魯迅 狂人日記⑥

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(おもてもんのそとにはおおぜいのひとがたっていて、ちょうきおうとかれのいぬもそのなかにまじって)

表門の外には大勢の人が立っていて、趙貴翁とかれの犬もその中に交って

(みなおそるおそるちかよってきた。)

皆恐る恐る近寄って来た。

(あるものはかおをみられぬようにほおかぶりをしていたようでもあった。)

ある者は顔を見られぬように頬かぶりをしていたようでもあった。

(あるものはやはりいつものあおづらででっぱをおさえてわらっていた。)

ある者はやはりいつもの青面で出歯を抑えて笑っていた。

(わたしはかれらがみなひとつなかまのしょくじんしゅであることをしっているが、)

わたしは彼等が皆一つ仲間の食人種であることを知っているが、

(かれらのかんがえがみないちようでないこともしっている。そのいっしゅはむかしからのしきたりで)

彼等の考えが皆一様でないことも知っている。その一種は昔からの仕来りで

(ひとをくってもかまわないとおもっているもので、ほかのいっしゅはひとをくってはいけないと)

人を食っても構わないと思っている者で、他の一種は人をくってはいけないと

(しりながら、やはりくいたいとおもっているものである。)

知りながら、やはり食いたいと思っている者である。

(かれらはたにんにせっぱされることをおそれているのでわたしのはなしをきくと)

彼等は他人に説破されることを恐れているのでわたしの話を聞くと

(ますますはらをたてぐちをとがらせてれいしょうしている。)

ますます腹を立て口を尖らせて冷笑している。

(このときあにきはたちまちきょうそうをあらわし、だいかついっせいした。)

この時アニキはたちまち兇相を現わし、大喝一声した。

(「みなでてゆけ、きちがいをみてなにがおもしろい」)

「皆出て行け、気狂を見て何が面白い」

(どうじにわたしはかれらのこうみょうなしゅだんをさとった。かれらはかいしんしないばかりか、)

同時にわたしは彼等の巧妙な手段を悟った。彼等は改心しないばかりか、

(すでにようじんぶかくてはいしてきちがいというなをわたしにかぶせ、)

すでに用心深く手配して気狂いという名をわたしにかぶせ、

(いずれわたしをたべるときにぶじにつじつまをあわせるつもりだ。)

いずれわたしを食べる時に無事に辻褄を合わせるつもりだ。

(みながひとりのあくにんをくったこさくにんのはなしもまさにこのほうほうで、)

衆が一人の悪人を食った小作人の話もまさにこの方法で、

(これこそかれらのじょうようしゅだんだ。)

これこそ彼等の常用手段だ。

(ちんろうごはぷんぷんしながらやってきた。)

陳老五は憤々しながらやって来た。

(どんなにわたしのくちをおさえようが、わたしはどこまでもいってやる。)

どんなにわたしの口を抑えようが、わたしはどこまでも言ってやる。

(「おまえたちはかいしんせよ。まごころからかいしんせよ。うん、わかったか。)

「お前達は改心せよ。真心から改心せよ。うん、解ったか。

など

(ひとをくうひとはしょうらいよのなかにいれられず、いきてゆかれるはずがない。)

人を食う人は将来世の中に容れられず、生きてゆかれるはずがない。

(おまえたちがあらためこころせずにいれば、じぶんもまたくいつくされてしまう。)

お前達が改心せずにいれば、自分もまた食い尽くされてしまう。

(なかまがふえればふえるほどほんとうのにんげんによってめつぼうされてしまう。)

仲間が殖えれば殖えるほど本当の人間に依って滅亡されてしまう。

(りょうしが、おおかみをかりつくすようにーーむしけらどうように」)

猟師が、狼を狩り尽すようにーー虫けら同様に」

(かれらはみなちんろうごにおいはらわれてしまった。)

彼等は皆陳老五に追い払われてしまった。

(ちんろうごはわたしにすすめてへやにかえらせた。)

陳老五はわたしに勧めて部屋に帰らせた。

(へやのなかはまっくらでよこばりとたるきがあたまのうえでふるえていた。)

部屋の中は真暗で横梁と椽木が頭の上で震えていた。

(しばらくふるえているうちに、おおいにもちあがってわたしのしんたいのうえにたいせきした。)

しばらく震えているうちに、大に持上ってわたしの身体の上に堆積した。

(なんというおもみだろう。はねかえすこともできない。)

何という重みだろう。撥ね返すことも出来ない。

(かれらのかんがえは、わたしがしねばいいとおもっているのだ。)

彼等の考えは、わたしが死ねばいいと思っているのだ。

(わたしはこのおもみがうそであることをしっているから、おしのけると、)

わたしはこの重みが嘘であることを知っているから、押除けると、

(からだじゅうのあせがでた。しかしどこまでもいってやる。)

身体中の汗が出た。しかしどこまでも言ってやる。

(「おまえはすぐにかいしんしろ、まごころからかいしんしろ、うんわかったか。)

「お前はすぐに改心しろ、真心から改心しろ、うん解ったか。

(ひとをくうやつはしょうらいいれられるはずがない」)

人を食う奴は将来容れられるはずがない」

(じゅういち たいようもでない。もんもひらかない。まいにちにどのごはんだ。)

十一 太陽も出ない。門も開かない。毎日二度の御飯だ。

(わたしははしをひねってあにきのことをおもいだした。わかった。いもうとのしんだわけもまったくかれだ。)

私は箸をひねってアニキの事を想い出した。解った。妹の死んだ訳も全く彼だ。

(あのときいもうとはようやくごさいになったばかり、そのいじらしいかわいらしいようすは)

あの時妹はようやく五歳になったばかり、そのいじらしい可愛らしい様子は

(いまもめのまえにある。ははおやはなきつづけていると、かれはははおやにすすめて、)

今も眼の前にある。母親は泣き続けていると、彼は母親に勧めて、

(ないちゃいけないといったのは、おおかたじぶんでくったので、)

泣いちゃいけないと言ったのは、大方自分で食ったので、

(なきだされたらたしょうきのどくにもなる。しかしはたしてきのどくにおもうかしら・・)

泣き出されたら多少気の毒にもなる。しかし果たして気の毒におもうかしら・・

(いもうとはあにきにくわれた。はははいもうとがなくなったことをしっている。)

妹はアニキに食われた。母は妹が無くなったことを知っている。

(わたしはまあしらないことにしておこう。ははもしっているにちがいない。)

わたしはまあ知らないことにしておこう。母も知っているに違いない。

(がないたときにはなにもいわない。おおかたあたりまえだとおもっているのだろう。)

が泣いた時には何も言わない。大方当り前だと思っているのだろう。

(そこでおもいだしたが、わたしがしごさいのとき、どうまえにすずんでいるとあにきがいった。)

そこで想い出したが、私が四五歳の時、堂前に涼んでいるとアニキが言った。

(おやのやまいには、こたるものはみずからひときれのにくをきりとってそれをにて、)

親の病には、子たる者は自ら一片の肉を切取ってそれを煮て、

(おやにくわせるのがよきひとというべきだ。)

親に食わせるのが好き人というべきだ。

(ははもそうしちゃいけないとはいわなかった。)

母もそうしちゃいけないとは言わなかった。

(ひときれくえばだんだんどっさりくうものだ。)

一片食えばだんだんどっさり食うものだ。

(けれどあのひのなきかたはいまおもいだしても、ひとのかなしみをもよおす。)

けれどあの日の泣き方は今想い出しても、人の悲しみを催す。

(これはまったくきみょうなことだ。)

これはまったく奇妙なことだ。

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