魯迅 狂人日記①

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1 りく 5638 A 5.7 97.3% 457.4 2650 71 42 2024/11/01

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問題文

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(ぼうくんきょうだいすうにんはいずれもわたしのちゅうがくじだいのともだちで、ひさしくわかれているうち)

某君兄弟数人はいずれもわたしの中学時代の友達で、久しく分かれているうち

(たよりもとだえがちになった。さきごろふとたいびょうにかかったものがあるときいて、)

便りも途絶えがちになった。先頃ふと大病に罹った者があると聞いて、

(こきょうにかえるとちゅうたちよってみるとわずかにひとりにあった。)

故郷に帰る途中立寄ってみるとわずかに一人に会った。

(びょうきにかかったのはそのひとのおとうとで、きみがせっかくたずねてきてくれたが、)

病気に罹ったのはその人の弟で、君がせっかく訪ねて来てくれたが、

(ほんにんはもうすっかりぜんかいしてかんりこうほとなりぼうちへふにんしたとかたり、)

本人はもうスッカリ全快して官吏候補となり某地へ赴任したと語り、

(おおわらいしてにさつのにっきをだした。)

大笑いして二冊の日記を出した。

(これをみるととうじのびょうじょうがよくわかる。)

これを見ると当時の病状がよくわかる。

(きゅうゆうしょくんのけんじてもいいというので、もちかえっていちどくしてみると、)

旧友諸君の献じてもいいというので、持ち帰って一読してみると、

(びょうきははくがいきょうのたぐいで、はなしがすこぶるこんがらがり、すじがとおらずでたらめがおおい。)

病気は迫害狂の類で、話がすこぶるこんがらがり、筋が通らず出鱈目が多い。

(ひづけはかいてないがすみいろもしょたいもいちようでないところをみると、)

日付はかいてないが墨色も書体も一様でないところを見ると、

(いっときにかいたものではないことがあきらかで、ままれんらくがついている。)

一時に書いたものではないことが明らかで、間間連絡がついている。

(せんもんかがみたらこれでもなにかのやくにたつかとおもって、ことばのあやまりは)

専門家が見たらこれでも何かの役に立つかと思って、言葉の誤りは

(いちじもなおさず、きじちゅうのせいめいだけをとりかえていっぺんにまとめてみた。)

一字もなおさず、記事中の姓名だけを取換えて一篇にまとめてみた。

(しょめいはほんにんからへいゆみずからだいしたもので、そのままもちいた。)

書名は本人から平癒自ら題したもので、そのまま用いた。

(しちねんしがつふつかしるす。)

七年四月二日しるす。

(いち こんやはたいそうつきのいろがいい。おれはさんじゅうねんあまりもこれをみずにいたんだが、)

一 今夜は大層月の色がいい。俺は三十年余りもこれを見ずにいたんだが、

(こんやみるときぶんがことのほかさっぱりしてはじめてしった、まえのさんじゅうねんかんは)

こんやみると気分が殊の外サッパリして初めて知った、前の三十年間は

(まったくむちゅうであったこを。それにしてもようじんするにこしたことはない。)

全く夢中であったこを。それにしても用心するにこしたことはない。

(もしようじんしないでいいのなら、あのちょうけのいぬめがなんだって)

もし用心しないでいいのなら、あの趙家の犬めが何だって

(おれのめをみるのだろう。おれがおそれるわけがある。)

乃公の眼を見るのだろう。乃公が恐れる理がある。

など

(に こんやはまるきりつきのひかりがない。おれはどうにもへんだとおもって、)

二 今夜はまるきり月の光が無い。乃公はどうにも変だと思って、

(はやくからきをつけてもんをでたが、ちょうじいさんのめつきがおかしいぞ。)

早くから気をつけて門を出たが、趙貴翁の目付がおかしいぞ。

(おれをおそれているらしい。おれをやっつけようとおもっているらしい。)

乃公を恐れているらしい。乃公をやっつけようと思っているらしい。

(ほかにまだしちはちにんもいるが、どれもこれもあたまやみみやくっつけて)

ほかにまだ七八人もいるが、どれもこれも頭や耳やくっつけて

(おれのうわさをしている。おれにみられるのをおそれている。)

乃公の噂をしている。乃公に見られるのを恐れている。

(おうらいのひとはみなそんなふうだ。なかにもうすきみのわるい、もっともあくどいやつは)

往来の人は皆そんな風だ。中にも薄気味の悪い、最もあくどい奴は

(くちをおっぴろげてわらっていやがる。おれはあたまのてっぺんからあしのつまさきまで)

口をおっぴろげて笑っていやがる。乃公は頭の天辺から足の爪先まで

(ひいやりとした。わかった。かれらのてはいがもうちゃんとできたんだ。)

ひいやりとした。解った。彼らの手配がもうちゃんと出来たんだ。

(おれはびくともせずにあるいていると、まえのほうでいちぐんのこどもが)

乃公はびくともせずにあるいていると、前の方で一軍のこどもが

(またおれのうわさをしている。めつきはちょうじいさんとそっくりで、かおいろはみなてっせいだ。 )

また乃公の噂をしている。目付きは趙貴翁と酷似で、顔色は皆鉄青だ。

(いったいおれはなんだってこんなこどもからうらみをうけているのだろう。)

一体乃公は何だってこんな子供から怨みを受けているのだろう。

(とてもたまったものじゃない。おおごえをあげて「おまえはおれにわけをいえ」)

とてもたまったものじゃない。大声をあげて「お前は乃公にわけを言え」

(とどなってやるとかれらはいっさんににげだした。)

と怒鳴ってやると彼らは一散に逃げ出した。

(おれとちょうじいさんとはなにのうらみがあるのだろう。おうらいのひともまたなにのうらみが)

乃公と趙貴翁とは何の怨みがあるのだろう。往来の人もまた何の怨みが

(あるのだろう。そうだ。にじゅうねんまえ、こきゅうせんせいのふるちょうめんをふみつぶしたことがある。)

あるのだろう。そうだ。二十年前、古久先生の古帳面を踏み潰したことがある。

(あのときこきゅうせんせいはたいそうふきげんであったが、ちょうじいさんとかれはしりあいでないから、)

あの時古久先生は大層不機嫌であったが、趙貴翁と彼は識合いでないから、

(さだめてあのはなしをききつたえてふへいをひきうけ、おうらいのひとまでもおれにうらみを)

定めてあの話を効き伝聞えて不平を引受け、往来の人までも乃公に怨みを

(いだくようになったのだろう。だがこどもらはいったいどういうわけだえ。あのじぶん)

抱くようになったのだろう。だが子供等は一体どういうわけだえ。あの時分

(にはまだうまれているはずがないのに、なんだってへんなめつきでじろじろ)

にはまだ生まれているはずがないのに、何だって変な目付きでじろじろ

(みるのだろう。おれをおそれているらしい。おれをやっつけようとおもっている)

見るのだろう。乃公を恐れているらしい。乃公をやっつけようと思っている

(らしい。ほんとうにおそろしいことだ。ほんとうにいたましいことだ。)

らしい。本当に恐ろしいことだ。本当に痛ましいことだ。

(おおわかった。これはてっきりあいつらのおふくろがおしえたんだ。)

おお解った。これはてっきりあいつ等のお袋が教えたんだ。

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