃっとたまぎるおんなのさけびと、それがほとんどどうじだった。)
キャッとたまぎる女の叫びと、それが殆ど同時だった。