坊ちゃん(21)

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夏目漱石の坊ちゃん(21)です。

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問題文

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(おれはこんなくさったりょうけんのやつらとだんぱんするのはむなくそがわるいから、)

おれはこんな腐った了見の奴等と談判するのは胸糞が悪るいから、

(「そんなにいわれなきゃ、きかなくっていい。)

「そんなに云われなきゃ、聞かなくっていい。

(ちゅうがっこうへはいって、じょうひんもげひんもくべつができないのはきのどくなものだ」)

中学校へはいって、上品も下品も区別が出来ないのは気の毒なものだ」

(といってろくにんをおっぱなしてやった。)

と云って六人を逐っ放してやった。

(おれはことばやようすこそあまりじょうひんじゃないが、)

おれは言葉や様子こそあまり上品じゃないが、

(こころはこいつらよりもはるかにじょうひんなつもりだ。)

心はこいつらよりも遥かに上品なつもりだ。

(ろくにんはゆうゆうとひきあげた。じょうぶだけはきょうしのおれよりよっぽどえらくみえる。)

六人は悠々と引き揚げた。上部だけは教師のおれよりよっぽどえらく見える。

(じつはおちついているだけなおわるい。おれにはとうていこれほどのどきょうはない。)

実は落ち付いているだけなお悪い。おれには到底これほどの度胸はない。

(それからまたとこへはいってよこになったら、)

それからまた床へはいって横になったら、

(さっきのそうどうでかやのなかはぶんぶんうなっている。)

さっきの騒動で蚊帳の中はぶんぶん唸っている。

(てしょくをつけていっぴきずつやくなんてめんどうなことはできないから、)

手燭をつけて一匹ずつ焼くなんて面倒な事は出来ないから、

(つりてをはずして、ながくたたんでおいてへやのなかでよこたてじゅうもんじにふるったら、)

釣手をはずして、長く畳んでおいて部屋の中で横竪十文字に振ったら、

(かんがとんでてのこうをいやというほどぶった。)

環が飛んで手の甲をいやというほど撲った。

(さんどめにとこへはいったときはしょうしょうおちついたがなかなかねられない。)

三度目に床へはいった時は少々落ち付いたがなかなか寝られない。

(とけいをみるとじゅうじはんだ。かんがえてみるとやっかいなところへきたもんだ。)

時計を見ると十時半だ。考えてみると厄介な所へ来たもんだ。

(いったいちゅうがくのせんせいなんて、どこへいっても、)

一体中学の先生なんて、どこへ行っても、

(こんなものをあいてにするならきのどくなものだ。)

こんなものを相手にするなら気の毒なものだ。

(よくせんせいがしなぎれにならない。よっぽどしんぼうつよいぼくねんじんがなるんだろう。)

よく先生が品切れにならない。よっぽど辛抱強い朴念仁がなるんだろう。

(おれにはとうていやりきれない。それをおもうときよなんてのはみあげたものだ。)

おれには到底やり切れない。それを思うと清なんてのは見上げたものだ。

(きょういくもないみぶんもないばあさんだが、にんげんとしてはすこぶるたっとい。)

教育もない身分もない婆さんだが、人間としてはすこぶる尊とい。

など

(いままではあんなにせわになってべつだんありがたいともおもわなかったが、)

今まではあんなに世話になって別段難有いとも思わなかったが、

(こうして、ひとりでえんごくへきてみると、はじめてあのしんせつがわかる。)

こうして、一人で遠国へ来てみると、初めてあの親切がわかる。

(えちごのささあめがくいたければ、わざわざえちごまでかいにいってくらわしてやっても、)

越後の笹飴が食いたければ、わざわざ越後まで買いに行って食わしてやっても、

(くわせるだけのかちはじゅうぶんある。)

食わせるだけの価値は充分ある。

(きよはおれのことをよくがなくって、まっすぐなきしょうだといって、ほめるが、)

清はおれの事を欲がなくって、真直な気性だと云って、ほめるが、

(ほめられるおれよりも、ほめるほんにんのほうがりっぱなにんげんだ。)

ほめられるおれよりも、ほめる本人の方が立派な人間だ。

(なんだかきよにあいたくなった。)

何だか清に逢いたくなった。

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