怪人二十面相‗7
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問題文
(そうたろうしはおおきなこえでわらうのでした。でも、そのわらいごえには、)
壮太朗氏は大きな声で笑うのでした。でも、その笑い声には、
(なにかしらくうきょな、からいばりみたいなひびきがまじっていました。)
何かしら空虚な、からいばりみたいなひびきがまじっていました。
(「しかし、おとうさん、しんぶんきじでみますと、あいつはいくども、)
「しかし、おとうさん、新聞記事で見ますと、あいつはいく度も、
(まったくふかかいとしかかんがえられないようなことを、)
まったく不可解としかかんがえられないようなことを、
(やすやすとなしとげているじゃありませんか。)
やすやすとなしとげているじゃありませんか。
(きんこにいれてあるから、だいじょうぶだとあんしんしていると、)
金庫に入れてあるから、大じょうぶだと安心していると、
(そのきんこのせなかに、ぽっかりとおおあながあいて、なかのしなものは、)
その金庫の背中に、ポッカリと大穴があいて、中の品物は、
(なにもかもなくなっているというじつれいもあります。)
何もかもなくなっているという実例もあります。
(それからまた、ごにんのくっきょうなおとこが、みはりをしていても、)
それからまた、五人のくっきょうな男が、見はりをしていても、
(いつのまにか、ねむりくすりをのまされて、かんじんのときには、)
いつのまにか、ねむり薬を飲まされて、かんじんのときには、
(みんなぐっすりねこんでいたというれいもあります。)
みんなグッスリ寝こんでいたという例もあります。
(あいつは、そのときとばあいによって、)
あいつは、その時とばあいによって、
(どんなしゅだんでもかんがえだすちえをもっているのです。」)
どんな手段でも考えだす知恵を持っているのです。」
(「おいおいそういち、おまえ、なんだか、ぞくをさんびしてるようなくちょうだね。」)
「おいおい壮一、おまえ、なんだか、賊を賛美してるような口調だね。」
(そうたろうしは、あきれたように、わがこのかおをながめました。)
壮太朗氏は、あきれたように、わが子の顔をながめました。
(「いいえ、さんびじゃありません。でも、あいつをけんきゅうすればするほど、)
「いいえ、賛美じゃありません。でも、あいつを研究すればするほど、
(おそろしいやつです。あいつのぶきはわんりょくではありません。)
おそろしいやつです。あいつの武器は腕力ではありません。
(ちえです。ちえのつかいかたによっては、)
知恵です。知恵の使い方によっては、
(ほとんど、このよにできないことはないですからね。」)
ほとんど、この世にできないことはないですからね。」
(ちちとこが、そんなぎろんをしているあいだに、よるはじょじょにふけていき、)
父と子が、そんな議論をしているあいだに、夜はじょじょにふけていき、
(すこしかぜがたってきたとみえて、さーっとふきすぎるくろいかぜに、)
少し風がたってきたとみえて、サーッと吹きすぎる黒い風に、、
(まどがらすがことこととおとをたてました。)
窓ガラスがコトコトと音をたてました。
(「いや、おまえがあんまりぞくをかいかぶっているもんだから、)
「いや、おまえがあんまり賊を買いかぶっているもんだから、
(どうやらわしも、すこししんぱいになってきたぞ。ひとつほうせきをたしかめておこう。)
どうやらわしも、少し心配になってきたぞ。ひとつ宝石を確かめておこう。
(きんこのうらにあなでもあいていては、たいへんだからね。」)
金庫の裏に穴でもあいていては、たいへんだからね。」
(そうたろうしはわらいながらたちあがって、へやのすみのこがたきんこにちかづき、)
壮太朗氏は笑いながら立ちあがって、部屋のすみの小型金庫に近づき、
(だいやるをまわし、とびらをひらいて、ちいさなしゃくどうせいのこばこをとりだしました。)
ダイヤルをまわし、とびらをひらいて、小さな赤銅製の小箱をとりだしました。
(そして、さもだいじそうにこばこをかかえて、もとのいすにもどると、)
そして、さもだいじそうに小箱をかかえて、もとのイスにもどると、
(それをそういちくんとのあいだのまるてーぶるのうえにおきました。)
それを壮一君とのあいだの丸テーブルの上におきました。
(「ぼくは、はじめてはいけんするわけですね。」)
「ぼくは、はじめて拝見するわけですね。」
(そういちくんが、もんだいのほうせきにこうきしんをかんじたらしく、めをひからせていいます。)
壮一君が、問題の宝石に好奇心を感じたらしく、目を光らせて言います。
(「うん、おまえには、はじめてだったね。さあ、これが、かつてろしあこうていの)
「ウン、おまえには、はじめてだったね。さあ、これが、かつてロシア皇帝の
(あたまにかがやいたことのあるだいやだよ。」)
頭にかがやいたことのあるダイヤだよ。」
(こばこのふたがひらかれますと、めもくらむようなにじのいろがひらめきました。)
小箱のふたがひらかれますと、目もくらむような虹の色がひらめきました。
(だいずほどもある、じつにみごとなだいやもんどがろっこ、くろびろーどのだいざのうえに)
大豆ほどもある、じつにみごとなダイヤモンドが六個、黒ビロードの台座の上に
(かがやいていたのです。)
かがやいていたのです。
(そういちくんが、じゅうぶんかんしょうするのをまって、こばこのふたがとじられました。)
壮一君が、じゅうぶん鑑賞するのを待って、小箱のふたがとじられました。
(「このはこは、ここへおくことにしよう。きんこなんかよりは、おまえとわし、)
「この箱は、ここへおくことにしよう。金庫なんかよりは、おまえとわし、
(よっつのめでにらんでいるほうが、たしかだからね。」)
四つの目でにらんでいるほうが、たしかだからね。」
(「ええ、そのほうがいいでしょう。」)
「ええ、そのほうがいいでしょう。」
(ふたりはもう、はなすこともなくなって、こばこをのせたてーぶるをなかに、)
ふたりはもう、話すこともなくなって、小箱をのせたテーブルを中に、
(じっと、かおをみあわせていました。)
じっと、顔を見あわせていました。
(ときどき、おもいだしたように、かぜがまどのがらすどを、ことこといわせて)
ときどき、思い出したように、風が窓のガラス戸を、コトコトいわせて
(ふきすぎます。どこかとおくのほうから、はげしくなきたてるいぬのこえが)
吹きすぎます。どこか遠くのほうから、はげしく鳴きたてる犬の声が
(きこえてきます。)
聞こえてきます。
(「なんじだね。」)
「何時だね。」
(「じゅういちじよんじゅうさんぷんです。あと、じゅうななふん・・・・・・。」)
「十一時四十三分です。あと、十七分……。」
(そういちくんがうでどけいをみてこたえると、それっきり、ふたりはまた、)
壮一君が腕時計を見て答えると、それっきり、ふたりはまた、
(だまりこんでしまいました。みると、さすがごうたんなそうたろうしのかおも、)
だまりこんでしまいました。見ると、さすが豪胆な壮太朗氏の顔も、
(いくらかあおざめて、ひたいにはうっすらあせがにじみだしています。)
いくらか青ざめて、ひたいにはうっすら汗がにじみだしています。