江戸川乱歩 屋根裏の散歩者⑯

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1 にこーる 4951 B 5.1 96.6% 540.8 2775 97 42 2024/02/20

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(それにしても、なんというらくらくとしたしにかただったでしょう。)

それにしても、何という楽々とした死に方だったでしょう。

(かのぎせいしゃは、さけびごえひとつたてるでなく、くもんのひょうじょうさえうかべないで、)

彼(か)の犠牲者は、叫声一つ立てるでなく、苦悶の表情さえ浮かべないで、

(いびきをかきながらしんでいったのです。)

鼾をかきながら死んで行ったのです。

(「なあんだ。ひとごろしなんてこんなあっけないものか」)

「ナアンダ。人殺しなんてこんなあっけないものか」

(さぶろうはなんだかがっかりしてしまいました。そうぞうのせかいでは、)

三郎は何だかガッカリしてしまいました。想像の世界では、

(もうこのうえもないみりょくであったさつじんということが、やってみれば、)

もうこの上もない魅力であった殺人という事が、やって見れば、

(ほかのにちじょうさはんじと、なんのかわりもないのでした。)

外の日常茶飯事と、何の変りもないのでした。

(このあんばいなら、まだなんにんだってころせるぞ。そんなことをかんがえるいっぽうでは、)

この塩梅なら、まだ何人だって殺せるぞ。そんなことを考える一方では、

(しかし、きぬけのしたかれのこころを、なんともえたいのしれぬおそろしさが、)

しかし、気抜けのした彼の心を、何ともえたいの知れぬ恐ろしさが、

(じわじわとおそいはじめていました。)

ジワジワと襲い始めていました。

(くらやみのやねうら、じゅうおうにこうさくしたかいぶつのようなむなぎやはり、そのしたで、)

暗闇の屋根裏、縦横に交錯した怪物の様な棟木や梁、その下で、

(やもりかなんぞのように、てんじょううらにすいついて、にんげんのしがいをみつめている)

守宮か何ぞの様に、天井裏に吸いついて、人間の死骸を見つめている

(じぶんのすがたが、さぶろうはにわかにきみわるくなってきました。みょうにくびすじのところが)

自分の姿が、三郎は俄かに気味悪くなって来ました。妙に首筋の所が

(ぞくぞくして、ふとみみをすますと、どこかで、ゆっくりゆっくり、)

ゾクゾクして、ふと耳をすますと、どこかで、ゆっくりゆっくり、

(じぶんのなをよびつづけているようなきさえします。おもわずふしあなからめをはなして、)

自分の名を呼び続けている様な気さえします。思わず節穴から目を離して、

(くらやみのなかをみまわしても、ひさしくあかるいところをのぞいていたせいでしょう。)

暗闇の中を見廻しても、久しく明るい所を覗いていたせいでしょう。

(めのまえには、おおきいのやちいさいのや、きいろいわのようなものが、)

目の前には、大きいのや小さいのや、黄色い環の様なものが、

(つぎつぎにあらわれてはきえていきます。じっとみていますと、そのわのはいごから、)

次々に現われては消えて行きます。じっと見ていますと、その環の背後から、

(えんどうのいようにおおきなくちびるが、ひょいとでてきそうにもおもわれるのです。)

遠藤の異様に大きな唇が、ヒョイと出て来そうにも思われるのです。

(でもかれは、さいしょけいかくしたことだけは、まずまちがいなくじっこうしました。)

でも彼は、最初計画した事だけは、先ず間違いなく実行しました。

など

(ふしあなからやくびん--そのなかにはまだすうてきのどくえきがのこっていたのです--を)

節穴から薬瓶--その中にはまだ数滴の毒液が残っていたのです--を

(ほうりおとすこと、そのあとのあなをふさぐこと、まんいちてんじょううらになにかのこんせきが)

抛り落とすこと、その跡の穴を塞ぐこと、万一天井裏に何かの痕跡が

(のこっていないか、かいちゅうでんとうをてんじてしらべること、そして、もうこれで)

残っていないか、懐中電燈を点じて調べること、そして、もうこれで

(ておちがないとわかると、かれはおおいそぎでむなぎをつたい、じぶんのへやへ)

手落ちがないと分ると、彼は大急ぎで棟木を伝い、自分の部屋へ

(ひきかえしました。)

引き返しました。

(「いよいよこれですんだ」)

「いよいよこれで済んだ」

(あたまもからだも、みょうにしびれて、なにかしらものわすれでもしているような、ふあんなきもちを、)

頭も身体も、妙に痺れて、何かしら物忘れでもしている様な、不安な気持を、

(しいてひきたてるようにして、かれはおしいれのなかできものをきはじめました。)

強いて引き立てる様にして、彼は押入れの中で着物を着始めました。

(が、そのときふときがついたのは、れいのもくそくにしようしたさるまたのひもを、)

が、その時ふと気がついたのは、例の目測に使用した猿股の紐を、

(どうしたかということです。ひょっとしたら、あすこへわすれてきたのでは)

どうしたかという事です。ひょっとしたら、あすこへ忘れて来たのでは

(あるまいか。そうおもうと、かれはあわただしくこしのあたりをさぐってみました。)

あるまいか。そう思うと、彼は慌しく腰の辺を探って見ました。

(どうもないようです。かれはますますあわてて、からだじゅうをしらべました。)

どうも無いようです。彼は益々慌てて、身体中を調べました。

(すると、どうしてこんなことをわすれていたのでしょう。それはちゃんと)

すると、どうしてこんなことを忘れていたのでしょう。それはちゃんと

(しゃつのぽけっとにいれてあったではありませんか。やれやれよかったと、)

シャツのポケットに入れてあったではありませんか。ヤレヤレよかったと、

(ひとあんしんして、ぽけっとのなかから、そのひもと、かいちゅうでんとうとをとりだそうとしますと、)

一安心して、ポケットの中から、その紐と、懐中電燈とを取出そうとしますと、

(はっとおどろいたことには、そのなかにまだほかのしなものがはいっていたのです。)

ハッと驚いたことには、その中にまだ外の品物が這入っていたのです。

(・・・どくやくのびんのちいさなこるくのせんがはいっていたのです。)

・・・毒薬の瓶の小さなコルクの栓が這入っていたのです。

(かれは、さっきどくやくをたらすとき、あとでみうしなってはたいへんだとおもって、)

彼は、さっき毒薬を垂らす時、あとで見失っては大変だと思って、

(そのせんをわざわざぽけっとへしまっておいたのですが、それをどうわすれしてしまって)

その栓を態々ポケットへしまって置いたのですが、それを胴忘れしてしまって

(びんだけしたへおとしてきたものとみえます。ちいさなものですけれど、)

瓶だけ下へ落として来たものと見えます。小さなものですけれど、

(このままにしておいては、はんざいはっかくのもとです。かれはおそれるこころをはげまして、)

このままにして置いては、犯罪発覚のもとです。彼は恐れる心を励して、

(ふたたびげんばへとってかえし、それをふしあなからおとしてこねばなりませんでした。)

再び現場へ取って返し、それを節穴から落として来ねばなりませんでした。

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