坊ちゃん(20)

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夏目漱石の坊ちゃん(20)です。

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問題文

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(おれはさっそくきしゅくせいをさんにんばかりそうだいによびだした。するとろくにんでてきた。)

おれは早速寄宿生を三人ばかり総代に呼び出した。すると六人出て来た。

(ろくにんだろうがじゅうにんだろうがかまうものか。ねまきのままうでまくりをしてだんぱんをはじめた)

六人だろうが十人だろうが構うものか。寝巻のまま腕まくりをして談判を始めた

(「なんでばったなんか、おれのとこのなかへいれた」)

「なんでバッタなんか、おれの床の中へ入れた」

(「ばったたなんぞな」とまっさきのひとりがいった。やにおちついていやがる。)

「バッタた何ぞな」と真先の一人がいった。やに落ち付いていやがる。

(このがっこうじゃこうちょうばかりじゃない、せいとまでまがりくねったことばをつかうんだろう。)

この学校じゃ校長ばかりじゃない、生徒まで曲りくねった言葉を使うんだろう。

(「ばったをしらないのか、しらなけりゃみせてやろう」といったが、)

「バッタを知らないのか、知らなけりゃ見せてやろう」と云ったが、

(あいにくはきだしてしまっていっぴきもいない。)

生憎掃き出してしまって一匹も居ない。

(またこづかいをよんで、「さっきのばったをもってこい」といったら、)

また小使を呼んで、「さっきのバッタを持ってこい」と云ったら、

(「もうはきだめへすててしまいましたが、ひろってまいりましょうか」ときいた。)

「もう掃溜へ棄ててしまいましたが、拾って参りましょうか」と聞いた。

(「うんすぐひろってこい」というとこづかいはいそいでかけだしたが、)

「うんすぐ拾って来い」と云うと小使は急いで馳け出したが、

(やがてはんしのうえへじゅっぴきばかりのせてきて)

やがて半紙の上へ十匹ばかり載せて来て

(「どうもおきのどくですが、あいにくよるでこれだけしかみあたりません。)

「どうもお気の毒ですが、生憎夜でこれだけしか見当りません。

(あしたになりましたらもっとひろってまいります」という。こづかいまでばかだ。)

あしたになりましたらもっと拾って参ります」と云う。小使まで馬鹿だ。

(おれはばったのひとつをせいとにみせて)

おれはバッタの一つを生徒に見せて

(「ばったたこれだ、おおきなずうたいをして、ばったをしらないた、なんのことだ」)

「バッタたこれだ、大きなずう体をして、バッタを知らないた、何の事だ」

(というと、いちばんひだりのほうにいたかおのまるいやつが)

と云うと、一番左の方に居た顔の丸い奴が

(「そりゃ、いなごぞな、もし」となまいきにおれをやりこめた。)

「そりゃ、イナゴぞな、もし」と生意気におれを遣り込めた。

(「べらぼうめ、いなごもばったもおなじもんだ。だいいちせんせいをつかまえてなもたなんだ。)

「篦棒め、イナゴもバッタも同じもんだ。第一先生を捕まえてなもたなんだ。

(なめしはでんがくのときよりそとにくうもんじゃない」とあべこべにやりこめてやったら)

菜飯は田楽の時より外に食うもんじゃない」とあべこべに遣り込めてやったら

(「なもしとなめしとはちがうぞな、もし」といった。)

「なもしと菜飯とは違うぞな、もし」と云った。

など

(いつまでいってもなもしをつかうやつだ。)

いつまで行ってもなもしを使う奴だ。

(「いなごでもばったでも、なんでおれのとこのなかへいれたんだ。)

「イナゴでもバッタでも、何でおれの床の中へ入れたんだ。

(おれがいつ、ばったをいれてくれとたのんだ」)

おれがいつ、バッタを入れてくれと頼んだ」

(「だれもいれやせんがな」)

「誰も入れやせんがな」

(「いれないものが、どうしてとこのなかにいるんだ」)

「入れないものが、どうして床の中に居るんだ」

(「いなごはあたたかいところがすきじゃけれ、おおかたひとりでおはいりたのじゃあろ」)

「イナゴは温い所が好きじゃけれ、大方一人でおはいりたのじゃあろ」

(「ばかあいえ。ばったがひとりでおはいりになるなんて)

「馬鹿あ云え。バッタが一人でおはいりになるなんて

(ーーばったにおはいりになられてたまるもんか。)

ーーバッタにおはいりになられてたまるもんか。

(ーーさあなぜこんないたずらをしたか、いえ」)

ーーさあなぜこんないたずらをしたか、云え」

(「いえてて、いれんものをせつめいしようがないがな」)

「云えてて、入れんものを説明しようがないがな」

(けちなやつらだ。じぶんでじぶんのしたことがいえないくらいなら、てんでしないがいい)

けちな奴等だ。自分で自分のした事が云えないくらいなら、てんでしないがいい

(しょうこさえあがらなければ、しらをきるつもりでずぶとくかまえていやがる。)

証拠さえ挙がらなければ、しらを切るつもりで図太く構えていやがる。

(おれだってちゅうがくにいたじぶんはすこしはいたずらもしたもんだ。)

おれだって中学に居た時分は少しはいたずらもしたもんだ。

(しかしだれがしたときかれたときに、)

しかしだれがしたと聞かれた時に、

(しりごみをするようなひきょうなことはただのいちどもなかった。)

尻込みをするような卑怯な事はただの一度もなかった。

(したものはしたので、しないものはしないにきまってる。)

したものはしたので、しないものはしないに極ってる。

(おれなんぞは、いくら、いたずらをしたってけっぱくなものだ。)

おれなんぞは、いくら、いたずらをしたって潔白なものだ。

(うそをついてばつをにげるくらいなら、はじめからいたずらなんかやるものか。)

嘘を吐いて罰を逃げるくらいなら、始めからいたずらなんかやるものか。

(いたずらとばつはつきもんだ。ばつがあるからいたずらもこころもちよくできる。)

いたずらと罰はつきもんだ。罰があるからいたずらも心持ちよく出来る。

(いたずらだけでばつはごめんこうむるなんて)

いたずらだけで罰はご免蒙るなんて

(げれつなこんじょうがどこのくににはやるとおもってるんだ。)

下劣な根性がどこの国に流行ると思ってるんだ。

(かねはかりるが、かえすことはごめんだというれんちゅうは)

金は借りるが、返す事はご免だと云う連中は

(みんな、こんなやつらがそつぎょうしてやるしごとにそういない。)

みんな、こんな奴等が卒業してやる仕事に相違ない。

(ぜんたいちゅうがっこうへなにしにはいってるんだ。がっこうへはいって、うそをついて、ごまかして)

全体中学校へ何しにはいってるんだ。学校へはいって、嘘を吐いて、胡魔化して

(かげでこせこせなまいきなわるいたずらをして、)

陰でこせこせ生意気な悪いたずらをして、

(そうしておおきなつらでそつぎょうすればきょういくをうけたもんだとかんちがいをしていやがる。)

そうして大きな面で卒業すれば教育を受けたもんだと癇違いをしていやがる。

(はなせないぞうひょうだ。)

話せない雑兵だ。

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