江戸川乱歩 屋根裏の散歩者㉑

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(はち)

(さぶろうは、そのとうざ、れいのめざましどけいのことが、なんとなくきになって、)

三郎は、その当座、例の目覚し時計のことが、何となく気になって、

(よるもおちおちねむれないのでした。)

夜もおちおち睡れないのでした。

(たとええんどうがじさつしたのでないということがわかっても、)

たとえ遠藤が自殺したのでないということが分っても、

(かれがそのげしゅにんだとうたがわれるようなしょうこは、ひとつもないはずですから、)

彼がその下手人だと疑われる様な証拠は、一つもない筈ですから、

(そんなにしんぱいしなくともよさそうなものですが、でも、それをしっているのが)

そんなに心配しなくともよさそうなものですが、でも、それを知っているのが

(あのあけちだとおもうと、なかなかあんしんはできないのです。)

あの明智だと思うと、なかなか安心は出来ないのです。

(ところが、それからはんつきばかりはなにごともなくすぎさってしまいました。)

ところが、それから半月ばかりは何事もなく過ぎ去ってしまいました。

(しんぱいしていたあけちもそのごいちどもやってこないのです。)

心配していた明智もその後一度もやって来ないのです。

(「やれやれ、これでいよいよだいだんえんか」)

「ヤレヤレ、これでいよいよ大団円か」

(そこでさぶろうは、ついにきをゆるすようになりました。)

そこで三郎は、遂に気を許す様になりました。

(そして、ときどきおそろしいゆめになやまされることはあっても、だいたいにおいて、)

そして、時々恐ろしい夢に悩まされることはあっても、大体に於て、

(ゆかいなひびをおくることができたのです。ことにかれをよろこばせたのは、)

愉快な日々を送ることが出来たのです。殊に彼を喜ばせたのは、

(あのさつじんざいをおかしていらいというもの、これまですこしもきょうみをかんじなかった)

あの殺人罪を犯して以来というもの、これまで少しも興味を感じなかった

(いろいろなあそびが、ふしぎとおもしろくなってきたことです。それゆえ、このごろでは、)

色々な遊びが、不思議と面白くなって来たことです。それ故、この頃では、

(まいにちのように、かれはうちをそとにして、あそびまわっているのでした。)

毎日の様に、彼は家(うち)を外にして、遊び廻っているのでした。

(あるひのこと、さぶろうはそのひもそとでよるをふかして、じゅうじごろに)

ある日のこと、三郎はその日も外で夜を更かして、十時頃に

(いえへかえったのですが、さてねることにして、ふとんをだすために、)

家へ帰ったのですが、さて寝ることにして、蒲団を出す為に、

(なにげなく、すーっとおしいれのふすまをひらいたときでした。)

何気なく、スーッと押入れの襖を開いた時でした。

(「わっ」)

「ワッ」

など

(かれはいきなりおそろしいさけびごえをあげて、にさんぽあとへよろめきました。)

彼はいきなり恐ろしい叫声を上げて、二三歩あとへよろめきました。

(かれはゆめをみていたのでしょうか。それとも、きでもくるったのではありませんか。)

彼は夢を見ていたのでしょうか。それとも、気でも狂ったのではありませんか。

(そこには、おしいれのなかには、あのしんだえんどうのくびが、かみのけをふりみだして、)

そこには、押入れの中には、あの死んだ遠藤の首が、髪の毛をふり乱して、

(うすぐらいてんじょうから、さかさまに、ぶらさがっていたのです。)

薄暗い天井から、さかさまに、ぶら下がっていたのです。

(さぶろうは、いったんはにげだそうとして、いりぐちのところまでいきましたが、)

三郎は、一旦は逃げ出そうとして、入口の所まで行きましたが、

(なにかほかのものを、みちがえたのではないかというようなきもするものですから、)

何か外のものを、見違えたのではないかという様な気もするものですから、

(おそるおそる、ひきかえして、もういちど、そっとおしいれのなかをのぞいてみますと、)

恐る恐る、引き返して、もう一度、ソッと押入れの中を覗いてみますと、

(どうして、みちがいでなかったばかりか、こんどはそのくびは、)

どうして、見違いでなかったばかりか、今度はその首は、

(いきなりにっこりとわらったではありませんか。)

いきなりニッコリと笑ったではありませんか。

(さぶろうは、ふたたびあっとさけんで、ひとっとびにいりぐちのところまでいってしょうじをあけると、)

三郎は、再びアッと叫んで、一飛びに入口の所まで行って障子を開けると、

(やにわにそとへにげだそうとしました。)

矢庭に外へ逃げ出そうとしました。

(「ごうだくん。ごうだくん」)

「郷田君。郷田君」

(それをみると、おしいれのなかではしきりにさぶろうのなまえをよびはじめるのです。)

それを見ると、押入れの中では頻りに三郎の名前を呼び始めるのです。

(「ぼくだよ。ぼくだよ。にげなくってもいいよ」)

「僕だよ。僕だよ。逃げなくってもいいよ」

(それは、えんどうのこえではなくて、どうやらききおぼえのある、)

それは、遠藤の声ではなくて、どうやら聞き覚えのある、

(ほかのひとのこえだったものですから、さぶろうはやっとにげるのをふみとどまって、)

外の人の声だったものですから、三郎はやっと逃げるのを踏み止まって、

(こわごわふりかえってみますと、)

恐々ふり返って見ますと、

(「しっけいしっけい」)

「失敬失敬」

(そういいながら、いぜんよくさぶろうじしんがしたように、)

そう云いながら、以前よく三郎自身がした様に、

(おしいれのてんじょうからおりてきたのは、いがいにも、あのあけちこごろうでした。)

押入れの天井から降りて来たのは、意外にも、あの明智小五郎でした。

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